終夜

目を開ける。


嫌なことを考えてしまうのは、最近起きていた嫌なことのせいだ。


そう考えて、考えを払拭する。


腕時計を見る。時間は、9:28。


焦ろうとも思ったが、特に焦りはしなかった。


机の脇にあった、知らないうちに持っているカードを裏返していく。


黛沙都子。

【療養者】

病気にかかっている際の係。勝利条件は、病気が治った時である。


また胸糞だった。

もう変なものを見たくなんかない。


我妻加那音。

【配布係】

運営側から、ものを渡すときの中継役。


これは知っている通り。


加藤雪。

【信者】

この係は、処刑、係の効果を無効にし、この人の意見が絶対に運営に適用される。


……そんな強いもん使ってて…


そして。

火乃香唯。


【イエスマン】


書いてあることは。俺の時とほぼ同じ。


あなたはゲーム中はいずれにせよ、否定をしてはならない。なんでもイエスと答えよ。もしノーを言った瞬間、あなたがリスナーの目的の人という、偽情報を流す。


と。違うのは。


『お前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだ』


と、びっしり、唯の字で書いてあった。


嫌悪感で俺は吐きそうになる。


…もう、嫌だ。


このまま、眠ってしまおうか。


そう思い、ベッドに体を投げ込む。


そのとき。上ですごい音が鳴った。

何があったんだろう。


まるで、爆破されたような音。


ダムウェーターの無機質なチーンという音と主に。


小窓が開き。そこからコロコロと何かが転がってきた。


そして、俺の目の前に、顔を向こう側に向けて止まった。


そう。生首が転がってきたのだ。

髪が長い。


…唯は、これぐらいの長さの髪だった。


その生首を見て、そう思ってしまった。


…ここで絶望してしまったら、唯の死は無駄になるんだ。


俺のせいだ。


そうだ、俺のせいで、死んだんだ。

俺が最初から関わらなければ。

彼女の秘密を知らなければ。

カードキーに彼女の係を書かなければ。

あの暗闇で、守ってあげられれば。


……そうだよな。


俺はベッドから立ち上がった。


カードはもう、28枚もある。

俺のも合わせて、29枚。


もう、人が死ぬのはご勘弁だが。

俺は俺のやるべきことをしなきゃいけない。


「桃宮梟だっけか……?」


その名を口にする。


俺の家族を殺して、こんなデスゲームを開催して、唯まで殺したんだ。


俺の友人も恋人も全員、死んでいった。


こんなことに復讐で燃えなくてどうするんだ。


俺は、部屋の扉を開けた。


 *


ホールには誰もいなかった。


ホワイトボードはそのままあった。


犯人なんてもういいか。全員、命が飛んだようなものだ。


どこを探索しようか。防護服はどこにいったかはわからないので、エレベーターは使えない。


ま、そんなもんいいか。


レーザを探して、床を破壊しりゃいい。下に部屋群があるのは知っている。


そのレーザは、3日目と4日目に見たな。


最後は美琴が持っていたはずだ。


では、美琴はどこから?

というか、尾根崎がそのレーザで死んだ。


待て。


ホワイトボードを乱雑に広げる。


人間ダルマになった奴は、いくついる?


尾根崎。


彼が。


尾根崎を殺した奴が裏切り者?

何も関与してない奴が、裏切り者?

裏切り者はいない?


何もかもを凌駕するんだろう?


黒幕ってもんは。


結局、行く場所はここしかない。


体育館。


錆びた、重くもなんともない扉を軽々開ける。


中から、声が聞こえてきた。


「くるうがはす、ふあおえけうど、しむあのしじゃく、ぎぃあんしど、めいどるかぐち!」


日本語とも、外国語とも聞こえる、謎の言語が聞こえる。


魔法の詠唱にも聞こえる。


加那音との会話を思い出し、ここはロールプレイングの世界じゃないことを思い出した。


なんちゃら神話のなんちゃらのストーリーの話のことだったか?


覚えてないが。

でも、そんなものが目の前で繰り広げられている。


一瞬夢の世界なのかと思って頬をつねったが、全くそんなことなかった。結構痛かった。


何かで、魔法陣が体育館の真ん中に広げられている。


そしてそこの真ん中に…。誰かの頭がない、死体が。


そしてその横に。


「はうどせや、がうしじぇい、がぅおあじぇけいあ、しゅかんふぃ、ぐろきあじぇぢ」


詠唱している、若草詩音。


「な、何してんだよ…」


魔法陣は血で描かれている。

そしてその魔法陣はだんだん光っていく。


「なんで…」


そして、その血が太陽みたいな光を放ったとき。

目を閉じて。


開いたとき。


俺の頭が完全におかしくなっていたことに気づいた。


そこには、死体が積み上げられていて、メラメラと燃え盛っていた。


そして、それを燃やしていたのは、2人。


若草詩音と、1人の防護服だ。

多分あの防護服は俺が持ってきたやつだろう。

一つ、死体が増える。


その顔は、流郷櫻子。


体育館には、燃える音と、腐った臭いと、もう一つ乱入してきた。


「あらあら、やってるねぇ!」


配信の声なんかじゃない。

体育館の上から、2人の女が降りてきた。


片方は、復讐をするためのやつだ。

もう片方は、その姉だ。


生きていたのか。


「じゃじゃ、最後の殺し合い、やってくれる?」


という、梟の声で。


「…当たり前だ。」

「やってやるよ。」

「…。」


三人は対峙する。


「さて、乙葉、お前には選択肢をあげるよ。今から死ぬか、ここで燃えるかだ。」


目の前でそいつは、何かを起動させた。

ぶぅ“ぅ“ぅ“んという音ともに起動させられたそれは、もちろんチェンソー。


「詩音…」

「今から5秒以内に答えろ。」


切られるよりは燃えた方が楽かもしれないな。


「…燃えてやるよ。」


「じゃ、こっちに来い。」


そして、言われるがままに、そいつの脇に立って。


「誰が勝手に死ぬかよばーか!!!」


詩音を炎の中に突き飛ばした。


もう、何が何だかわからない。


きっと、何も考えたくないのだろう。


「……これで終わらないってことはお前か。」


俺は、そっちの方に目を向ける。彼が死んでもゲームが終わりを告げないのだ。


「俺を殺そうってのか?」


その声は、後1人しか生きていないからわかっているけど。


雪弥、雹駕だった。


「当たり前だろ。」

「ふーん…」


そうして彼は、両手をポケットに入れ、左手を出した。


そこにはカードがあって。


読み上げを始めた。


「『【裏切り者】あなたは、みんなから殺される存在です。それから逃げながら、三人を殺したら、終わりです。その時点で、あなたの勝利が決まり、その時点で生きていた人が全員脱出になる。』っということだ」


そして、さらに右手を出した。

そこには、小さな機械がある。


「そして残り1人で、あなたは脱出が可能です。」


彼はレーザを取り出し、俺に襲いかかってきた。


「お前、美琴と付き合ってるだったよな!なんでなんだよ!」

「また同じような質問するな。家族みたいなものだったから、だ。」

「じゃぁ、なおさらだな!美琴を救いたかったのは、俺もだったんだよ!お前が、いたから隙から狙っていたのに!」


と、レーザを振り回している。


俺はそれを避ける。


なんなら、この体育館を逃げ出した方がいいな。


そう思い、扉を押したのだが。


「は!?あかねぇ!」


いきなり錆びついたように固まってしまった扉は、全然びくともしない。


他に誰がいるっていうんだ!?


押さえつけられているような感じがある。


そのとき、爆破音がしたことを思い出した。


その瞬間、壁が爆破された。


その瞬間、とんでもない風がそこに吹いた。


「は!?!?」


そしてレーザは風に引っ張られて、雹駕は、レーザで壁を破壊しながら、落ちていった。


「はいはい〜!しゅうりょー!」


と、梟と、唯が降りてきた。


が、同時に、穴の空いた壁から、警備員が入ってきた。


何やら、防弾チョッキを着て、銃を拵えている人がたくさん入ってきた。


「おい!大丈夫か!」


と、1人の男が近づいてくるが。


「だん」


と、大きな音ひとつで、その男は地に伏した。


「近づかないで、政府の犬が」


そう、いった彼女は、銃をその人たちに向ける。


「メメだろう?さっさと捕まったらどうだ?」

「…嫌だね、ここまで嗅ぎつけたのも、私がそうしたからだし。」


と、会話を始める、梟と、警察の人間。


「…だとしても、助けられる人間は助ける、それがうちらの仕事だ。」


と、警察の人間は、俺に近づいてくる。


「乙葉。教えてあげるよ。」


今初めて、唯が初めて喋った。


「真実は、嘘で塗り替えられるって。」


「そうだよ。乙葉お兄ちゃん。」


と。


久留米、梟は言った。


…そうだ。そうだった。


俺には妹がいる。

自宅で、写真見たじゃないか。


もういない両親と、妹が写っていただろう。


そして、妹は、美琴の家に預けていただろう。


その日の朝にスルッと会話に入ってきた梟は。


バスの中で、なぜか火乃香の横に座ったんだ。


…それはなぜ?


彼女らは、姉妹だ。元の。


片方は、俺の家にきて。


あぁ、あぁ。そうか。


だから、火乃香のことは。


覚えていたのか。


「じゃ、やることはひとつだな。」


俺は、その俺に向かってきたやつの膝を蹴飛ばす。


そして、そいつの銃を回収して。


「な、何をしてるんだぁ!!」


そいつの頭を撃った。


「いいね、私もそういうことしたい。」


と、梟は、銃を乱射し始めて。


そして、入ってきた警察の人は、全員死んでいった。


「終わったのか。」

「うん…終わったよ。」


そう、唯が言ったのだが。


「え!パラシュートが…」


梟は、そう言った後。

はっきりと言った。


「ここから脱出するためのパラシュートは二つしか残っていない。」

「え?」


「じゃ、お兄ちゃん、お姉ちゃん。2人でひとつ。もう一つ言ってあげるよ。嘘は真実を盾に守られてる。」


彼女は椅子をひとつ置いた。


「曲を流してあげる。だから、全部思い出して。お兄ちゃん。」


まさかの。


「先に座った方が勝ちだよ。」


こいつは。なぜこんなに色々言うのだろう。


俺はお前を殺せればいいのに。


それを止めるかのように。

音楽が流れ始めた。


 *


音楽が流れている。


椅子の周りを歩きながら。


聴覚を限界まで研ぎ澄まし、音楽が止まるのを今か今かと待ち侘びている。


そして、止まった瞬間。

俺は膝を抜き、体の軸を傾かせ、その反動で、バランスを崩しそうになりながら、椅子へと向かう。


先に…座った方が勝ち??


舐めたこと言ってんじゃねぇぞ。


俺は、火乃香より、半歩早く椅子に近い。

…そこで俺はする選択肢は。


思いっきり、椅子を蹴飛ばすことだ!!!!!


「おらぁぁぁ!!!!!」


途端、椅子は大きく吹っ飛び、体育館の壁に当たった後、何かが弾け、椅子と何かで分解した。


それは…


明らかに拳銃で。cr-10。俺が使っていた…


ドクン。



ドクン。



ドクン。


全部。全部思い出した。


俺は真っ先に銃へ向かう。

火乃香に勝てるように、懸命に走り、銃を。


先に取れた。


そして、銃口を彼女に向ける。


「やーっと、全部思い出したわ。」

『お、思い出してくれたの?』

「あったり前だ。お兄ちゃんが嘘ついたことがあったか?」

『ふふ、そうだね。』


俺は。昔、こんなふうにデスゲームに参加させられて。大人数で脱出できたはずだったんだ。


でも。殺し屋が来て。家族を殺して。復讐に燃えるように焚き付けたんだ。


そして、それは火乃香家も同じなのだ。


俺らは、殺し屋に復讐をするための、殺し屋の組織を作ったんだ。


だから、ナイフの避け方にも知識があったし、レーザを避けることだってできたのだ。


そして、俺は、復讐対象者に近づき、殺すために、記憶を無理矢理無くして、この高校に入ったのだ。


そしてその復讐対象者ってのが…


「…ばれちゃったか。」

「あぁ、ばれたぜ。俺ら久留米家を、他の家も襲撃した、殺し屋さん。」

「…あらら、バレバレ」

「なぁ、梟。」


俺は、妹であり、義妹であり、唯の妹でもあるそいつに話しかける。


『ん?なに。』

「俺はなんで記憶喪失してここにいた?」

『特に意味はないよ。ただ、復讐の目標をしっかり持ってるの君だけだったら、君は死んじゃうでしょ?』

「なるほどな。じゃ、これで終わりじゃないか。」


そう。これで終わり。


俺らの家族を襲って。殺して。

あの日俺にトラウマを植えつけ、“メメ”として記憶を刻んだ。


「火乃香唯、これで終わりだ。じゃあな」


そう言って引き金を絞る。

俺の愛銃はいとも容易く、銃弾を放ち。


炎の、煙で見えなくなったが、銃弾は彼女の頭を貫通した。


『やったねお兄ちゃん。やっと…仇を討てた。』

「あぁ、やっと…」


やっと。やっと殺せた。この十年間、記憶を塗り替えられ、美琴の家に閉じ籠り、情報を収集し、この、仇の場所を見つけ。


「今、ここにいる…」

『お兄ちゃん、そろそろいくよ。』

「ははっ、そうだな♪」


火乃香には復讐できたはいいが。

まだ、俺たちを襲った殺し屋集団はゴロゴロ生き残っている。


あの日、生きた時間は全部。復讐に当てるって決めてんだ。


「俺たちは道を間違えたんかな?」

「だとしたらだいぶ地獄の糸だけどね」

「切れる前提か、ま、それでいいかぁ。」

「私たちは道を間違えた。…でも。悔いも幸せのない、この道を選ばせたのは紛れもなく神様のせいででしょ?」


そう。俺たちは殺し屋。

復讐をするがために殺すのだ。


今回の復讐のためだけに。10年はかかっている。だから問おう。


僕/私/俺が。


「復讐をそんな簡単に済ませていいの?」


ってね。


「お兄ちゃん、いくよ?」

「あはっ、いいぜ♪…メメー、ってな♪」


と、俺は、が舞うように、くるくるとしながら、パラシュートを開いて、地上へと降りた。


 *


…はは、乙葉は最後に確認しないよねぇ。殺し屋としてそこはちゃんと仕事できないとさぁ。

「あぁーいった…」

代わりにした死体を投げ飛ばす。でも私は探さなきゃいけない。


そして、十分位探して。


「あはっ、あったぁ」


それは。遺伝子検査に回されていた、精液入りのカップ。

私は、それを掴んで、飲む。


「はは、この前のよりおいしくないや」


検査結果は、クルメオトハと、書いてある。


「良かったね、お兄ちゃん、近親相姦ギリギリのラインだよ?これ。」


そう。1日目に襲ったのも私。あの日、部屋を出ようとしたけど、どうせならと思って襲ったら、案外すんなりいけちゃって。そうそう。ルールを知ってないと襲えないって言ってた気がするけど。私は事前に知っていたし、乙葉の部屋で見たから。再三確認できたんだよ。

扉のちょっと開けて、自然に閉まるようにして、襲ったの。

これで違和感はないでしょ?


乙葉がうちの部屋に来た時の話が大体嘘だよ。よくよく思い出せば辻褄が合ってない場所とかもあったと思うけどなぁ。あ、でも梟館に来たのが2回目なのは本当だよ。


だって、私が企画したんだもの。出雲グループの協力もあって、場所は取れたし。

配信は、妹に任せて、しっかりと順序よく色々立てようかなと思ってたけど。

君は本当に鋭いから。声の主が違うだけで、本物かどうか見破っちゃう。


本当にすごいと思うよ。


でも、それを考えられるほど頭は回らないか。そう。この企画の一番最初のコンセプトはね、復讐だった。


メメが私を殺そうと復讐に躍起になっていたし、桜子は、美琴からのいじめ指示を受けていじめているのをやめたかったし、私は謎の好かれている奴らのことを引き剥がしたかったし、美琴は乙葉を独占したかったらしいけど。


君は気づいていたとしても、気が付かないふりをするでしょ?


後は…謎が解けたかだよね。


だって。


双子なのは、梟の方じゃないよ。

双子なのは、私。


裏の裏を返したみたいな真実だよね。


乙葉と唯が双子。

久留米家の方に、妹の梟がいて、そっちが兄妹みたいに育って。


「いいなぁ、私も欲しかったなぁ。」


私は、燃えさかる、宙に浮く建物の中で。ひたすら待って待って待ち続けて。


そして、助けに来た、デスゲーム捜査局にお世話になり。


の中から助かった、たった一の生き残りとなった。


「はは、また会いにいくからね、乙葉♪」


 *


【速報】

宙に浮いた建物から助かった奇跡の少女

高校生徒が30名、先生が一名閉じ込められた中、死者は、男性14名、女性14名の死体が回収されています。残り2人の遺体、クルメオトハと、ホノカユイの遺体は未だ発見されていません。

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Death Class 冬結 廿 @around-0

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