光夜

“ばん”


それは、銃声とドアが思いっきり開く音だった。


俺は、それでドアに思い切りあたり、体制を崩して、銃弾に当たることはなかった。


そして、誰かに腕を引かれて、部屋に入れられた。


そして、扉が閉まり。


時刻は11時を回り。


外の茅野がどうなったのか。それはわからない。


でも…


「ありがとう。唯さん。」

「…いいってことよ。」

「でも俺ここに入ってて生きれるの?」

「ルールに書いてないからセーフ。いけるいける。」


ルール1

午前9:00までに全員ホールに集合すること。

11:00

午後11時から、午前7時までは、個別の部屋から出てはいけない。

午前9時から、午後11時までは自由時間。

自由時間に、投票、処刑、をする。


…確かに。ルールを思い出した俺は、それに頷いていてしまっていた。


自分のとは言われていないしな。


と、自分と唯さんのだいぶ適当な発言に苦笑いしながら、部屋を見渡す。

部屋はそんなに変わらないんだな。


…なんか、初めて、他人の家に上がったような感じがする。


そこで俺は、部屋にパソコンがあることに気づく。


「やっぱり他の人も機器が帰ってきたの?」

「そうだね。連絡はどこにも繋がっても声が聞こえないのは検証済みよ。」

「…。ノーパソ持ってきてんの珍しいな。」

「私の商売道具だから。」

「商売道具?」

「そう。あんたがガチ勢なのは知らなかったけどね。」


え?


「あ、私、Vtuberだよ。“由良木メメ”っていうんだけど。」

「え、え、え」


パソコンと彼女を交互に見る。


脳みそが勝手に考えることを放棄し始めたかもしれない。


どういうことだ?おかしいだろ。


「声…は?」


「あー、リアルの方もあるしちょっと変えてるの。」


と行って、彼女は、小型マイクを出して。


『やっほー、由良木メメだよー、聞こえてる?』


紛れもない。由良木メメの声だ。


「じゃ、じゃぁ、」


このデスゲームをやっているのは…。

俺らに殺し合いをさせてるのは…!


「違うよ。私は黒幕なんかじゃないよ。利用されて。勝手に仕立て上げられたのさ…」


そうして、彼女は話し始めた。


あの日。彼女に何があったのか。


 *


あの日。彼女は…


「やっほー。由良木メメだよー。みんな早朝に集まってくれてありがとーね。」


9/16。

早朝。5時くらいから始まったその配信は、11時の30分ほどまで続けられた。


「じゃーねー。おつめめー」


最後の挨拶を終えて。


「…うん、配信を切った。よしよし。」


二ヶ月前の乗っ取りに学習した私は、ちゃんとするようにした。


「今日の配信でちゃんと、配信はできないかもと言ったし…うん。大丈夫。」


私はキャリーケースを開けて、最後の確認をする。


よし。大丈夫だ。


あれ?


「パンツ…?」


部屋にキャリーケースに入れたはずのパンツがなぜか落ちていた。


まぁ、めんどくさい。隙間から突っ込んじゃおう。


時刻は、11時45分。


うん、大丈夫。

ここから歩いて4分の学校なんてすぐだ。


キャリーケースを引きながら、学校に向かう。


日差しが強いなぁ。日焼け止め一つで足りるかなぁ。


そう思いながら。


「おはよー!」

「おっはー!」


この子は、にのまえ響子きょうこちゃん。


私が一番最初にお友達になった子。

割と素直だけど。感情に任せた言動がたまにあるから怖い。


「なーんか、火乃香ほのかちゃんのキャリー、真っ黒だね?」

「ん?あぁ、うちに洒落てんのなかったの。ま、仕方ないね、旅行なんて行かないし」

「ま、今回も旅行じゃなくて、遠足なんだけどね。」


そう言う、流郷りゅうごう櫻子さくらこ


彼女の私のお友達。


彼女は私とは正反対の子。まぁ、ツンデレって言えばいいのかな?


「の、割には結構色々持ってるね?」

「うっさいわねぇ。…あ、きたよ、カップルさんが。」


そこに、百合ゆり鏡華きょうか夜星よぼし龍斗りゅうとがきた。


このカップルは、3-Dの二つめの有名カップルだ。


あっちより、人に気をつけてるけどさ。


あっち…おとみこはあからさまに甘すぎる。


明らかに。見せびらかしてる。ほらきた。


校門で仲良く話しながら手を繋いでやがる。

漫画のネタにして売ってやろうか。


適当にキャリーケースをバスの下に詰めて、席に座る。


そして、先生の呼びかけ

“おーい、後ろから詰めて座れー”を聞き流しながら、窓の中を見る。


そこには季節には似合わない、新緑の木がいくつも並んでいた。

まぁ、季節の変わり目はズレにズレて。


今も夏っていう括りなんだろうな。

あ、日焼け止めはどうしようかな。


窓の中に反射した向こう側の席には、織田川美琴さんと佐藤なつめさんが仲良さそうに話している。

…いじめられ仲間ってことか。


私の座っている席は上から見て、左の方の後ろから4列目。そして、窓際。


ちなみに、響子、櫻子が後ろ。鏡華と龍斗がその後ろでそれぞれ座るから、私は2人がけの席に、1人で座っていた。前の席には、話し声的に、出雲紗凪と伊藤桜子。


何やら真剣な話をしているが。

私はバスで酔ってしまう人間なので、バスに座った時点で眠りに入った。


そして、眠りこけている間についたのは、梟館。


久しぶりのそこでは、BBQができるらしい。


まぁ、この子達と一緒にご飯を食べると言う点に目をつぶれば、たのしいだろうね。


…私たちはこの空気感は好きじゃない。なんでこっちにいるのかもわからないけど。出れに出れなくなったとでもいうのだろうか。


「ささっ、行こ?火乃香!」


…うん。そうかもしれない。


 *


「…お前もトラウマとか持ってんだなぁ。」

「…人並みに…ね。」

「あ、ペンあるか?」

「ペン?そんなのそこにある筆箱に腐るほどあるけど…何するの?」

「ま、実験かな。あ、いいよ続き話して。」


…お前がずっと下向いて、なんか作業してるとこう…なんか…。話しづらいだろうが!


 *


火をつけて、肉を食べる。


BBQでやることなんてそれだけだ。


「これ誰か食べる〜?」

「じゃ、私食べる〜!」

「…大丈夫なの?火乃香さん、あんま食べてないけど。」

「大丈夫、大丈夫。火乃香さんは今ダイエット中だから、ね?」


別に私太ってないんだけどな?この前、40くらいだったし。食べた方がいいくらいなんだけど…。


「そうだよー、唯さんは、野菜食べないと」


と、茅野かやのむすびさんから、野菜をいっぱいもらった。


はぁ。めんどくさ。


トイレに行くために、館内に入る。


「あれ?」

「…どうも。」


水橋みずはしみやびさんが、いた。


彼?彼女?はトイレを待っているようだった。

性別がわからないとこういうときめんどくさいね。


「水橋さんも?」

「いや、そうなんですけど。違うと言いますか。」

「…?」


そこで、女子トイレから、葉山はやまさんが出てきた。…この子の名前漢字難しくて覚えてなかったや。あとで教えてもらおう。


「あ、待ってました?すみません…」

「いや、大丈夫ですよ。」


と、葉山さんがいなくなり。


「…うーん。いや。そうするか。」


と、私は、水橋さんに強引に連れられ、女子トイレに入れられた。


「え?え?」

「…鍵は閉めました。大丈夫です。」

「そう言うことじゃなくてさ。」


そう言って、水橋さんは、ポケットから何かを出した。そして。“彼”の顔は口角が上がり、獣のような顔になる。


それは。


“コンドーム”。


「あ、あれ?」


『お前が俺の言う通りにならねぇから!』

『あなたのせいで!!』

『あんた女になって生まれた意味ないんじゃないの』


急に涙が出てきた。…今のは?


この状況。もしかして。

襲われる?


顔を近づけられて、私は目を閉じてしまう。


そして。


『なんでここにいるのかしら』

『…あ、見えなかったわ…消えてくれないかしら。』

『泣かないで!また落とすよ!』

『お前なんか!お前なんかぁ!!』


耳に息を吹きかけられた。


「ひゃ!」

「はは、可愛い。」

「なんなの?!」

「あぁ。とりあえず本題。」


“彼女”は、突然私の手を握ってきた。


「私、ちなみに女の子なのだけど。わかる?」

「いや、わかんない…」


だってズボン履いてるし。髪なんかほんとに短いし。


すると。


“彼女”は。私の手を握ったまま、自分の胸まで持っていった。

そこで。ふにと柔らかな感触が。


「どう?私はAだからあんまりないけど…信じてくれた?」


明らかに女の子の膨らみだった。…こんなのでわかるもんなのか?なのか。


「…信じるよ。」

「じゃ、私の秘密を知ったと言うことで。君も、共犯ね。」

「…え」

「私、狙ってる男の子いるの。」

「そう、なんだ。」

「その子のこと襲うから、私とその子を2人きりにして」

「え?」

「それじゃ。」

「え、え?ちょっと!」


彼女は行ってしまった。


「…なんだったのもう…」


私は変な期待をしたのかもしれないけど。


『ここにおいてくから、じゃあね』

『二度とその面見せなんなよ』

『お前と別れなんか言いたくない』


いや。そんなことしてない。目尻に浮いた涙を拭って、トイレから出た。


 *


「…前の家では災難だったってことか?」

「そうそう。苦労したわ。」

「前の家の時の苗字は?」

「あー…覚えてないわ。」

「そうか…」

「でも…」

「でも?」

「なんかの植物系の名前だった気がするのよねぇ。」


 *


そして。お風呂に入ることになった。


私は一回来たことがあるから、ここの露天風呂は、混浴だって知っていた。だけど、他の人たちは、何も知らないから、嬉しそうに露天風呂に行って、騒ぎながら帰ってきた。


「…うるさいの、嫌いだったっけ。」


そんな自問自答をしながら、ゆったりと、室内の風呂に入る。


他の子達は、露天風呂に行った。誰もいないように感じる。…いや。誰もいないんだけど。


「…いいな。私もそんなふうに…」

「火乃香さん?」

「ひぇ?!」


そこにいたのは六条ろくじょう藤花とうかさん。あんまり関わったことない。


「あ、よかった〜、シャンプー忘れてこっち来たら誰もいないからー、びっくりしちゃって…」

「そっか、みんなは露天風呂の方にいると思うけど。」

「へー、露天風呂あるんだ。…行かないの?」

「いい。あそこ混浴だから。」

「え?混浴なの?」

「そう。だから行かない。」

「倫理的にどうなんだろう…」


と、そこで会話は終わったのだけど。


「ねぇ」

「はぁい」

「…なんか、これは私の独り言だと思って聞いてほしんだけど。」

「…?」

「この旅館、変じゃない?」

「…うん。変だよ。」

「何か知ってるの?」

「…知ってるか知らないかで言えば、知ってるけど。でも、嫌なら逃げればいいよ。今日中に逃げないと。」

「逃げないと…?」

「襲われちゃうかもよ?」


私は、結局そのあと上がってしまった。


車やバスで酔ってしまう人は、お風呂でのぼせるのも早いと思う。

これが自論だ。誰か研究してないかな。


「ふぅ。」


着替えを済ませて、広間に集合と言っていたため、受付の近くの、広間に来ていた。そんなのいちいち付き合う必要なんかないのだが。


『じゃま、なんでここにいるの?』


…なんとなく、そう思っているからなのかもしれない。


大きなテーブルに、たくさんある椅子。


そこには、2人、先客がいた。


赤銅あかがね大翔ひろとさんと我妻わがつま加那音かなねさんだ。


「ちょっと、ひろとっちそれ大丈夫なの?」

「大丈夫、大丈夫。」

「大丈夫って…今誰か来たら…あ」


と、最悪なタイミングで来てしまったが。


大翔の手には。所謂銀色のやつと称される、生ビールだった。


よかった。他の生だったらどうしようかと。


…いや。私の脳内が一番ピンクじゃないか。


「ちょ、火乃香さん、絶対に言わないでくださいよ。」

「…大丈夫です。言わないので。というか次が来る前に隠れて飲んだほうがよくないですか?」

「いや。」


と、そう言って、そいつは缶を呷り。


全てを喉に流し込んだ。


「ちょ、ばかばかばか、何してんの!?」

「さっさと飲めばいいんだろう?」

「急性アルコール中毒起こして倒れても知らないから。私は隠れて飲んだほうがいいと言ったからね。」


ちなみに倒れることはなかったが、不審な行動が多くて結局バレそうになったりしたらしい。


そして、全員集まって、陰キャのグループをお風呂に入れて。


陽キャのグループはキャッキャっと遊んでいるが、私はいいや。


そう思い、部屋に帰ろうとも思ったのだが。


「ちょっと。」


と、水橋さんに呼ばれた。


「なんです?」

「いや、そういえば、狙ってる子の名前教えてなかったなって思い出してさ。」

「…そうですよ。だから呼び止めたんですけど。」

「あら、ごめんなさいね?」

「で、誰なんです?」

久留米くるめ君です。」

「え、彼女いるじゃないですか。」

「…だからなんですか。こういうのは先に妊娠した方の勝ちでしょ?」


さすが、D組だ。倫理観が違う。


「で、それで、彼と2人きりにしてほしいと…」

「そそ。できる?」

「まぁ、やれたらやります。」

「そ。」


と、それだけだった。


その後、部屋に戻ろうとするも。


「あ、あの!火乃香さん!」


来た。めんどくさい奴らだ。


「好きです!付き合ってください!」


…なんでこんなにもめんどくさいことが多いのか理解しかねるわ。


「はいはい、ごめんなさいねー。」

「え」


こんなことが。


「好きです!あの、付き合ってくれませんか!?」


二度も続くとは思っていなかった。


「あのね、瑛人えいと。」

「は、はい!」

椚丘くぬぎおかと連携でもとってんの?」

「え?」

「なんであんたたち2人にほぼ同時に告られなきゃいけないの?」

「…。」

「あ、じゃ、こうしよう。瑛人えいと詩音しおんを呼んできて。」

「え?」

「呼んできて!」

「は、はいぃぃ!?」


と、飛んでいった。


ちなみに私の好きな人は、若草わかくさ詩音しおんだった。…過去形なのはそういうことだ。


『…ごめん、気持ちは嬉しいけど…さ。』

『…君とは、付き合えないと思うんだ。』


ま、なんやかんやあって私が陽キャの王様ゲームに参加させられたけど。


まぁ、何もなかったからセーフかな。


赤銅君が、河井かわい遼兎りょうと君や、草茅くさがや菊田きくた君、じん久弥きゅうや君に生ビールを進めていたが、結局、赤銅君以外飲まなかった。


出雲いずも紗凪さな伊藤いとう桜子さくらこ茅野かやのむすびもいつも通り。織田川おたがわ美琴みこと久留米くるめ乙葉おとはの悪口(というか陰口)をずっと言ってるし。


その傍にいた私たちは、さっさと寝ようということで、先に部屋に戻った。


一響子、百合鏡華、流郷櫻子、私の4人部屋だ。


「あ、鏡華、彼氏との惚気話とかないの〜」

「え!?ま、まだ、そういうのは、ないかな〜というか。」


「今日のBBQって、明日もするんだっけ?」

「いや、明日は、川下りをして…、そのあとなんだっけ?」

「夜に肝試しでしょ。」

「あー、あったねそんなの。」

「私は行きたくないなぁ…」

「ね、そういうのは鏡華とかがカップルで…」

「ねぇ!なんで毎度その話題にいくの!?」


ま、適当におしゃべりして終わっただけなのだけど。


眠りにつくと。いつもの、悪夢が。


頭でわかってしまうから、これからのことを予想して、思い出してしまう。


『あなたなんて見捨てればよかった』


あれ?悪夢が来ない…。


そんなことを思っていても意識は覚醒しなかった。


まぁ、そこからは異常だった。


大騒動の中、私たちは何かに乗せられて、どこかへ運ばれたのだ。


あぁ、“あれ”なんだろうなと思う。


私は所謂薬の類の効き目が弱い。だから酔い止めを使っても酔ってしまうし、風邪薬を飲んでも一週間、風邪が治らなかった。


だから。今。


睡眠薬を飲まされて、飛行機に乗っている感覚は眠気で感じているものじゃない。


でも。目を開けたりすると監視の奴らが薬を打ちに来るから開けられない。


と、問答しながら、薄く目を開ける。


そこは。紛れもなく、飛行機の一室だった。


私たちは。いや、私?は飛行機でどこかに連れ去られている。


そして次起きた時は。


こんなベッドの上だったというわけ。

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