魔王株式会社のその後。

『もし、本当に斉賀さんを好きなら、全てを知った上で愛してあげて下さい。幸せに、大切に、大事にして下さい。そして裏切らず、離れず、一生好きで、一生愛して下さいね』


 俺の事が分かってたのか、当てずっぽうだったのか。

 魔王さんに最後に言われた言葉を、そのまま斉賀さんに贈った。


 今、斉賀さんは会社を畳む事に追われ、俺は元の場所に戻った。


 数ヶ月前、魔王さん暗殺計画が内閣情報調査室へ入った事が、斉賀さんに近付く切っ掛けだった。


 初めて魔王さんと2人だけになった時、サイルと引っ掛けられて、少し反応してしまったけれど、職場にはバレ無かった。

 俺がそう、バレない様に細工をした、バレたら斉賀さんから離されてしまうから。


 元々は裏方で内偵をしていたけれど、暗殺計画の情報が入る前、斉賀 真琴が男漁りをする様になった。

 連れ込む用の家を借り、少し年下の長身の男を連れ込んで、飽きれば綺麗に捨てて。


 そして俺らはまんまと食い付かされた、魔王の組織が崩壊するかも知れない、と思わされた。

 全ては斉賀さんの思惑通りだったのに。


 身近に潜り込む為、俺は斉賀さんの情報収集をし、タクシー運転手として近付いた。

 そしてメンクイの2人は直ぐに俺を重用してくれた。


 けど、その頃にはもう好きになっていた。

 魔王さんも好きだったけれど、何処までも頭が良くて、魔王さんが大好きな斉賀さんに惹かれてしまった。


 表舞台には立たず、魔王さんが最優先。

 マジでヤれたら良いな、幸せにしたいな、と思ってしまった。


『おい、冴島、あの女どうする』

「見張りが居た方が良いと思うんで、やっぱり俺ですかね」


『まぁ、アレ以来忙しいのも有るだろうが、漁ってもないしな』

「ぶっちゃけ今は単なる小金持ちなんで、警戒心は暫く高いと思うんですよね」


『まぁ、頭が良いって噂だし、他に付け入られても面倒だしな』

「んで、そのまま結婚すれば一生監視出来るんで、良いと思うんすけどね」


『確かに美人だが、あんな年増が良いのかお前は』

「いやー、何か相性が良いっぽいんすよね、最後だって何だかんだ強請られましたし」


『はいはい、まぁ、もうアレは居ないんだ。好きにしても大丈夫だろ』

「あざーっす」


 アンタより頭が良い。

 アンタより若くて、優しい。


 そして暗殺計画の送り主は、魔王 杏子。

 けれど今回現場に居て分かった事は、計画は斉賀さん1人で考えた事、送信させられた魔王さんは気付いてたかどうかは分からないまま。


 なので、何も分からない者にしたら、自殺計画。

 少しでも何かを知っているか、斉賀さんと魔王さんを知っていたら、暗殺計画として捕えられる出来事として、終わった。




「冴島君、辞令は地方公務員って事で良いかな」

「はい、ありがとうございます」


「あの女狐の監視は大変だろうけれど、任せたよ」

「はい」


 全然、平気です、ご褒美です。




「あの、兄とは」

「あぁ、会社で重用して貰ってたタクシー運転手だったんですよ。それで、そこまで親しくないけど、年も近いし、良いヤツだったから」


「ありがとう、ございます」


「俺が言うのは変かもだけど、魔王さんを」

「恨んでません、私も、両親も、兄だって。逆にもう、一緒で良かったと思ってます、色々言われてるけど、兄と魔王さんは好き合ってたと思うから」


「うん、俺もそう思う。だってもう二条さんと魔王さんの話ばっかりだって、会社の全員知ってたし」

「ですよね。二条さんも居てくれて、兄はちょっとウブだから、居てくれて助かってると思います」


「3人仲良く過ごしてると思うよ、来世で」

「ですよね、来世で」


「じゃあ、元気でね、雑音に負けないで」

「はい。本当に、ありがとうございました」


 生まれ変わりとか、転生だとか、ましてや転移とか全く信じて無かった。

 それは信じる理由が無かったから、信じる意味が無いと思ってたから。


「あー、新田さんじゃないですか」

「あ!冴島君!元気だった?大丈夫だった?」


「俺は少し離れた所に居たんで、けど親が五月蠅くて」

「だよね、息子が住んでる街であんな事が有ったら、私だって五月蠅く言っちゃうと思う」


「すみません、何も挨拶出来無くて」

「良いの良いの、元気な姿が見れたから」


「あの魔王さんの事」

「私、もう退職したから、だからごめんね、詳しい事は知らないの」


「忘れたい、ですか」

「ううん、最高に幸せな職場だったから、もう、家に収まる事にしたんだ」


「あ、すみません、おめでとうございます」

「ありがとう。冴島君、今日は挨拶回りだけ?」


「いえ、俺、就職しようかなって。ココの公務員に」

「そっかそっか!じゃあ、また会えるかもだね」


「はい、引き留めてすみません。じゃあ、また」

「うん、またね!」




【あぁ、お帰り下さい】

「斉賀さん、あのね、俺ココら辺の公務員になる予定なんだ」


《は》

「あ、ちゃんとチェーンして偉いね」


《と言うかココオートロックの筈ですが》

「じゃじゃーん」


《な、いつの間に》

「通報される前にね、入れて、お願い」


《外では》

「色々話したいし、少しだけ、お願い」


《はぁ》


 どうしよう、ワンチャン、このまま放置の可能性も有るんだよなぁ。

 角部屋だけど侵入し難いし、今はまだ明るいし。


 あ、マジで開けて貰えないとか。


「斉賀さん、鬼電して良い?」


 お、開けてくれた。


《話を5分で終わらせてくれない場合は、私がこの部屋から出て通報します》

「玄関先で?」


《残り4分55秒、4、3》

「結婚しよう?」


《は?》

「姓はどうでも良いから任せるけど、子供は何人欲しい?」


《結構です》

「俺の顔も斉賀さんの顔も褒めてたし、きっと作れって言うと思うよ」


 斉賀さんも人間。

 ヤったら情が湧く人。

 この前までは泣かなかったのに、今はポロポロ直ぐ泣く、まるで魔王さんみたいに。


《ほら、泣きましたよ、満足したなら帰って下さい》

「今日は喜んで欲しかったんだけど、全然泣いても良いよ、アリ」


《それで、何を、喜べば良いんですか》

「俺と結婚する事」


《監視ですか》

「そうそう、斉賀さんは意外と弱くて脆いから、一生監視しないとだし」


《交代は、無理ですよ》

「頼まれてもしない」


《見ての通り、ややこしくて、面倒な年増ですよ》

「個性、味だし」


《隠居するお金しか、無いですよ》

「うん、俺も働くから大丈夫」


《こんな女の、何が良いんですか》

「全部」


《もし、断ったら》

「斉賀さんに近付く男を一生排除し続けて、定期的に俺がちょっかいかける」


《もし、受け入れたら》

「斉賀さんに近付く男を一生排除し続けて、一生俺が幸せにする」


《脅迫ですね》

「ううん、愛の告白」


《指輪は》

「はい」


《婚姻届は》

「はい、記入済み」


《何で連絡しなかったんですか》

「親とか仕事とかで忙しくて、コレでも最短だったんだけど、寂しかった?」


《もう、5分経ちましたね、出て行って下さい》

「あ、はい、避妊具も」


《馬鹿じゃないですか》

「大丈夫、妊娠する決心が付くちょっと前にしか穴は開けないから」


《開ける位なら外せば宜しいのでは》


「え、して良いの?」

《ち、安い女だと思われたく無いので、今日は帰って下さい、お願いします》


「分かった、じゃあまた明日来るね」

《さようなら》




 それから3日通って、漸く部屋にあげて貰ったから、秒で食べた。

 我慢しても意味が無いし、もしかしたら3時間後には死ぬかも知れないんだし。


「眠れない?もう1回する?」


《あの子の遺言ですか、あの言葉》

「今思うと、そうなのかもだけど、どうして?」


《同じ事を言われたんです、魔王らしく予言したいと言って。本当に私を好きな人は現れる、全てを知った上で愛してくれる、だから幸せになって欲しい。大切に、大事にされて、裏切られないから大丈夫。だから離れようとしないで、好きになって良いからね、一生愛されるから大丈夫。って》


 初めて、魔王さんが怖くなった。

 それは何でなのか分からないけれど、いや、分かるから怖い。


 全て、全部知ってて、分かった上で死んだ。

 2人の人間を巻き込む事を承知で、敢えて死んだ。


「一生愛します、大好きです、だから離れないで下さい。裏切りません、大事にします、何よりも大切にします。だから俺と一緒に幸せになって下さい」


 魔王さんが言った言葉を、敢えて逆の順番で言った。

 コレは祝詞で、呪いで、誓い。


 こう言えば斉賀さんが喜ぶ、受け入れる、そう分かった様な感覚で言葉を紡いだ。

 そう信じて、思い込んで、それが当然叶う様な感覚で。


 少しして、斉賀さんは手を取ってくれた。

 魔法に掛ったみたいに泣きながら笑って、本当に俺を受け入れてくれた。


 魔法が本当に有れば良いと思った、それから生まれ変わりも、転生も転移も。

 俺に魔法を使わせてくれたお礼には足りないだろうけれど、俺も信じる、魔王さんがあの幸せにな世界に生まれ変わってるって。

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株式会社PE~魔王様は前世交代請負人~ 中谷 獏天 @2384645

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