居酒屋にて
帆尊歩
第1話 許されない恋 これってもしかして
「このバカ、気持ち悪い、今度私の前に現れたら、殺してやるって言うわけよ。それって酷くないか」
「でもさ、女ってそういう所あるよね。
なんかさ、一つ嫌いになるともう全てが大嫌いって。
昨日まで許せていたことが、許せなくなるみたいな」
「そうなのか」
「多分、でもいたよ。
彼氏大好き!って言っていた子が、人格どころか、その存在すら否定するなんてことが。そこまで言う、って思ったけれど。たとえばさ、デートのときすれ違った子供が可愛いって言うじゃない、そうすると、(彼、子供好きなの!私とぴったり)なんて言っていた子が。あいつは現実を何も分かっていない。
それくらいはまだは良い方で、あざといとか、偽善者とか、まあそこまで言うかって感じ。アッ、生おかわりお願いします」
「はい喜んでー」
「あっおねーさん。俺もレモンサワーお願いします」
「はい喜んでー」
「そういう所だよ」
「何が」
「店員さんを、おねーさん呼ばわりはもう、親父」
「何だそれ」
「だから、全否定されても、それは嫌いになったからで、別にバカでも、気持ち悪くもないから、安心しなよ」
「いやお前に慰められてもな」
「いや、あたしだって一応女なんだから。異性からの肯定は、異性からの否定と相殺されない」
「ああ、そうかお前も女だったな」
「今度はあたしが殺すぞ!大体、二十二歳の男女が二人きりで、居酒屋だよ、傍から見れば、ああ、あの二人は付き合っているんだなって思うでしょ。
おおい。フリーズするな」
「ああ、ゴメンゴメン。俺とお前は、幼なじみだから」
「そういうことじゃない」
「若い女はダメだ。
もっと年上で、俺を優しく包んでくれるような人じゃないと、たとえは人妻とか」
「でもそれは許されない恋だと思うよ。それに優しく包んでくれるかどうかは、年上とか、人妻とか関係ないと思う。第一、不倫で慰謝料とか請求されて、人生詰んじゃうよ」
「じゃあ、アイドルにお金をつぎ込むとか」
「それは許されないというか。恋じゃないと思う」
「なんで」
「だって、その人はそれでお金を稼ぐんだから、仕事だよ」
「じゃあ、あの笑顔は何なの?」
「疑似恋愛というか。あたかも恋があるように演技していると言うか」
「じゃあ。人間とかでなくても良いのか」
「例えば」
「アニメのキャラとか、人形とか」
「本当の恋なら、許されない恋というより、危ない恋だね」
「おねーさん。唐揚げ一つ」
「また、おねーさん呼ばわりしている。親父が」
「親父、親父うるさいな。年上の女に親父呼ばわりされたくない」
「三ヶ月、あたしの方が早く生まれただけじゃない。アッおねーさん、あたしにも唐揚げ」
「お前も言っているじゃないか」
「あたしは、女同士だから良いのよ」
「どういう論法だよ」
「て言うか、何であんたとあたしはここで飲んでいるわけ。あんたの失恋話を聞かされるってこと」
「冷たいこと言うなよ。友達だろ」
「いや恋バナは、同性同士が基本だから。まあ失恋は恋バナとは言えないかもしれないけれど」
「同性?そういうもの?」
「そういうものでしょう」
「ああ」
「今さら、納得するな。て言うかあんたあたしのこと女と思っていないんだよね」
「そんなことないよ」
「ぜんぜん、あたしに気を使わないよね」
「そんなことはないよ、でもお前とは心置きない関係というか、何でも話せると言うか、そういう関係ってよくない」
「まあ、悪くはないけれど」
「お前には感謝しているんだよ。誰かを誘う前にリサーチにつきあってもらえて」
「じゃあ、この間のディズニーランドはロケハン?」
「まあね、だから割り勘だっただろう」
「それは確かに」
「だから、いろいろ買ってやっただろう」
「確かに、あれな何だったの?」
「付き合ってくれたお駄賃」
「ああ、そうだったんだ」
「そんなに落ち込むなよ。
俺が振られたんだから、まあこれでしばらくはディズニーランドなんて行かないな。
付き合わせて悪かったよ。
でもお前も楽しんでいたからいいよな」
「うん。えっじゃあ、この間の観覧車は?」
「あれは、乗ってみたかったの」
「誰かと行く予定が」
「いや、まだない」
「あの」
「なに」
「なんで、あたしを誘ったの?」
「だって、観覧車なんて男一人じゃ乗れないだろう」
「ううん、確かに」
「何だ暗いな。今日は失恋して、落ち込んでいる俺を慰める会だろ、お前が落ち込んでどうするんだよ。良いんだよ俺に同調して落ち込まなくて。お前は明るく俺を慰めてくれれば」
「ねえ」
「うん」
「あたしさ。今日のために髪切ったの」
「そうなの」
「どお」
「どおって。前を覚えていないから」
「この服も、買ったんだよ」
「ああ、似合っているよ」
「今気づいたんだよね」
「えっ、ああ」
「ゴメン。今日は帰るわ」
「えっなんで、なんか気に障ること言った?」
「ううん、あんたのせいじゃないから。これ、あたしの分」
「五千円は多いよ」
「じゃあ、今度返して、じゃあ」
「なんだ、なにこれ。
えっ、これってもしかして」
居酒屋にて 帆尊歩 @hosonayumu
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