第五夜

「そんなことがあったのか。ってことは。」

「うん。君を犯しに言ったのは、水橋さんだよ。」


そうか。そうなのか。

やっと、見つけた。俺を襲った気持ち悪いやつだ。正直、見つけたから何かあるわけではないのだが。


「で、初日に赤銅が死んだのは。」

「酒を飲んでたからかな?わからないや。」

「わかんないって…このゲームのメメは君と一緒なんでしょ?」

「違う。違うよ。」

「え?」

「乗っ取られてるの。今でも。」

「…やっぱり。そうなのか。」

「気づいてたの?」

「声がちょっと違う気がしてたんだ。」


そんな気がしていたんだ。


「…すごいじゃん。あれ、やってるの私の実の双子の妹がやってるの。」

「え、そんなことある?」


火乃香に双子がいる話なんて…いや、ここにきてから話すようになったのに知ってるわけないか。


「あるよ。例えば、双子を産んだけど、私を他の家に養子に出したとか。」


「あ。そういうこと?」

「そういうことだよ。」


「しかもその子、名前私と同じ漢字一文字なの。」

「苗字は…まさか」


「そう。桃宮ももぐ。かなり珍しい方だから音の響きは覚えやすいと思うけど。」

「桃宮、梟…」


「そう。私の妹。本当なら、火乃香ほのかふくろうちゃんだった。」


…。なんか違和感があった。まぁ名前が4文字なのに慣れないからなのだろう。


「…なぁ、このデスゲーム、誰のせいで起きたんだ?」

「…いろんな人の想いが錯綜して混線して。それがはっきり混ざったそこがここなんだろうね。」

「何がこんなことを引き起こしたんだろう…」

「復讐でしょ。」

「え」

「梟ちゃんは多分私…。桜子さんは、美琴と乙葉。あと、一つか、二つくらいの復讐が重なっていると思う。」


それがなんだろうか。俺はまだ知らない。


 *


「さて、どうする、夜の2時だが。寝ようと思っても出席できなかったら、死ぬぞ。」

「…Hでもする?」

「しないわ。疲れてさらに眠くなるでしょうが。」


お前が一番脳みそピンク色だわ。


…今一番、イエスマンを持ってなくてよかったと思った。


リスナーにバレたら、狙われるからな…


「…ん?」


もしかして、リスナーの勝ち条件て…

リスナーの目的の人は。


___私はリアリティーデスゲームショーの参加者“クルメオトハ”です。私が由良木メメの配信を乗っ取った悪人です


配信を乗っ取ったやつを殺すのが、リスナーの仕事か。


でも、乗っ取りは彼女がしているわけではない。だって彼女が本物なのだから。


でも、今は、状況が逆だ。乗っ取りをしている人からすれば、唯は邪魔な存在。


「お前か。リスナーの目的の人って。」


と、ベッドに潜り始めた唯に言う。髪が長くて大変そうだなと思った。


「多分そうよ。まぁ、梟が狙っているのが私だけなら、いいのだけど。」

「え、?」

「多分、まだいるの。復讐の人が。」


その言葉を最後に、唯は眠ってしまった。


俺も眠くなって、同じベッドで寝てしまった。


一緒に寝るのは、初めて…だと思うのだが。安心感がたくさんあった。


薬は飲めなかったので仕方ない。


 *


俺は、悪夢を見ていたのかわからない。


でも。


『お前は助けてくれなかった!』

『お前は罪人だ』

『お前は罪深き人間だ』

『お前は恋人も守れない異常者だ』

『お前は、人間失格だ』


「やめろ…、やめろ!!」


と、ひたすら、美琴にうなされた。らしい。よくはわからないが。


 *


そんで。朝、起きたら、7:28だった。すげぇ、俺の体内時計。


「おーい、起きろよ、唯、朝だぞー」

「んむぅ…」


…可愛い。こんな生物がいていいのか。


「あ、あぇ…?お、とはぁ」

「はいはい、乙葉ですよぉ…」


俺の脳内で、火乃香唯は朝に弱いが追加された。…あれ?もう知っているような気がした。


まぁいいか。気のせいだろ。

多分誰かと勘違いしているだけだ…


そんで、20分くらいして。


「…うん。起きた。」

「…やっと微睡まどろみから帰ってきた。」

「うん、ごめ」

「ま、さっさと行くぞー」


そうして。ドアノブをひねるが。


「やーやー、お二人さん。昨日はお楽しみだったようですね?」


扉を閉めようとしたが。扉を閉めるより早く、腕は伸びてきて。スタンガンで意識を失った。


ふざけんなと言いたかったが。声なんか出す前に脳の電気信号は止まった。


 *


学校のチャイムで、起きる。


ここは学校だったかと錯覚してしまい、反射で意識を無理やり取り戻す。


…ここで俺はいつも学校で寝ていることがバレてしまうじゃないか!


「あ、おはよー。乙葉」

「水橋…!」


こいつは俺を犯した相手だ。気持ち悪い。


「多分、もうわかってると思うけど、私が襲った犯人だよ。そのコンドームは、まみさんの部屋が欲しがってそうだったから送ってあげたのさ。」


「…【中継者】に送ったのか?」

「あ、そうそう、私、【企業係】らしくて。」


なんだそりゃ。


「なんか、提出した武器かなんかを作ってくれるらしくてさ、とりあえずこんなものお願いしたら、作ってくれてさ。」


そう言って、水橋は左手に持ってる何かの棒を振る。


その瞬間。


レーザが出た。しかもその場にとどまり続け。


「スタンガンもお前かよ…!」

「そうそう。電池もさ、先生からどっかから抜いてもらって。」


これでちゃんと先生も黒だ。尾根崎…。ごめん。


水橋のレーザの先端が、俺の顔の横にある。


「すごいよね、こんなの見たことないよ、映画の中くらいでしかない。」

「…そんでそれで何をするって…?」

「なに、愛する彼女と同じ姿がいいでしょう?」


人間ダルマになるってかよ…!


「…その前に妊娠しなくていいのかよ?」

「へへ、いいの?」


そんなヘラヘラした顔すんなよきもちわりぃ。


「…やってみろや、中立性別」


ちなみに俺は手錠で腕を塞がれている。


「もう、怒ったから。」


と、何かをし始めた。


周りを見ると、みんないる。時間がそろそろ9時なんだろう。


と、目論見通り。


『おっはよ〜、みんなー…あら、すごいことになってるねー』


と。この状況にはそぐわない、マイペースなメメの声がここに響いた。


はは。

さて。


やるか。


「メメ、独裁者が命じる!水橋雅を死刑にしろ!」


俺は…そう叫んだ。


水橋は、「は?」と何かを言っている。


『…ふふ、いいよ。”そう書いてあるものね“。』


そう。ルールにはこうだ。


ルール3

勝利条件は、裏切り者を殺せば勝ち。

他の勝ち方もあるが、それぞれ、カードキーに記載されている。


係はカードキーに書いてあればそれになるのだ。


俺はあの部屋で、話を聞きながら、その作業をしていたのだ。


自分のカードキーに、火乃香唯の係を付け足した。


火葬の時、火乃香は葉山に怯えてられてた。それは多分、係を見てしまったから。だと思う。


彼女の係名は。


【独裁者】その1人が声を上げれば、処刑ができる。


そう。


その名の通り、独裁ができるのだ。


「おい、おい!やめろ!離せ!触んじゃねぇ!?」


その叫び声は。男のようにも、女のようにも聞こえた。

いつもの、男か女かわからない、不思議っ子のままだ。


そいつは、左手に持っていた、レーザを取られて。


上から、すぱっと。切られた。


そして、真っ二つに切られた。その死に方はまるで。一番最初に見た気がして。


勝手に、第二章が始まった気がした。


 *


『それじゃ、オトハ、ホノカ、カードを渡して。係を交換してあげるよ。』

「え?」

「…なんで?」


唐突なメメの提案。


『交換したかったんでしょ?そんな独裁者みたいな酷い係からさ。みんなから恐れられる係なんかやりたくないもんね?』


交換したら。

火乃香の係は【イエスマン】だ。

否定したら、自分のSNSで名前も公開。


そして、今のメメの中の人。桃宮梟は、火乃香を憎んでいる。復讐をしたいと願い、リスナーにきっと殺してほしいやつだと言っている。


だから、嘘をついたら、リスナーに唯が殺されて、終わりだ。


いいと思うか?

違うんだよ。


【代表者】これは2人いる。

この係は残っていたら、全員殺される。


仕方ないが、そいつを殺してからじゃないと…


俺は独裁者だ。やってやるよ。


 *


また、片付けに追われることになったが。


まぁ、手慣れたもんだ。


「ねぇ、乙葉」

「ん〜?」

「あの係書いてたの、これを予測してたの?」

「予測…ていうか、多分起こるだろうなと思ったから。」

「ふーん…、私偉いでしょ、あの係発動しなかったんだよ。」

「…本当だよな、よく今の精神状態でいれるのすごいと思うわ。」


ちなみに、昨日の夜に、茅野結は死んでいた。


11時以内に部屋に入らなきゃ、死ぬのは確定だな。


カードには、【殺し屋】2日後に銃を贈られてくるから、それで殺せば、1人につき、100万をゲームが終わった時に支給されるらしい。


そして、その銃を受けたのは、朱鷺紅葉。が、脚に銃弾を受けただけで、救護室で朝、銃弾が抜かれて処置もされた状態でいたらしい。


そこまでして人を減らしたくないのか。


ということで、人数は、13人へ。


「さて、今後はどうしましょうか?」


出雲紗凪が仕切り始めた。


まぁそりゃ、桜子が出てくる場所はないしな。


「ちょっといいか」


そう言って手を上げたのは。久しぶりの雪弥雹賀は壇上に上がった。


「このゲーム、裏切り者が動かなくても、勝手に死人が出る。」

「え?」

「例えば、今回の騒動は、水橋を殺しても何も起きない。前の騒動は、織田川を殺しても何も起きなかった。」

「…」

「だから。裏切り者は。何にも関わってないか…全部に関わってるのに、死んでないやつだ。」

「俺だって言いたいのか?」


そう、言ってやった。


「そうとは言ってないだろーが。とりあえず、みんな騒動を起こさなきゃ、裏切り者は必ず行動を起こすから、そいつを殺せば…」


「…そこまで、待つって何日っすか?」


櫻子が反論をし出した。


「そこまで友達が死ぬを見てればいいんですか?もう、やだ…響子も、鏡華も、龍斗も…みんな、死んでいった!もう、見たくないのに!」


彼女は涙ながらに叫ぶ。


出雲も、桜子も。目を逸らしどこか遠いところを見ていた。


俺は、教室を出て、救護室に行った。


「あ、乙葉さん。お見舞いですか?」

「…いや、居たくないからあっち」


紅葉のいる救護室に逃げた。そこには、佐藤なつめがいた。


「…酷い状態ですよねぇ。」

「ま、そうだなぁ。裏切り者が出てきたってなぁ。」


「え?」

「え?」


「出てきても、なんかしないといけないみたいな口ぶりだったので…」


あ。口が滑った。というか、勝手に弱音を吐いていた。


「…いや、なんでもない。」

「…いいんですよ、知ってますから。」


…知っている?


「え。」

「私が、代表者ですから。」


衝撃の告白だった。


「え、あ、ぁ」


「でも、私を殺しても、もう1人がわかんないんですよねぇ。」


もう1人は。


「…もう1人は。相蘇…凛だった。」

「そうなんですねぇ。」


俺の中で、佐藤なつめはマイペースというのが追加された。


でも。今そのマイペースさが嫌になる。


彼女はどこか遠くを見ている。

それは、覚悟か。それとも。


逃れられない、悲しみか。


その瞬間、救護室の部屋の扉が急に開いた。


「乙葉、来い。」


初めて、河井遼兎に名前を呼ばれた気がする。


そう言われて、ついていくと、ホールに着いた。


「みんなの総意で、独裁者は消したほうがいいという、意見なんだ。だから、死んでくれないか?」


いつも通りの天性の男。

でも、冷静沈着さはないのかもしれない。


「…嫌だね。そもそも、俺は独裁者でも、いろんな人を全部選んで当たればラッキーみたいな、ギャンブルする人じゃない。」

「…いや、君は自分の保身のためにそれを使うね。」

「は?」

「君は君自身を守るためにその独裁者を使うんだろう。」

「じゃ、なんで俺は今使ってないんだよ?」


…。


そこに残ったのは静寂。

両者、どちらも何も発しない。


俺よりも身長が20cmほど高い。バスケ選手みたいな身長。


こいつがもちろん、クラスの中で一番身長が高いのだ。


「なぁ、お前、先走りすぎじゃないか?」

「…そうかもしれない。少し、頭が変になっていたらしい。」


彼は、ゲームに呑まれている。けどまだ思考は、感情は、理性は呑まれていない。


…だからまだ。大丈夫だ…。


『…さーて。投票の時間にしようか。』


急にテレビが付き、びっくりした。


『でも、その前に。オトハ、カワイリョウトを殺してと言いなさい。』

「は?」

『これはお願いじゃない。命令。わかる?命令。これをやらなきゃあなたは死ぬし、この後がどうなるかも想像つくよね?』


「…いいよ、乙葉。」


ここまで俺は独裁者を使うのは最終的にだと思っていた。けど。メメは違う。明らかに俺を崩壊させようとさせてるんだ!


「…あぁぁ!?どいつもこいつも頭のネジいかれやがって!くそ野郎どもがよぉ!!!」


俺は、もう、限界だったのかもしれない。


俺は、叫びそうになった。


“俺を殺せ”と。


でもその前に、俺の意識はどこかに行ってしまった。


 *


次、目を覚ました時。


ホールに疲れ切ったような人がいたのだ。

疲れすぎると、目も悪くなるのか。顔も見えないわ。


「あれ、目を覚ましました?」


もう、聞き慣れた、唯の声。


「…どうなったの?」


俺は声が不安定になっていることに気づいた。


「…私が元独裁者として宣言しました。河井遼兎は死んでしまって。その後、投票で、伊藤桜子さんが死にました。」


なるほどなぁ。そうなるか。


「…そうかぁ。」

「…やけに淡白ですね、柄にもなく。」


11人。もう、3/2死んだのか。


「火乃香ぁ…」

「なんです?」

「今日も…」


部屋にいって一緒に…


「いや、いいやぁ…」


いや。ダメだろ。

少し頭を冷やせ俺。


「…?」


唯の反応はもちろん、どういうこと?という反応だ。


俺の頭は今。かなりおかしくなっているのはわかる。こんな状態で甘えたいなんてことしたら。


完璧に一線どころか。

複数以上突き抜けてしまう。


もう少しだけ。唯の膝枕を堪能して。


ゆっくりと立ち上がり。


重い足取りで、部屋に戻る。


そこに、カードキーが3枚。


水橋雅と、河井遼兎と、伊藤桜子。


水橋雅は、【企業係】


伊藤桜子は、【撹乱係】


河井遼兎は…【共犯者】?


裏切り者と情報交換ができ、裏切り者が勝った時、あなたも勝つことができる…。


とんでもねぇな。


そう思い、ベッドに身を預けた。


酷い疲れからか、薬を飲まなかった。

そして。長い長い。悪夢を見始めた。


 *


僕は、家出を試みていた。ちょっとあるだろそんな時。


結局、夜になると不安が大きくなり、家に帰ろうと、歩き出した時。


家の異変が遠目でもわかった。

電気がどこも付いていない。

僕を探しにいったのだろうか。…だとしてもどこに行ったのだろうか。まぁ帰ってくればなんともなく…


そう思っていた。


玄関を開けた。目の前には、誰かが倒れている。お母さんだ。


明らかにお腹から出血をしていて、もう助かる気もない。

大きな窓のあるリビングに行く。

そこに、またもや、死んだ父親が倒れていて。

窓辺には誰かが立っている。


『どういう気分?』

『私は楽しいよ』

『君は不思議と絶望している顔をしてるね?』

『もういいよ、何もできないんでしょ』


そう。一つづつ、吐いてくる。


それは、毒みたいに、体を侵食して体の細胞一つ一つを崩壊させて。


僕は粉になって、世界を彷徨う。


でも耐えず、音は流れてくる。聞きたくないことも、聞いたことも、聞いたことないことでも、聞きたいことも。


全てがわからなくなってくる。


『お前のせいで』

『いなくなったりするから』

『お前が止めてれば』

『お前がバラしたから』

『どうしてお前なんか』

『1人でいろよ』

『夢見てんじゃねぇよ』

『頭おかしいの』

『嘘つき』

『必要ないから』

『お前が選ぶ権利はないから』

『休んでていいよ』

『お前はみんなと一緒じゃない』

『身の程弁えろよ』

『大好きだよ』

『いじめないで』

『いじめかえせ』

『逃げるな』

『壊せ』

『おいで』


そんな。


やめてよ。


僕を…いじめないで。

僕のせいにしないで。


頼むから。お願い。これ以上、心にはヒビなんか入らないよ…もうパンパンだから…。

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