第10話 一人で食べたいランチ

 千尋と二人でお昼を食べてる。「ぼーっとしていたいから、話しかけないで」と呟いて、僕の前に座ってきたからだ。


『だったら、一人で食え』

「何か言いたい?」

「うううん、ご飯が美味しいね」


 って感じなので、一緒だけど別々とも言える。


 見境なく愛想を振り撒いてるから疲れるんだ、馬鹿な奴と思うが、つまんない。話しかけたらいけないのか、と携帯を片手にTwitterを眺めていると、ジョニーズの性加害の呟きが目にとまった。


「ねぇ、千尋、ジョニーズって大丈夫かな?今まで皆んな性加害なんて黙殺してたのに、一斉に手のひら返しだもんな。関係ないタレントのCMまで打ち切りって酷くない?」

「そういうものでしょ。個人の問題じゃない、組織ぐるみだったとしか思えない。会社としての命運は尽きてる」

「それはそうだけど、学校の不祥事で甲子園に出れないと同じだよね。罪もないのに犠牲になるのって変だと思う。タレントさんは頑張って欲しい」


 彼氏とディズニーランドに行ってきた、開園ダッシュがエグかった、、か。


「ねぇ、千尋、ディズニーランドって好き?」

「誠くん、何で話しかけてくるの?」

「何でって、聞かなきゃ良いじゃん」

「あんたとは行きたくない」

「気が合うね、俺も。でも答えになってないから」

「興味ないわ」

「ディズニーランドに行きたいってツイートしてる人は多いよ、まあいいや。ああいう非日常感が良いのかな?俺はリアルな非日常の方が良いけどな」

「リアルな非日常って何なの?」

「作りものじゃないし、日常的に経験してるからリアル。凄いよ!アリゾナの砂漠の中で100マイル走った時、ずっとサボテンだらけで人工物が何もないトレイルだったから、だんだんとサボテンが人に見えてきて、励ましあったり、一緒に走ったりした」

「それって幻覚?ちゃんとフィニッシュしたの?」

「当然!ロストしたけど、皆んな(サボテン)と一緒に3位でフィニッシュした。あちこちで転んで刺さったサボテンの棘が(自然に抜けたんだけど)、全部抜けるまで一ヵ月かかった。でも、星空を背にして浮かぶ紅い台地『メサ』が感動的だったな、、、もっと話してても良い?」

「話したいんでしょ」

「真っ暗な無人島を15周したこともある」

「馬鹿じゃないの」

「雑誌の企画で智也くんと一緒だった。夜の無人島って怖いよ。誰もいないのに誰かいるんじゃないかって、トレイルないとこも多かったし、命がけだった。夜が明けた時、あの智也くんでさえ、『二人とも生きてたね』って涙ぐんでた」

「 、、、」

「そうだ、全然違うけど、アぺマの将棋中継って凄くない?大盤解説の内容なんて全然分かんないのに、AIの勝率判断を見ながら、『そうか、其の手があったのか』って見てる、面白いよね。分かんなくても状況が分かるようになった気がする」

「 、、、」

「これは可哀そう、経○連の七倉会長が『少子化財源として消費税引き上げも有力な選択肢』って口を滑らせて叩かれてる。誰かを叩くより、将来の財源を議論した方が良いのにね。この際、七倉会長は『大企業が内部留保を海外投資に向けるのは、やる気のない日本に投資してたら、生き残れないからだ』とか言ってみればいいんだ。叩かれたら、叩き返す、黙るくらいなら言わなきゃいい」


「誠くんは悩みある?よく喋るし、食べるよね」と誠の携帯をとりあげる千尋。

「そんなことないよ、朝、食べてないから。食べるのは好きだけど、必要なだけしか食べてない。悩みだってある」

「悩みってなに?」

「直ぐには思いつかないけど、きっとあるよ」

「ないよ。でも変にストイックなのは分かる」

「昔、甘いもの食べ過ぎて歯がボロボロになって、彼女に怖いって泣かれて凄いショックだった。そのうち綺麗に生え替わったんだけど、お陰で甘いものは苦手になった。決定的だったのは鹿せんべい。夕暮れの奈良公園で鹿が美味しそうに食べてたから、若草山見ながら一緒に食べてみたけど、全然、美味しくなかった。砂糖とか化学調味料とか余計なものが一切入っていないからだけど、人の味覚ってもの凄く自然から離れているんだ、って、しみじみと思った。だから鹿に約束した。俺も余計なものは食べません、って」

『何だろ、目に浮かぶ、しかも凄く鮮明に』


「ところで、千尋は何でぼーっとしたかったの?仕事じゃないよね。彼氏と喧嘩でもした?(彼氏いないの知ってるけど)」

「ひょっとして、誠くんも結婚とかしたい?」

「分かんない。結婚しないと駄目なの?」

「でしょ。親が結婚を考えろとか、お見合いしろってうるさいだけ。27歳だから、心配するのも分かるけど、ウンザリする」

「福澤とすれば?美男美女のオセロカップル、お似合いだよ」

「何なの?オセロカップルって」

「裏表のあるカップル、楽しそうで羨ましい」

「有り得ない。似た者同士似って駄目だと思う」

「贅沢な悩みだね」

「じゃあ、贅沢は言わないから、誠くんがディズニーランドに連れてって」

「何で?」

「彼氏が出来たって写真でも送っておけば、しばらくは親も安心するでしょ」

「いやだよ、面倒くさい」

「勝手に走ってれば良いよ、ディズニー広いよ」

「広い?一周3kmしかない、10分でまわれる。それこそ福澤に頼めば?その方が親も喜ぶ」

「駄目だよ、親が本気になったら不味いじゃない。だから誠くんが良い」


『どういう意味?』って聞き返そうと思ったけど、千尋の笑顔に負けた。不覚にも『凄く可愛い、美人なのに』と思ってしまって、何となく、ディズニーランドに行く約束をしてしまった。

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おまえ、サラリーマンだろ? ナマケモノ @yayaya66

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