第七夜

朝。起きるとそこは、また、ホテルの部屋だった。


時刻は、8:47。


まぁ、行くか。


俺はカードを全部持って、部屋を出た。


絶対に許さない。俺はあんな楽しいことをしながらも、裏切った奴がいると思うと腹立たしくて仕方ない。


そこには。


8人いた。


病気を持っている、黛沙都子と、銃で撃たれた、朱鷺紅葉がいない。


『おっはよー!あれ、今日は2人もいないね。』


「そうだな。」


『さてさて。あれですかね?』


「…。」


『5分以内に連れてこなきゃ即死!ドキドキ、ハラハラ!デスミニゲームショウ!』


「なぁそのネーミングセンス、どうにかならねぇの!?」

『うっさいなぁ、生まれつきなの!これは私の才能よ、否定しないでくれる!?』


返しもちゃんとしてる。


ほんとにこいつ、メメの偽物なのか。

…いや。偽物なんだ。本物はここにいるから。


『じゃ、最初の挑戦者は、さっきいじった、乙葉からー』


『あ、ちょっと待ってね…』


そう言って彼女は、配信の画面から離れた。


「?」


途端。このホテルの部屋全体からガシャガシャと音がし始めた。


「何をした!?」


『あぁ、ごめんごめん、部屋の並びを一番最初の並びに戻したから。』


「え?」


『えっとね、部屋の分け方を見抜いていないとこれは、できないかもね。じゃ、行くよー!』

「おい、んなこと聞いてねぇぞ!」

『だって言ってないもん。』


『じゃ、よーい、スタート!』


残り5分で。2人をこのホールに連れてこないと、いけない。


「無理だろうが…」


俺は、手に持っていた、全部のカードを落とした。


「…終わった…」


「乙葉!?カード見てカード!」


「え?」


俺はカードを見る。


自分のカードの端に。

“sの部屋”と書いてあった。


「あえ、え!?」


落としたカードを広げる。


全部のカードに、部屋の場所が書いてある。


なんで今まで気づかなかったの!?


「ちょ!全員!並べるの手伝って!」


そして、全員で、s、o、bの部屋ごと、分ける。


規則性は。


「番号はそれぞれ若い順だな。」

「だけど…」


sとoとbの振り分けが明らか規則性がない。


sの部屋が。


赤銅大翔、伊藤桜子、梅津浩平、茅野結、草茅菊田、久留米乙葉、尾根崎山邊、流郷櫻子、若草詩音。


oの部屋が。


相蘇凛、織田川美琴、河井遼兎、佐藤なつめ、一響子、水橋雅、叢雨まみ、百合鏡華、六条藤花、渡瑛人。


bの部屋が。


神久弥、葉山颪、夜星龍斗、秋山秀斗。


「明らかBが少ねぇ!」

「私Bだよ。」


火乃香はB。


「あと、Bのやつは!?」

手を挙げるように指示をする。


加藤に、雪弥に…出雲?


「白い漢字のやつばっかだなぁ!」

でも、火乃香がいるってことは、赤がいるのでは?


紅葉。


もみじっていうのは、秋に葉っぱを赤くする植物だ。


あいつはここにいるとBは…9人。


sが9でoが10なのでこれぐらいが妥当だ!


「時間は!?」

「ちょうど半分!」

「考えてる暇はねぇ!」


俺は、カードキーを俺のだけ持って、Bの部屋群に走る。


1、2、3、4…空いた!


「紅葉さん!」

「あ、ごめん、まじで痛くて動けないんだ。」

「だから昨日も救護室にいれば…」


彼女は昨日、めっちゃ楽しそうにしていて、アドレナリンが出ていたのだろう。


流れで部屋に戻ったが、朝起きると痛すぎて出れなかったパターンだろう。


「とりあえず、素早く運び出すので、あんま、暴れないでください!」


と、俺は紅葉さんを抱えて、ホールに向かう。


「黛さんは、どこか見当ついた?」

「sの部屋だから、走って!多分、8番目!」


と、出雲が言った。


…よくわかったな。まるで知ってるみたいじゃねえか。


俺は、sの部屋群の道を走る。


s-8で、ドアノブを捻り、開ける!


「黛さん!」

「ごほっ、かはっ…」

「え!?な、何があったんですか?」


部屋は、見たくもないほど真っ赤に染まっていて。


トラウマと同じ匂いをした。つまり、真っ赤なものは血の匂い。


ドクン。


「…もう、無理。」


と、そこで黛さんは倒れてしまった。


でも、そんなもの気にしてられない。

心臓の鼓動も無視して。彼女に謝る。


「ごめんなさい。」


体が吐いた血で真っ赤な彼女を抱えて、一緒に真っ赤になりながら、ホールに戻る。


だって、このゲームは。連れてくれればいいんだから。


『ぴぴー!』


「黛さん!!」


彼女を下ろして、呼びかけをする。


『タイムは…4分56秒!いいねギリギリ。こっちまでドキドキしてきたよ。』


【うおぉぉぉ】

【やっぱ、すげぇよ、はいくニキ!!】

【さすがは俺らの期待の星だ!!】


「黛さん!?、おい!」


彼女の応答はなくなり。鼓動も止まった。


彼女は真っ赤に染まりながら。

血に溺れて、病気を悪化させながら、亡くなってしまった。

ドクン。


彼女の心臓は止まってしまったくせに、俺の心臓はトラウマに蝕されてどくどく脈打っている。


『ってことで、今日の朝の回は終わり。おつめめ!』


そんな無責任な発言をした後、彼女は闇に消えていった。


 *


「なぁ、誰か。黛がなんの病気にかかっているかわかるか?」

「原因不明の奇病だそうで。なんでかかってるのかも、なんの病気なのかもわからないと。ただわかるのは、精神状態で体調の良し悪しが変わるくらい…」


「なんだよ、それ。」


ここにきたら、体調悪化して、死ぬくらいまでストレス抱えて。


「許さない…」


残り9人。


絶対ここに、裏切り者がいる…。


考えろ。絶対に筋道はある。まずは、【代表者】からだ。そいつを潰さないと、裏切り者も潰せない。


佐藤なつめ。彼女が【代表者】だと。そう思っていたのだが。違う。


それは怪盗に取られ、なつめはほぼ無駄死にになったのだ。


では。その怪盗はいつ、なぜなつめを選んだのか?…。


「待て」


俺は、朱鷺紅葉を運んでいる、火乃香と、加那音に言った。また、俺の思考の中にも言った。


彼女は…彼女なら、絶対に選ぶ。そうだ。


「紅葉、お前の係はなんだ?」

「は?…」

「…答えられないよな。だってお前…」


お前は。


「お前が…!お前が【怪盗】だったんだろ!」

「ち、違う!そんなもん…」

「じゃ、今の係はなんだか言えるよなぁ!?!?」


あの日。なつめが俺に【代表者】だと言った日。彼女、朱鷺紅葉は同じ救護室に。寝ていたのだ。でも、起きているか寝ているかの確認なんかしているわけない。


そして、彼女は…


紅葉は。はぁと一息吐いた後。

楽しそうに笑った。そりゃ狂ったように。


「今の係ぃ!?そりゃさっさと死ねる、代表者だよ!撃たれた足が寝ても覚めても、痛いんだよ!!」


銃で足を撃たれている。


「いいか!中で打たれたとこは、穴が開くんだよ!しかも今の医療技術で、銃弾摘出も、痛み止めだってあったらやってるだろうね!でもここはそんなもんないんだよ!」


彼女は、非常に最低限な治療だけを受けた。止血に、傷口の縫合ほうごう。銃弾は体の中にあるし、痛み止めもないので痛いだけだし、銃弾は血管を貫いているわけでもなく、そのままで普通な生活ぐらいならできるという、あっち側の嫌な対応なんだろう。


「さっさと死にたいんだ!こんなに苦しまれるなら…さっさと死ぬね!」


そうかと言って。


「ちなみになぁ、私は元々、裏切り者だったんだよ!でも怪盗に持ってかれていいかなと思ってたら、銃で撃たれるし!ふざけんなよ‼︎」


全部、白状した。


「…連れてけ。救護室は開ける。」


運んでいた、火乃香も加那音も複雑そうな顔で。


「とりあえず、朱鷺は後で死んでもらう。そこで苦しんでおきな!」


と、救護室を出た。


実質残り8人。


「さて。あの紅葉を殺してから、次に殺すやつを選ぼう。」


「乙葉…お前…」

「…狂ってきたね。これが独裁者の魔力か。」


俺はもうおかしくなっている。でも、それに気づきたくない。


…このゲームに呑まれていたのは俺の方だったのかもしれない。


「…あぁ、そうだ。」


雪弥が口を開く。


「銃って多分、誰かが持ってきた荷物なんかじゃないよね?どの係が持ってきた?」


「係の内容をいっぱい持っているからわかるが…道具を作り出そうとしたやつがいた。」


【企業係】。


「そいつが銃やらレーザやらを作り、中継者に一度行ったんだ。」


【中継者】。


「そして、銃は殺し屋の元へわたり、暴走へと発展させた。」


【殺し屋】。


「…よくわかんない。」

「そりゃそうだ。この話には明らかに情報が足らなすぎる。」


だから。


「するんだよ、今から。今までの死人たちの現場検証。」


それは最初の。浩平の提案。


「こうすればだんだん絞れていくだろ?」


ということで、探偵ごっこの始まりだ。


探偵係だった、彼女。百合鏡華の部屋には、ホワイトボードがいくつかあった。そこには、勝手にまとめられた、その日の出来事や、死者。死に方。


これは使えるなと思い。全てをホールに運ぶ。


「始めるぜ、浩平。」

そう。1人でに呟いた。


 *


初日。


俺らが連れられてきた時、赤銅大翔が死んだ。


ちなみに梟館にいた時に、ビールを飲んでいたのは、出雲紗凪や我妻加那音の証言により、本当だということがわかった。


唯の情報より、梟は酒を飲む奴が嫌いという情報ももらっている。


その日は、俺が水橋に犯された以外にも、出来事が。


まず、秋山先生の謎行動。

テレビのリモコンを探して、電池を引き抜き、どこかに隠したらしい。


明らかにこの点で、先生は黒なのだが。


すぎたことは仕方ない。


そしてこの電池は、水橋によってスタンガンに使われた。


ここもグルだと言っていい。


2日目。


叢雨の遅刻。

桜子のプチ暴走。

バレてるカップリング。

これは草茅の仕業だろうと思っている。


草茅菊田が叢雨を庇って死んでいった。

これも、もう訳はわかっている。


3日目。


乙葉=廃改メ

起こる裁判、首を吊って死んだ先生。

これはとある係によって殺された。


暴走する尾根崎。

鉄串で頭を貫かれて死んだ、響子。

人間だるまになって死んだ尾根崎。

なぜ、人間ダルマになった?


刃物で心臓を貫かれた、百合。

【死刑囚】の否定してはならないを破って死んでいった、六条。

恋人と同じ死に方をした、夜星龍斗。


4日目。


美琴に殺された、凛、浩平、葉山、叢雨、詩音、瑛人。

処刑をされた、美琴。

その後、すぐに神も死んでいった。


ここで折り返しだ。


ゲームの提案者は、伊藤桜子。


秋山先生の声。悪い子は監視だけでなく、人が死ぬ極限までいかないと変わらないって。

だから、このゲームを出雲グループに依頼したのだ。


携帯が帰ってきても。外につながりはするが、声が届かない。


その時、茅野さんが紅葉を撃ったのだ。


そして。俺と唯だけが知ってる、由良木メメの話はしなかった。


そう。桃宮、梟。

彼女の復讐はここである。

そう。ここだ。このクラスに。火乃香唯に復讐を馳せている。


5日目。


水橋の騒動だ。

結果は、水橋の死亡。

そして、乙葉と火乃香の係が入れ替わる。


茅野は4日目の夜、部屋に入れなくて死亡。

なつめは自分で代表者だと告白。

ここで紅葉は話を聞いて、【怪盗】で係を入れ替えたのだ。

早く死ねるように。痛みから逃れられるように。


そこで、元独裁者によって、河井涼太は死に、投票で桜子も死んだ。


6日目。


代表者として。なつめが死んだ。

でも、その時の係は怪盗で。彼女が死ぬ意味はなかった。

この時の投票も何故か投票数が同数で、全員生存となった。


7日目。


黛は奇病にかかっており。

彼女は血を吐いて、自然に死んでいった。


…そう言う点では彼女は一番救われているのかもしれない。

変な殺し合いにも、処刑でもない。

ただの自然死。だから彼女はここでは1番救われていると言っても過言ではない。


そう、まとめた。

【探偵係】だった、百合さんの部屋から一枚のホワイトボードを持ってきた俺はそれを書き込んだ。


「今までに死んでいった人は、22人。」


もうそんなに死んだのか。口で言ってて軽く感じてしまう。


「そのうち、処刑で死んだのは、赤銅、草茅、夜星、美琴、久弥、桜子。」


「んで、係によって死んだのは、【死刑囚】より、六条、【独裁者】より、水橋、河井、なつめ。そして、誰かの係によって死んだ、秋山秀斗。」


「そして、最大の疑問点。3日目と4日目の死んでいったやつからすると、嫌だと思うが、死に方が、やけな死に方だった。」


「どーいうことすか?」

「まぁ、簡単に言えば、遊びで殺されたみたいに。レーザでいとも容易く殺されていたんだ。」


尾根崎の人間ダルマ。

美琴が騒動を起こした時の、使った武器。


「このレーザを作ったのは、紛れもなく、水橋だ。では、それを流したのは?」


尾根崎はBの部屋で、ロープを探していたところ、人間ダルマになってしまった。


もちろん、火乃香があそこで通り抜けて行った時、犯人だと思う奴がいてもおかしくない。


でも。

「3日目のとき、尾根崎が暴走状態になって、Bの部屋を探しにいったんだ。そして、その道をチェンソーマンが防いだ。つまり、ホールにいた奴は尾根崎を殺しにいけないんだ。」


「…それで、何が言いたいの?」

「あぁ、言ってやるさ。犯行はBの部屋にいるやつしか無理だったと言う話だ。」


昼は、部屋にいてもいいし、ホールにいてもいい。


ルール1

午前9:00までに全員ホールに集合すること。

11:00

117

911

自由時間に、投票、処刑、をする。


ルールにもそう書かれている。


ただし小部屋は殺される可能性は大きくなる。


それを犯してでも、人を殺さなきゃいけない奴は。


「俺はそいつが、裏切り者だと踏んでいるんだ。」

「で、でもっ!」


櫻子が反論してきた。

彼女は意を決したかのような顔と声で。切羽詰まった。そんな勢いと迫力で。


「私、見ました!火乃香さんがチェンソーを持った人の横をすり抜けていくのを!」


やっぱりいるよな。見ている奴が流石にいる。もしくは、していたりするのか…?


「じゃ、火乃香じゃん、そんなわざわざ危険を犯すってことは、裏切り者なんでしょ?」

「違う!!」


大声。


久しぶりに椚丘聖の声を聞いた。


「火乃香さんはそんなことしない!どうしても火乃香さんを殺すってんなら、俺を殺してからにしろ!」


あまりにも個人的すぎる。こいつのやり方は、草茅に似ている。


どちらも理由は対して変わらないだろう。

“好き”だからだ。

とっても人間らしくて、自分勝手な理由だ。


「って言ってるが、まずBの部屋のやつを絞ろう。」


Bの部屋でかつ今生きているのは。


出雲紗凪、加藤雪、火乃香唯、雪弥雹駕。

あとは朱鷺紅葉か。


「ということで、今の時点ではこいつらが容疑者となる。あーゆーおーけー?」


「ちょっといい?」


と、加那音が言った。


何をするのだろうか。そう思った瞬間。

加那音が、火乃香の左頬を引っ叩いた。

彼女は、今やらなきゃいけないと思ったから…。と、小さく言って。


「…六条から聞いた。唯、ここにいると何か不幸なことが起こるって。何か知ってるんでしょう?!」


「…。」


「きっと、あんたは見ていてさぞ面白いでしょうね、企画の人間なんでしょ?チェンソー持ったやつに怯えなくてもいいし、投票で名前あんた全然出てないじゃない?」


「…え、ちが」


「おかしいじゃない!!!!」


俺は、狼狽うろたえてしまった。もちろん、彼女の大声じゃない。唯のたった一つの小さな言葉だ。


___え、ちが


と彼女はいった。…言ってしまった。


「落ち着け、お前ら。」


諌めたのは、珍しい顔をしている、加藤だった。

今まで俺はこいつのおちゃらけた顔しか見てきていない。


「…なぁ、我妻さん、俺さ、バカだからわかんないけどさ。」

「…なによ」

「ここでこんな推理するのは間違っていると思わない?」

「え?」

「そんな情報あるなら、最初からやっていればよかったのにさぁ!」


…真面目な顔をしていたのはこのためか。


彼が持っていたのは、いつしか見た、カッター。


それがいきなり、彼女の首を刺した。


我妻の首から。いや、頸動脈から思いっきり血が噴出する。


噴水のように。


「あははははは!!!」


加藤はその大きなカッターを振り回す。


俺は、使い方を理解したボタンを押す。


学校のようなチャイムの音。

ピーンポーンパーンポーン。


この音を流すと。


『はいはーい、どう?推理は進んでる?』


彼女。メメはここを覗きにきてくれる。


「独裁者が命じる!加藤雪を処刑してくれ!」

『…残念だったねぇ。』

「え?」


「冥土の土産に教えてやるよ!俺の係はぁ、信者だ!」

「信者!?」

「火乃香を殺す前にテメェも殺してやるよ!せいぜい死に腐れや独裁者が‼︎」


素人が振り回す刃物は、避けにくい。

刃物を扱い、暗殺のプロならば、綺麗に脈や、急所を狙うのだ。


だが。加藤がカッターを振り回しているのを見る限り、明らかにど素人だ。


それでも俺は避けるしかできない。


「ほらほら、どうした?日和ってんのかよ!クルメオトハぁ!!!」


俺は咄嗟に機転を効かし、死体安置室、まぁ、ロッカールームに向かう。


開けるはもちろん、茅野結の死体が入ったロッカー。


こいつは銃を持っていたはずだ。


ロッカーを開けた瞬間。


ロッカーの中にいた人物は、銃を撃った。


その。人物は。


「よっ、乙葉、危なかったな。」


4日目に死んでいたと思っていた。


渡瑛人だった。


瑛人が撃った銃弾は、加藤の頭にヒットし。加藤の頭からピンク色の何かがこぼれてきた。


とりあえず、話はあとだ。


俺はホールに行き。


「独裁者が命じる、朱鷺紅葉を処刑しろ」


と、朱鷺紅葉は、いとも容易く、チェンソーで死んでいった。


そして、もう数えたくないくらいの掃除をこなして。


「今に至るわけか。」


ホール内にて、若干血がついているホワイトボードを目にした瑛人は、驚愕しながらも、理解をしていた。


「僕は、3日目から、潜伏をしようと決めてたんだ。」

「…どこで?」

「もちろん、ロッカールームで。葉山さんや、一さん、我妻さんと話してた時に、そういう人が必要だなと思って。」


「ってことは、ご飯は…」


「食べてないね。ぐーぐーだよ。」


とんでもないやろうだ。


お前に【ゾンビ】が当たっていたら、すぐに脱出したんだろうな。


「実は、4日目の夜のことなんだけど。茅野さんが、銃を持って誰かに連れられて行ったのさ。それで僕が緊急事態だなと思った時には、もう、茅野さんは死んでいたんだ。」


「…それは、どうやって死んでたんだ?」

「両腕、両足を切断されていた。」


…人間ダルマだ。


「誰がやったか知らないけどね、処理をするのには大変苦労したよ。」


あとね、と、瑛人は付け加える。

まるで子供が話しているみたいなテンションだな。


「…夜に動ける人もいるようだよ?」

「なんだと?」


…夜に動ける、係?


「最後に言っておこう。怪盗は動いたかい?」

「動いたな。そいつには苦しんだ。」


「…それ、3日目の朝に僕がなってたんだ。」

「え!?」

「3日目には、潜伏するって決めてたから、カード置きっぱで。多分、2日くらい動かなかったら、自動で動くんだろうね。」


怪盗の動きがわかってきた。


1日目、怪盗は、紅葉と係を入れ替え。


2日目、紅葉は瑛人と入れ替え。


3、4日は動かなくて、5日目、自動で紅葉。


その日に、紅葉はなつめが代表者だと知り、死ねるように交換した。


そして、6日目、怪盗だったなつめは死んでいった。


今までの怪盗の話を振り返るとこうなるんだ。


そこで。


『みんなー、久しぶりー!こんばメメ、だねっ!』


ハイテンションな、メメ。


『今日はね、2人目の嘘つきを晒しちゃおうと思います!』


嫌な予感がザラザラ走っている。


それは。


『ジャーン!!』


アカウント名。


“由良木メメ@150万人ありがとう”


そして、その下には。


『私はリアリティーデスゲームショーの参加者“ホノカユイ”です。私が由良木メメの配信を乗っ取った悪人です』


【どういうこと????】

【何が起きてるのかさっぱりわからない】

【ホノカがメメなら…メメは誰なの?】


なるほど。そりゃそうか。


俺は、変に身構えすぎたのかもしれない。


「…ねぇ、メメ。あなたは誰?」


火乃香はそう。言った。


『……』


ダンマリを決め込む、画面の由良木メメ。


そこにいた、火乃香は、小型マイクをつけた。


「知ってるわ。あなた、この前の乗っ取りの人でしょ、こんなことして許されると思ってるの?」


【!?】

【由良木メメが2人!?】

【こんな形で顔出しすることになったメメちゃんかわいそう】


火乃香は、由良木メメの。本当の声で応じている。


『ふふ、あはは!!』


突然、画面のメメは笑い始めた。


『何を言ってるのかしら?あなたこそ、私の乗っ取りでしょう?そんなボイスチェンジャーまで作ってくれて。あ、そうだこの前のも、少し調整が甘かったから、隣にいるオトハにバレたんでしょ〜?』


突然の早口。

オタク特有のやつだ。


「焦ってるの?私の乗っ取りさん。さっさとそんなことやめてくれないかしら?」


『…っさいわね…』


「…ん?何かしら?」


『うるっさいわね、姉だからって文句いっぱい言いやがって!?だから唯は家族から見捨てられて、学校で見捨てられて、今、私からも見捨てられるんだよ!!!』


突如、配信が切れ、画面が真っ暗になった。


突如、サイレンがなり、あたりが真っ暗になる。


隣の火乃香は手を握ってきた。まぁ無理もないだろう。


目を凝らすと、防護服と一緒に、誰か女の子が来ている。


一瞬でその姿が視認できた。


そいつは。


桃宮、梟…!


顔が見えて、思い出した。


こいつは…俺の家族を殺した…


『今、絶望の顔をしている君はどんな気持ち?』

ドクン。


俺は。数年前に家族を失っている。


両親、妹。3人だ。

ドクン。


その日以来、人が嫌いになってしまっていた。


そして、何か依存できるものはないかと入り込んだのは。


Vtuberだった。

きっと何かの縁でもあるんだろう。


声、だろうか?

ドクン。


俺の家族を殺した奴の声が、笑い声が、高らかな声が。


あの、人の狂ったような、獣の雄叫びのような、死人の空耳のような、そんな、おかしな笑い。


この笑いが、忘れようとも忘れられなくて。


そして。その声に。初恋を委ねてしまったのだろう。


…そうか。だから…


今までの自分の行動のおかしさに初めて気がついた。


…意識が現実に帰る。


いや、待て。

顔が見えた?暗闇なのに?


その答えを出すまでの時間はなくて。


「ぎゃ」


という、声と、防護服に体を取り押さえられた俺。


明らかに、火乃香は連れされていってしまう。

ずるずると引きずっていく音がする。


「火乃香!火乃香!!」


そんな無慈悲な声は。届かなくて。


突然、ビリビリという音がしたあと、意識を失った。


俺は初めてこの時、涙を流しながら眠りにつけたと思う。


…結局、何も進まなかった…ごめん浩平…。

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