最終話 幸せの連鎖
散々イチャイチャした後……紗織を抱きしめながら話しかけた。
「なあ、紗織。心配しないで聞いて欲しいんだけどさ……俺、この家出て部屋を借りようかと思うんだ」
「え?」
「……それで、紗織さえよかったら一緒に来ないか? 今のこの部屋のクローゼットじゃ二人分入らないし、風呂上がりとかも、今は俺の父親の目とか気にしないとじゃん?」
「え、でもお金とか……私バイト分くらいしかないよ?」
「それは大丈夫。俺、春からの就職先決まったし、就職が決まれば春から一人暮らしするつもりで貯めてたから、それが早まるだけだし。で、一緒に住んでみて無理ーって思ったら、紗織が今いるこの部屋を自分の部屋にしたらいいよ」
「うん! じゃあ、一緒に行く!」
……
…………
——そうして、紗織と新居での同棲が始まって数年後。
俺の実家は、また三人暮らしになっていた。
父と、彩奈さんと、もうひとりは……
紗織ではなく、俺でもなく。
父と彩奈さんとの子ども。つまり俺と紗織の弟。
そして……
紗織のお腹の中にも、小さな命。
「いやーまさか自分の子どもと自分の弟が同い年になるとは思わなかったな」
「そうだね、しかも夫婦二人共のきょうだいなんだからすごいよね」
そんな事を言って笑いながらマタニティ用のウエディングドレスを選ぶ。
「ね、ね、今日産婦人科で、お腹の赤ちゃんが男の子か女の子か聞いてきたよ!」
「え、どっちだった!?」
「今のところ女の子みたいだって!」
「そうかー、それなら紗織に似て可愛いだろうなあ」
「……ねぇ、生まれたら赤ちゃんばかり可愛がらないで、私も可愛がってね?」
「当たり前だろ? どっちも可愛がるよ」
「へへ」
思えば俺たちはいろいろと順番がおかしかった。
兄妹になる前から知り合いで、
付き合うより先にすることして、
付き合ってすぐに同棲を始め、
結婚するより先に子どもができた。
俺の思っていた普通とは随分違ったけど
大切に思える人と出会えて共に幸せを感じられる事は、この上ない幸せだと思う。
余談だけど、父と彩奈さんは再婚する何年も前から付き合っていたらしい。
けれど俺と紗織がいるから再婚をためらっていた。
そんな時、父の店の人手が足りなくなったタイミングと、紗織がバイトを探し始めたタイミングがちょうど重なり、彩奈さんが仲介となって父の店で紗織がバイトを始める事となり、俺の後輩になったということだった。
その後、紗織はバイトから帰ると彩奈さんに俺の話ばかりするようになり、彩奈さんはすぐに紗織が俺のことを好きなんだと気付いたらしく、血は争えないなとこっそり笑っていたらしい。
そして父も、仕事中の俺と紗織のやり取りを見ていて、あまりに仲がいいから付き合っていると思っていたらしい。
ああ、だからそこに被災が重なって、父と彩奈さんは再婚する事にして、俺と紗織が同じ部屋だったのか。
……そう思うと、偶然は必然だったのかもしれない。
そして、顔合わせ前に紗織は、彩奈さんから俺と兄妹になる話を聞いていたらしい。俺の父親は恥ずかしくて俺に言えなかったらしいけど……
顔合わせの時、俺だけがびっくりしていたあの感じはそう言う事だったのか。
——そして、あっという間に訪れた挙式当日。
俺たちは、神の前で誓い合うのだ。
「健やかなる時も、病める時も……愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?」
「はい、誓います」
そして、誓いのキスをした。
紗織はやっぱり涙目で赤い顔をしていて、その唇は少し震えて涙の味がしたけれど、それはあの時のしょっぱさとは違った甘い味がして。
あの日俺の義理の妹、兼、彼女になった紗織は
————今日からは、最高に可愛い、俺の嫁。
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