わたしを殴って彼は骨折した

第1話 浮気がバレた

　浮気がバレた。

　親友の香織が彼に全部話してしまった。

　これぞ万事休す…

　この1年「別れよう」「別れてくれ」「もう好きじゃない」と何度も彼に言われてきた。その度に、あの手この手で彼を思いとどまらせ、結局わたしたちは別れなかった。そんなふたりのすったもんだは、周囲の人々にとって、まるでプロレスのようだったと思う。

　しかし、わたしの心はちゃんと傷ついていたし、浮気相手の誘いに初めて乗ったのも何回目かの別れ話の後で、泣きながら地下鉄に揺られていた夜だった。

　だから、これは所謂浮気なんかじゃない。（でも浮気じゃないと言えないのもわかっている）

　そもそも彼だって、別れたいと思っている相手が浮気をしてくれたなら、渡りに船のはずなのに、どうしてさっきから5秒と置かずに、怒りのメッセージを送って来るのだろう。これじゃぁLINEの通知だけで、残りわずかなスマホのバッテリーがなくなってしまう。

　こんなことになっても、「そうです浮気をしました。別れてください」と、わたしは言わないのだろう。

　代わりに言うのは「そうです浮気をしました。後悔しています。別れないでください」になるだろう。

　どうしてなのか、自分でもわからないのだけど。

　そう言えば、数分前からLINEの通知が止まっていた。

　さすがに彼も送信するのに疲れたのだろうと思っていた矢先、再びスマホがぶるぶると震える。

「包丁持って会いに行くからな」

　やはり、万事休すか…