第六夜

起きたのは、6:51。


ひっどい夢を見た後は、必ず夢の記憶が混ざったような、現実と区別がつかないような。そんな感じになる。


そして、頭痛がしてくる。

痛いとかじゃない。脳が潰されて、なくなってるんじゃないかと思うほどの痛さだ。


一つ一つ、夢のことと現実のことを整理する。


それにしても、よく起きれたな。

まぁまだ部屋は出なくていいか。

確か部屋を出れるのは、7:00からだった気がする。


壁にあるダムウェーターを見る。


久しぶりに使うか。


『食パンとコンソメスープ』


と書き、送る。


2分ほどで帰ってくる。


コンソメスープは美味しかった。この状況になっても、味覚が機能しているのは嬉しく思った。


食べ終わって、7:42。


かなりゆっくりしたな。


そう思い、部屋から出る。部屋番号もあった気がするが、見る気はもうない。


ホールには赤い…


ドクン。


カーペットがあるだけだった。


心臓は一瞬張り詰めただけで、普通に動くようになった。


「おはよ、よく寝れた?」

「あぁ。バッチリ。」


と、火乃香と会話しようとした時。


「あの、乙葉さん。」

「え?どうしたの?」


なつめが話しかけてきた。

彼女の目は酷く決心がついたような目で。

こう、彼女は言ったのだ。


「私を殺してください。」


と。俺に心臓は急に沸騰したように熱く激しく動くようになった。


「ちょ!」


火乃香は、なつめの肩を掴んだ。


「正気!?」

「正気です。私が、代表者だから。」

「確認はした!?」


火乃香は俺から説明は受けたため、意味はわかっているだろう。

【代表者】を殺せないと、【裏切り者】を殺した時に、俺たち全員が死ぬことになるのだ。


「大丈夫です。昨日の時点で、というかずっと代表者だったので。」


「…本当に、大丈夫?」

「大丈夫か、大丈夫じゃないかでいうと、大丈夫じゃないです。」


彼女の唇は震えて、手のひらは、冷たく、汗をかいていた。


これはなんというのだろう。絶望?哀れみ?嫉妬?羨望?呆れ?

それとも…


今から殺される緊張か。


そこから1時間は長かった。

彼女はかなり震えていて。一回嘔吐したくらいだ。


『大丈夫…これで…』

『私が…助けられるなら…』

『怖くない…』


彼女はこんなことを自分で言って、脳を騙して、虚勢をはって見せた。


これほど危ない虚勢は初めて見た気がする。


俺は、右に唯の手。左に、なつめの手を取って、壁際に座っていたのだ。


だけど。


『おはメメー!!みんな元気だったー!?』


この声を聞いた時。

握っていた、佐藤なつめの手は。


震えが止まり。

握り返す力が大きくなった。


この力は覚悟の力だ。どこかで感じたことのある、覚悟の力…


「おい、メメ!」

『お、乙葉も生きてた!大丈夫だった!?』

「独裁者が命じる!佐藤なつめを…処刑しろ!」


メメは二度も驚いた声を上げた。

一度目は俺が生きていたことで。

二度目は俺が処刑を命じたことだ。


『…わかったわ。いやー最初から、このスピード感なら、もう今日には終わってたかもしれないのに。』


うるっせぇなぁ。


そうして、佐藤なつめは。


防護服に連れて行かれ。

レーザで首が吹っ飛んでいくまで、一言も発さなかった。


…彼女なりの配慮なのかもしれない。


俺は今までより一層、目を瞑り、見ないようにしていた。


残り。10人。


『さて、久しぶりに出席確認でもしようかな?…ま、長いし、生きている人だけでいっか。』


『3番、イズモサナ』

「…はい。」


『7番、カトウソソギ』

「…は、い」


『11番、クヌギオカショウ』

「…うっす」


『12番、クルメオトハ』

「はい」


『15番、トキモミジ…は救護室か。』


『18番、ホノカユイ』

「いますよ」


『19番、マユズミサトコ』

「はい、ごほごほっ」


『23番、ユキヤヒョウガ』

「…はい」


『26番、リュウゴウサクラコ』

「は…ぃ」


『29番、ワガツマカナネ』

「は〜ぃ…」


以上、10名。


そんな現実に俺は目を向けられなかった。


『ということで、おつめめ!』


と配信は終わり。俺たちは結局、教室であーでもないこーでもないと言い争っていた。


「どうしましょうか…もう、10人までいなくなってしまった。ここまで来ると…」

「裏切り者もリスナーの目的の存在はいない…?私たちは、ただ、あの配信のつまみとして、遊ばれてるだけじゃ…」

「だったら、もっとスパンを早くしたっていいだろう。1日に1人犠牲者を選ぶのはスパンが遅すぎる。」

「ゲームとしたら、区分けしやすいけどね。」

「ゲームとしたら?」

「そう。携帯ゲーム、パソコンゲーム。その他諸々。俺らが日々やってきた娯楽のゲーム。ゲームとしては、一日づつに犠牲者が増える。ゲームの区分けとしてはしやすい。」

「なるほどな…」

「なら、私たちは、ゲームを作る上で実験材料になってるってこと?」

「違うわ…どれも。うちの会社はそんなもん作らない…」

「じゃ、何を作っているんだよ!?」

「…知らない…。うちはいつも機密情報だからって、逃げられてたから…。」


結局、堂々巡りになる。…こんなことをしたって意味はない。


俺は端っこで、ただ聞いていた。

聞いていただけだ。

そう曲を無意識に聞くくらい。


だから、特に覚えてない。


まぁ、お昼ご飯にすると聞こえて、初めて声を発した気がする。


「今日は何?」

「焼きそばにしようかと。」


「お、いいね」


そういうことで、今日の昼ごはんは焼きそばになったのだが。


今日の昼ごはんは、加那音さんが担当になっていたのだが。


「なんか…量多くない?」

「えーと…本当に申し訳ないんですけど…気づいたら、30人前作ってました‼︎」

「もう!加那音のドジ!」

「うわー!すみません!」


とんでもないミスにより、1人三人前を食べなければいけない計算になる。

ちなみにここでいう“一人前”は通常の一人前ではなく、学生が食べるため、通常の一人前より量が多い。…通常の一人前の1.5倍くらいだろうか。


「1人で3人前…食える?加藤?」

「…頑張っても、2人前じゃね。」


と、俺らは食えないなぁと思っていた。


「…大食いの人いないの?」

「大翔も響子もいないからなぁ。」

「じゃ、私食べるよ。」

「え」「え?」「えっ」「え…」「は?」「うん?」


通常声を出さないような人が出した鶴の一声により、驚愕というか困惑のような声が合唱の始めのようにハモる。


俺らは一斉に笑った。


「大丈夫でしょ、私これでも結構食べるよ?いつもなんか周りの子にダイエット中ってなんか勘違いされてるけどさ。」

「そうなんですか!?」


櫻子がめちゃくちゃびっくりしてる。


「そうだよー。ていうか、みんなが勝手に勘違いしてただけでしょ。私、かなり痩せてるけどさ、ちゃんと食べないとバランス取れないのよー」


そんなことを淡々と言いながら自分の皿に、山盛りに焼きそばを持っている唯。


結局、俺は3.5人前くらい、加藤は2.5人前くらい、聖はきっちり3人前、紅葉は1.5人前、雪弥が4人前、出雲は2人前、櫻子は1.5人前、加那音が2人前、黛は病気なので1人前、そして火乃香が脅威の7人前。

残り2人前。


「残り…2人前くらいだと?」


「ほらほら、男子。食べなよー」


「くっそ、大食いできないから何も言い返せない…!」


そこで。


「じゃんけんにしませんか!?」


という、加那音の提案。


一応、病気の沙都子は棄権。

めちゃめちゃ食べてくれた、ということで。唯もじゃんけんには参加しない。


残り8人の焼きそば戦争じゃんけん!!

お腹いっぱいでの極限状態!!


『最初は、グー…』


「じゃんけんぽん‼︎」


ここで。じゃんけんの話をしよう。


じゃんけんは人数が多いほど、あいこが多くなる。それは、三つしか手の種類がないからだ。全員がそれぞれ違うものを出すと、もしくは、同じものを入れると、あいこになるのだ。


8人だから、あいこになるだろう。

全員違う手になる確率の方が大きいから。


そんな甘い考えがその時にあったのだ。

そう。そんな確率あり得ないと。

ただ。


忘れていたのかもしれない。

あり得なく小さいだけで起こり得ることを。


結果は。


おれ、グー。

その他みんなパー。



ということは……?



「おいっぃぃっぃぃぃ!!!!」


「よっしゃぁぁぁぁっぁぁ!!!」

「回避したぁぁぁぁ!!あぶねー!!!!」

「うっし!!」

「よかった…」

「!?!?」

「なんで!?」

「??!?」

「すっげ…」


あるものは、悲しみ、あるものは喜び。またあるものは、困惑していた。


「なんで俺なんだよ!!!」


俺は、叫んでいた。もちろん、食べること自体ではない。


さっきのジャンケンで、なぜか一発で勝負が決まったことが、嫌なのだ。


「ウェーイ!!早く食べろ!早く食べろ!」


加藤がうるさい!


「普通こういうのは言い出しっぺの法則があるだろ!」


俺は、それをいうが。


「残念でしたー、運に見放されましたねー!」


ということで、渋々、というか無理矢理に焼きそば2人前を食べる。


「大丈夫ですよ…大食いの後は、プリンでも食べればプラマイゼロですから〜」

「どんな0カロリー理論?」


他の人たちは、自分ではなくて良かったと、ほっとしている。唯もなんだかんだ、周りと馴染めてる。


俺の中に、『なつめの分だったのかもな』と口にしたいのを押さえながら。


これでいいんだ。いいはずなんだ…。


結局、お皿や鍋を洗うのは、あとでになった。まぁ、あれだけ食べたし。


ご飯をいっぱい食べたせいか、みんな眠くなってしまい。


マットを持ってきて、各々ゆっくり寝始めた。


そして。


知らないうちに投票の時間になってしまっていて。


『みんなー、投票の時間…』


【みんな寝てて草】

【お疲れなのかな?】

【ぐっすりだなぁ】


『…これはリスナーの力が試されるね?』


【え?】

【まさか…投票する気なのか!?】

【やめろ!やめろ!】


『はい、投票の時間だよ。大丈夫、パーセント投票にしてあげたから。大体みんな同じなら今日の処刑はなし。』


【全部10パーセントずつ!?】

【大丈夫だ!その昔、運命の選択肢で、どっちも同じくらいの確率に操作したあれに参加した俺なら!】

【↑懐かしすぎて泣けてきた】


『じゃ、準備いい?リスナーのみんな。』


【オッケー!!】

【絶対に救うと決めた!】

【やってみせるよ!】


『じゃ、投票、スタート!!』


『今回は5分計測した時の合計にするね、みんないっぱい投票していいからね。』


【うおぉぉぉぉ!!】

【↑そのコメントいらんくね】

【↑おまえもな】


…そうして。


『5分経過!』


『はい、計算の結果…』


【どうだ!?!?どうなんだ??】

【いけてるでしょ!!いける絶対いける!!いける気持ちが大事なんだってがんばれがんばれ!!】

【頼むーーーーーー!!!】


『全員生存が決定しました!!!!!!』


【うおぉぉぉぉぉぉ!!!】

【やったぜ】

【圧 倒 的 大 勝 利】


『ということで、そろそろ起こさないとね。』


ここで警報がなった。もちろん、今までいっぱい聞いてきた怖い音。


起きないはずがない。


『みんなーおはよう!!』

「やな寝起きだなぁ」


俺は思ったことを口にした。推しの声を聞いていいと思う時期は終わりを告げた。

……いや。もうこいつを推しとして認識することはないと思う。

さっき夢で見たのが本当のことだ。



『早速だけど…今日の処刑者は…』


あぁ、そうか。もうそんな時間か。誰が死ぬのかな。


『なんと。誰もいませんでしたー!!』


「は?あんな数いんのに全員同数だと?」

『まぁ、起きてしまったものは仕方ないからね。君の昼ごはんみたいにね。』


「やめろ!おもいだしたくない!」


本当に思い出したくない!!


『ということで…今日は終わりー。おつめめ!』


と、メメは帰ってしまった。


俺らは大歓喜した。


「いよっしゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

「やったぁぁぁぁ!!!」

「勝った!!」

「やったね!」

「よかった…本当によかった!!」

「いよっしゃ!!」

「ありがとう!!」

「よかった…」

「初めて、リスナーが味方に見えたな。」

「しゃーーーーーーー!!!!」


と、柄にもなく、大声で叫んだ気がする。

加藤みたいな。


まぁ、11時に近づいていたので、部屋に戻る。


まだ胸の高鳴りが治らない。


部屋の扉を開けて、机にあった、佐藤なつめのカードを適当に束に入れて、夜ご飯をダムウェーターで頼む。


まぁ、そんなにいっぱいいるわけではないので、『生姜焼きとご飯と味噌汁』『箸』で夜ご飯タイム。


暇になったので、カードをまた見ることに。


佐藤なつめ…


「お前が、【代表者】だったなんてなぁ」


なんて言いながら、めくり、裏面を見た。


俺は信じて疑わなかったのだ。


「は…?」


カードを落としてしまいそうになる。


かろうじてキャッチしたカードには。


裏返しのそのカードには、嘲笑うように。こう書いてあった。


【怪盗】

この係は、夜のターンに誰かと係を交換する係である。交換した後、怪盗になってしまった人はその次の夜に交換ができる。


「ふざっけんな!!」


つまり。なつめが死んだ意味は。あんな覚悟で死ににいった勇気は。誰かの遊びみたいな係の交換により…


儚く散っていった。


「無駄になったじゃねぇかよ…」


そこで無慈悲にもダムウェーターのチーンという音が、なつめを弔ったような音に聞こえた。


絶対に。


あの9人の中にこんなことをした奴がいるんだ。


殺さなきゃ。

殺さなきゃ、俺のこの高鳴りは消えない。


人を殺すのは、いささか不本意だが。


「しょうがないよな?だって。」


と言いながら、俺は生姜焼きを食べた。


はなくなかった。

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