プロローグの続きとエピローグ

◆◆◆白木いろはが異世界へ転移する直前、いろは視点。



「あとそれから、あなたには特別な力をあげるわ」


 私を異世界へ飛ばす直前、女神が告げた。


「別にいらないけど」


「いいからもらっておきなさいよ。でも、あなたは何の希望も言わないから、私の方で決めさせてもらうわね。とても特殊で、危険な能力をあげるわ。そして、今は教えてあげるけど、すぐに能力に関する記憶を忘れさせる。あなたはこの能力を無意識でしか発動できないわ」


 そんな面倒なことをするなら、能力なんて持たせなければいいのに、と思ってしまう。


「どんな能力? 嫌いと思った人間を消せる能力とか?」


「私、女神なのよ!? そんな死神みたいな能力を渡すわけないでしょ!」


「じゃあ、何なの? 早く教えてよ」


 記憶を消されるにしても、気にはなった。


「……本当に無気力ね。いいわ、単刀直入、単純明快に説明してあげる。あなたが好きになった人間は絶対に死なないわ」


「何それ? スキル名を教えてくれる?」


「そんなものないわよ。私たちはあなたたちみたいに全ての力に名前を付けないわ。もう一度言うわ。あなたが好きになった人間は絶対に死なない。それが愛情であれ、友情であれ、あなたが死んでほしくない、って思った人間は寿命以外では死なないわ」


「よく分からない。それに私が誰かを好きになることなんてありえない」


「それはどうかしらね。もう一度、必死に生きてみなさい。あなたにはそれが出来るわ」


「だから、私にそんなことは……」


「ああ、もう! 良いから、もう一度、必死に生きてみなさい! 人間だって良いものよ!」


 女神はそう告げて、私の額をトン、と叩いた。


 すると私の意識は遠くなっていく。







◆◆◆ナイトハルトが敵の総旗艦へ特攻した直後、ナイトハルト視点。



 僕は敵の総旗艦へ突っ込んだ。


 一瞬で意識は無くなって、気が付いたら、この白の世界にいた。


「ここはどこですか?」


 目の前にいる女性に尋ねる。


 僕はこの人を知っている。

 いろはを僕に買うように指示した人だ。


「よっしゃ!! 見たか、小娘! チョロ! チョロイン!! なにが『私が誰かを好きになることなんてありえない』よ! しっかり男とよろしくやっているじゃない!」


「え? あの……」


 この人のことは覚えている。

 でも、あの時とは印象が違う。


 何だか、今はかなり俗っぽい。


「あっ、ごめんなさいね。嬉し過ぎて、はしゃいじゃったわ。私は女神よ」


「女神様?」


 それにしては品が全くない、と思ってしまった。


 いろはの方が女神に見える。


「あなた、失礼なことを考えていないかしら?」


「い、いえ、そんなことないですよ」


「そう? まぁ、良いわ。あなたを生き返らせるわね」


「え?」


 女神様が簡単に言うので、聞き逃しそうになってしまった。


「嬉しくないのかしら?」


「いえ、嬉しいです。でも、そんな簡単に人を生き返らせて良いんですか?」


「良いわけないじゃない。いくら女神や神でも人を同じ世界へ生き返らせるのは禁止されているわ。あなたを生き返らせるのは、私じゃない。白木いろはの力よ」


 えっ?

 いろはの力?


「あの子の能力や体験を口で言うのは長いし、重いわ。どうせ、ここでの出来事は忘れるから、直接教えるわね」


 女神様はそう言って、僕の額をツン、と小突いた。


「!!?」


 その瞬間、いろはの転移前の人生や女神様からもらった能力のことが頭に流れてきた。


「ちょっとしっかりしないよ!?」


 僕は倒れそうになる。


 脳内へ流れてきた記憶、いろはの人生は壮絶だった。


「分かったかしら?」


「どうして?」


「ん?」


「女神様ならなんで、いろはの家族があんなことになる前に助けなかったんですか!?」


 僕は女神様に詰め寄った。


 でも、女神様は涼しい顔をする。


「あなたは野生の生き物同士の争いに関わるかしら?」


「はい?」


「例えば、肉食動物が草食動物を襲っている。草食動物が可愛そうだからって、助けるかしら?」


「そ、それは……」


 食物連鎖、と言ってしまえば、仕方がない。


 僕ら人間は、人間同士で争っているから神や女神がどちらかに味方することは出来ない。


 それは分かる。


 分かるけど、受け入れられない。


「それに付け加えるなら、人間に気付かせる為」


「気付かせる、ですか?」


 女神は僕に迫った。

 怒っているわけじゃないはずなのに、威圧感がある。


 初めて出会った時に感じた異質な感じだ。


「そうよ。あなたたち人間は知能では他の生き物を圧倒している。でも、馬鹿だわ」


 戦争に関わっている僕は女神様の言葉を否定できなかった。


 戦争こそ、人間が行う最低の愚行だと思う。


「衝撃的な出来事が無いと人間は気付けない。白木いろはは言ってしまえば、人柱よ」


「人柱?」


「彼女は元の世界でとても悲劇的な目に遭ったわ。その結果、世間が注目したのよ。そして、いじめ問題、犯罪者の加害者家族に関する議論が加速し、いろはの世界はよりいい方向へ向かったわ。人を犠牲にして、人の社会を良くする。人類を一つの形、としてみるなら、おかしくはないと思うわよ?」


 僕らよりも上位の存在に言われてしまうと何も言えない。


「でもね、私たちだって非情じゃないわ」


 女神様は微笑む。


「世界を良くするために犠牲になった人には救済を与えているのよ」


「それが特別な能力を持った状態であなた方が選んだ世界に転移や転生をさせる、と言うことですか?」


「そうよ。あの子はそれを拒絶したから、ちょっと変わって展開になったけどね。いや~~、君を選んだ私のセンスは完璧だったわ。…………で、あなたはどうするの?」


「僕ですか?」


「私はこのままあなたを元の世界に戻すつもり。多少は無理をして、帳尻を合わせるけど、最終的にはいろはさんと再会できるわ。でも、あなたにはもう一つの選択があるわ」


「それは何ですか?」


「あなたは特攻攻撃という非人道的な戦術を後世に残す役割を全うしたわ。あなたが望むなら、特別な能力を持った状態で別の世界へ転移させてあげる。あなたは元の世界でいろはさんと普通の人生を過ごすか、別の世界で英雄や勇者になるか、二つの選択があるわ」


 なんだ、それなら選ぶ余地なんてない。


「元の世界に戻してください」


「…………良いのね? ここでの会話はすべて忘れるし、あなたが元の世界に戻っても特別な力は何もないわよ? 決して、物語の主人公にはなれないわ」


「だとしても、僕はいろはと一緒にいたい。別の世界で英雄や勇者になるよりも、いろはの側にいたいんです」


 こんなことは初めから決まっている。


 僕が宣言した瞬間、女神様は溜息をついた。


「面白くないわね。もう少し悩みなさいよ。それに甘いわ。甘すぎるわ。チョコレートに蜂蜜をかけたくらい甘いわ!」


 などと女神様は文句を言う。


 やっぱりこの人は女神様っぽくないな。


「まぁ、良いわ。それじゃ、元の世界へお行きなさい」


 僕の足元へ穴が出来た。


 ここへ飛び込めば、元の世界へ戻れるということだろう。


「最後に一つだけ言わせて頂戴」


 女神様の雰囲気が変わった。


「白木いろはを幸せにしてあげて。あの子が人間で良かったと思えるくらいの幸福をあなたが与えてほしい」


 女神様は心の底から言っているようだった。

 人間に干渉できないけど、人間のことは好き、それがこの方の本質な気がする。


「もちろんです」と言い、僕は穴に飛び込んだ。




――――おわり

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【中編】奴隷の私と優しいご主人様~チート能力無しで異世界転移して、奴隷になってしまった私の物語~ 羊光 @hituzihikari

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