第八夜

起きたらそこは、ホールだった。

時間は真夜中、午前3時。


本当だったら死んでいるはず。


なのに死んでいないということは、メメが動けない状態なのかもしれない。


いや。唯を連れていったのだ。

…助けなきゃいけない。


俺がなんでこんなに唯に固執しているのだろう。…答えは出てるか。


あの顔と、声に、初恋のことを見出したからなんだ。


『今、絶望の顔をしている君はどんな気持ち?』


真っ暗なホールで立ち上がる。そこで何か一つ物を落とした音がした。


それは俺を気絶させた、スタンガンだった。


俺をそれを拾い上げて、電池がここにあるんだと思い出した。


…リモコンは、置いている場所は知ってるけど。真っ暗すぎて、今ホールのどこなのかわからない。


目が慣れるとかではない。灯ひとつもない。


スタンガンをつけると、少し小さな光が辺りを照らす。あたりには人が倒れている。


あいつらもスタンガンで、やられたのか。それとも…


いや、そんな話はいい。


とりあえず、この灯りで、リモコンの場所まで行かなければ。モニターをつければ、ホールが見えるくらいにはなるだろう。


…電気が通っていればの話だが。


また、ビリビリと、スタンガンをつけながら、一歩一歩倒れている人を避けながら歩く。


そこに。


「誰?」


冷ややかな声がこのホールに響いた。


俺は、それに酷くびっくりして、スタンガンを止めてしまって、落としそうになる。


だって、その声の主は。


「茅野…お前…!」


もう死んだと思っていた、茅野、結だったのだから。おかしい。

なんで…!なんで生きているんだ!?


「……夜の時間は、質問に答えなさい。あなたは、今死ぬ?それとも…私たちと一緒に、ゲームの運営側にまわる?」

「…。」


なるほど。死んだことになったのは、こういうことか。夜間のルールはわかった。


ここで死ぬか、必ず生きれる運営のもとに行くか。


…どうしようもないな。目の前に生きている奴がいるんだ。


「そっちにまわろう。」


俺は、俺の、“得”のために動かなきゃいけない。


「…ついてきなさい。」


そう言われて、連れて行かれたのは、中央のエレベーターの入り口。

入り口のボタンは、あるわけではなかった。


茅野そいつが着ている防護服に遠隔の機械があるんだろう。


扉が開き、そのエレベーターに乗る。


そして。


に向かった。


出たところは、廊下に両側に部屋がたくさんある場所。


エレベーターを出て、左には、一つの窓があった。


そこから見える景色は。


下に雲があり、青空が広がっている。

異質な空間だった。


それが上空であることに理解と把握に4秒かかった。


「さっさと歩け、乙葉。」

「あ、はいはい。」


諭されながら、長い廊下を歩く。


俺は、スタンガンをポケットに隠して、茅野結の後ろをついていく。


そして、一つの扉を開けて、そこに入った。


そこは壁際にロッカーがあり、他にも、3の防護服がいた。


あららぎさん、かしさん、ひいらぎさん、1人捕獲してきました。」


防護服を着ていない三人は、いくつも傷があり、見るだけで痛々しい奴らだった。


そして、隣の、茅野も、防護服を脱ぐ。


「さて、あなたで五人目ね。」


目の前にいる、そいつは俺に希望の目を向けていた。


…?


その目は、顔ではなく、少し斜め下。


俺のポケットを気にしている様子だった。


あぁ。そういうことか。


他の防護服は全員男だな。


「…んで?俺は何をするんだ?」


「まずは、防護服を着てもらう。」


と、防護服を着させられた。


中は、ナイトスコープ、素材は、耐電、耐火、耐傷みたいな万能な素材。


まぁ、これくらい情報を貰えばいいんじゃないか?


そして、俺がそれを脱いで。


の恒例を目にした。


まぁ、無理矢理犯している。


きしょいな。


「俺もやっていいか?」


俺は俺のために動くしかない。


防護服は、片手にもち、彼女に近づく。


「…ん」


彼女は、俺に体を預けてきた。


そして。

いきなりポケットからスタンガンを出し、茅野の首に当てて、最大出力する。


彼女はその行動を見て、ほっとしたような声を出した後。


「ぐぇっ」


と、非情な鳴き声をあげて、更に体を預けてきた。


俺は、部屋の扉を開けて。


彼女と、防護服を抱えて、全力疾走で、エレベーターまで戻る。


後ろから、他の防護服の奴らが、走ってきているが、あまり速くない。


ってことは、この防護服には、アシストスーツみたいな効果もあるのか?


そんなもんはいい。


エレベーターのボタンを連打する。その時くらいにしか、連打なんてしないな。


「ふざけんな!待て!」

「おい!止まれ!」

「俺のオナホールを返せ!クソが!」


散々言いやがって。


そいつらは、だんだん近づいてくる。


武器もないくせに。


俺は、スタンガンを向ける。そいつらは今丸腰だから。スタンガンくらいなら効く…!


その時、エレベーターがきた。茅野と、防護服を投げ、そいつらに電気を流す。


全然、戦ったことなんてないらしく、すぐに倒せた。そして、俺は何事もなく、防護服と、茅野を回収して、ホールに戻れた。


と、ここで気づく。チェンソー…は?


どこかにあったのだろう。

でも、そんな時間なかった。


 *


ナイトスコープで見えるようになった俺は、リモコンを探し出し、スタンガンと、リモコンの電池を入れ替えた。


そして。


テレビをつけた。


なぜだか知らないが、YouTubeの画面にすぐになり、メメのチャンネルへといく。そして、長期にわたる配信履歴を戻し。


【長期休暇前の配信】


のサムネを見つけた。


これが俺が最後に見た配信。

唯が、梟館にくる前にしていた配信だ。


そして、次が。


【初!企業とのコラボ概要配信!】


と、書いてある。


おもむろにそれをつけ、声入りまで飛ばす。


『あ、あ、聞こえてる?』


なんてことないいつものメメのように聞こえる。


こうして聞くと、違いが本当にない。


『あ、大丈夫そう。…そうそう、今回はコラボの話をしようと思ってるんだけど…。』


『その前に、ちょっとやることがあるから、ミュートにするね〜。』


と、配信が始めってすぐに席をたった、彼女。


ここできっと、俺らにアナウンスをしたのだろう。


内容を思い出す。


『えー、あー、聞こえてる?はろーえぶりわん。君たちがここに連れてこられたのは、とあるゲームに参加してもらうためです!と言っても色々言っておかないとね。君たちの外に助けを呼べる機械はこっちで回収させてもらった。君たちの部屋にあるのは、この屋敷内部にいる人たちとゲームを攻略する上で使うから頑張ってね。あと、君たちのキャリーケースはしっかり検査して、通信機器は除いた上で、部屋におかせてもらった。流石に着替えとか必要でしょ?あとはー…あ、先に言っとくね。君たちに助けはこないよ。って言うか、君たち、晴丘高校のいらないクラス3-Dなんて言われてるんだ。ねー、先生、これどー思うの?…あはは、そうだよねー。…さて。“ゲーム”の説明をしようか。まずみんな部屋から出て、中央ホールに集まって』


だった。


そして。


『ん、どう戻った?』


『さてさて、改めて。挨拶をしようかな?』


と、彼女は一拍置いて。


『こんメメー!昨日配信したばっかだけど、きてくれてありがとー!』


と、言った。

そして知っている通り。赤銅が殺されて。


『そう。裏切り者を殺せば勝ちになり、君たちはこんな地獄のようなゲームから逃げられるの。』


という一言を言った。俺に残っていることはここまでの記憶だ。


『地獄みたいなゲームってなに…かぁ』


彼女は言う。


『復讐に復讐を重ね合わせた、ただの寸劇…さ。』


と言って、配信は終わった。


全く、いい情報なんてありはしなかった。


腕時計を見る。そこには、午前5時と書いてあった。


さて、後、俺がやることはなんだろうか。


と、考えていると、後ろからするべきことは流れてくる。


「お前…なんで生きてんだ…!?」


その声は、出雲紗凪。


「…起きただけだ。お前こそ、なんで生きてるんだ?」

「私は…」


口は、動かない。


「一つ、俺はお前に言っておきたいことがある。お前、グルだろ。あっちと」

「…違うね、あくまで係さ。」

「…あぁ、知っているよ、夜、徘徊できる係があるとかないとか聞いていたからね。」

「…。」


と、彼女は静かになってしまった。

数十秒後。彼女から質問があった。


「じゃ、私からも一つ。あんた、美琴となんで付き合ってたの?」

「…なんでだろう。家族同然に過ごしてきたから、自然と?」

「…あいつ、嫌いだから、スカッとしたわ。だって、桜子がいじめた時、私たちが見ことにいじめられて。『今度乙葉になんかしたら殺す』って言われたのよ?」


……なるほどな。美琴がいじめしている奴らのことを操っていたのか。


いつからなのだろうか。もしかしたら、なつめさんの頃からやっていたというのであれば。


俺が言って止めなかきゃいけない状態だな。

でも、実際何もできなかったんだから。


「それはごめんだった。」

「…いいのよ。でも、そんなことに気づかないあなたはとんだ鈍感だと思っていたわ。」

「うん。でもさ」


と、そこで、何か一つの銃声がした。


撃たれたのは隣のやつだ。

そこで電気がついた。銃をこっちに向けているのは。


「お前も死んでもらう。」


椚丘だった。


「なんでだ?そして銃はどこで拾った?」

「…唯さんは…俺が好きだった人だ!」

「はぁ…」

「だってのに…お前と急に絡み出してから、お前といい感じになってたから!何もしないでやっていたのに!お前の所為で!お前の所為だ!」


そんな。感情に昂りを見せる。


「銃はどこで拾ったんだよ!」


「さっき殺したんだよ!瑛人をよぉ!!!」


あぁ、そうだ。瑛人を殺さなきゃ、銃は手に入らないもんな。


しかも、瑛人と椚丘は唯を取り合っていた。どちらかが殺せる道具と意味があるなら殺すだろう。


あぁ、人がどんどん減っていくなぁ。


「お前は、何も心が傷まないのか?」

「痛むわけねぇだろ、やっと殺せるんだ、いなくなっちまえばいいんだ!」


「心が痛むってことは、人間の心があるってことだよ。お前にはそれがないんだ。」

「は?何言ってんだよ。」

「だから…」


俺は、後ろにいるやつとアイコンタクトをとった。


「単純な作戦に引っかかりやすくなるのさ。」


そいつの後ろにいたのは、櫻子。


彼女は、彼の手から拳銃を叩き落とし。


その拳銃を俺の方へ蹴った。

そして。彼女はロープで彼の首を締め上げている。


まるで、紐で人を絞め殺すことに、手慣れているかのような。そんな手つきで。


椚丘は死んでいった。


俺は拳銃を拾い、リモコンの電池をスタンガンに入れ替えながら言う。


「お前が…」

「…はい、【死刑執行人】です。首を絞められた人は、私が殺した人です。」

「…そうか。」


俺はそれだけ言って。


やることをやろうと、色々した。


まず、死体からカードキーの回収。


まずは、茅野。

彼女にはカードキーが新しいものが配布されていて。


【ゲーム運営】

このゲームの運営を任された者。このゲームが終わったら処分される。


ひでぇな。ただの延命だったんだ。

俺はあっちに行かなくてよかったぜ。


次に、出雲。


【輸送係】

この係だけ、夜間の部屋に出る行為を許可する。指定の部屋から、指定のものを送るだけ。ゲームが終了した際に生きていた場合、確実に勝利する。


なるほどな。


だからあいつは妙に部屋の並びを知っていたり、武器の存在に驚きはしなかったのな。


次は、椚丘。


【総責任者】

このゲームがなんらかの形で勝敗がつけられなくなる、もしくは、ゲームが中止や、停止させられた場合、この係が生贄となり、その時点でゲームが終了となる。


つまり、ゲームを進めなきゃいけない係ってことか。

ゲームがなんらかで止まった時に死ぬ役だから、なるべくゲームを進めたいとそっちに誘導させるのだ。


俺は、そいつらを、死体安置所に運ぼうと、死体安置所の扉を開けた。

そこには、見るに堪えない。


渡瑛人の死体が転がっていた。


その脇には、供物のようにカードキーがあった。


そこに。


【生還者】

一度ゲームに置いて、死んだものとカウントされて、その後、1日だけ生き返る。その後は、生きられない。ちなみに、この一度死んでしまった場合の係名は、【傍観者】となる。


…傍観者。


この係名には見覚えがあった。


渡瑛人と…若草詩音。

彼らにはこの係が分け与えられていたはずだ。


つまり。

若草詩音も。生きているのか?


死体をそれぞれ、見えないように、ロッカーにしまい。


黙祷をした。隣にいた、櫻子も、同じように、黙祷をしていた。


ごめん美琴。

ごめん凛。

ごめん浩平。

ごめん尾根崎。

ごめん加藤。

ごめんなつめ。

ごめん…火乃香。


火乃香の遺体はまだなかった。希望と共に絶望まで叩きつけられたようで、嫌な気分だ。


「あの…最後に顔だけ見てもいいですか?」


そんな、櫻子の提案。


と言うので、死体を出すことに。


そして、一人一人の死体を改めて見た。もう腐りかけているのもいるし、匂いもきついので逃げたいのだが。


そんなことを思っていると。


「うん、ありがとう。」


と、俺の意識は遠のいていった。


 *


そして遠のいた先には。トラウマの世界が広がっていた。


俺は家出をしていて。帰ってきたら、両親が死んでいて。窓には、たった1人、女が立っていて。


『どんな気分?』

『今、絶望の顔をしている君はどんな気持ち?』


と、質問をしてくるのだ。


そいつの顔は。桃宮梟でもあるし、姉妹として似ている、火乃香唯でもある。


そしてそいつに。


「なんで僕は殺さないの?」


と、聞いたのだ。


もちろん、彼女は復讐が大好きな輩なので、俺に、復讐鬼になって欲しくて、こうしたのだろうと今では思う。


そんなことを聞いた彼女は、呆れて、どこかへいってしまったのだ。


だけど、俺はその代わりを見つけたのだ。


声でどことなく、似ていると思って、見ているんだろう。


それが、由良木メメ。


声が似てしまっているから、トラウマの記憶が塗り替えられて、メメが俺を襲撃しにきたような記憶になったのだろう。


そして、その時期は俺は、幼馴染の、織田川家に厄介になっていたのだ。


今なら加藤が言っていた不思議に答えられるな。


『っていうか、乙葉って、他の女子から告白とかされてるとこ見たことないなぁ、やっぱ、美琴さん一択なんですか?』


この不思議には答えが複数くらいあるな。


まぁ、俺が本当にモテない場合と、美琴が他の女子を脅していた場合と、その他か。


まぁ、高校に入ってからは、一人暮らしになったり、推しを追っかけたりと、より壊滅的になった品性と、人としての尊厳をなくし、3-D行きが決まったのだ。


そうだ。俺は3-Dの生徒だ。

なぜ忘れていたのだろうか。


このクラスには、社会不適合者がいっぱいいる。


ということは。


そもそも、前提がおかしいのか。

俺らのクラスは30人だったか?先生は1人だったか?このクラスには、同い年だけがいるとは限らないよな?


…そうだ。バスもあんなに席があった。もっと人がいたっておかしくないからだ。


実際、桃宮は同い年。

確かさっきの下の階にいた、塔、樫、柊ってやつも、一歳か二歳年上なだけな気がしていた。


嫌なことを考えると。


晴丘高校は、こうやって、学生を処分している…?

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