第11話 『……襲うぞ?』

——後日



「いただきまーす!」


「ねぇねぇ、お義父さん、聞いてよーお兄ちゃんたら今日バイトの時にねー……」


「あはは、そうなのか? 拓真」


「紗織ー。変なこと父さんに言うなよー」


「えー? だめ? えへへ、ごめーん、お兄ちゃん」


「……ほんとに拓真くんと紗織は仲がいいわねえ」



 毎日とはいかないものの、揃う時は家族四人で食卓を囲んで、談笑しながら仲良く暮らしている。


 そして。


「お兄ちゃん、お風呂あいたよー!」


「ん、ありがと。入ってくる」


「うん!」


 いつの間にか紗織が入った後に俺が風呂に入るのが毎日のルーティンになっていて。


 風呂の後部屋に戻ると……


……カチャ


「ただいま、紗織」


「おかえり、拓真っ」


 紗織の俺の呼び方が、お兄ちゃんから名前に変わる。


「あれ? 紗織、新しいルームウェア買った?」


「へへーさすが拓真。気付いてくれるの嬉しいなー。ね、ね、見て、下着も買った!」


「ちょ、お前見せてくるなよ」


「えー! いいじゃん、二人きりなんだし! 拓真に見せたくて買ったんだよ? ……それとも、もっとえっちぃやつの方がよかった?」


「……ばか。襲うぞ?」


「やーん、お兄ちゃんに襲われるー!」


「……お前っ、もう、変な言い方するなよ。なんかイケナイ事してるみたいじゃないか」


「えー? 間違ってないけどー? それとも、イケナイ想像してたのかなあ、お兄ちゃんは!」


 いたずらっ子みたいな顔して、紗織はよくそんなことを言ってくる。


 けど。


「あーあー。妹を襲うとか良くないもんなー? やっぱりやめよっかなー?」


「あー! うそうそうそ、やだー。拓真、ごめんってば。しよ?」


 俺がそんなことを言うと、決まって紗織はそう言って、俺に抱きついて甘えてくるのだ。


「どーしよっかなー。じゃあ、俺のために買ったそれ、もっとちゃんと見せて」


「えー、恥ずかしいからやだー」


「なんだよ、じゃあ見ないで脱がすぞ」


「それもやだー。……そーっと見て」


 そんなことを言って、赤い顔しながらルームウェアのファスナーを再び下ろす紗織。


「あれ? 紗織また胸でかくなった?」


「そーなんだよね、結局2カップくらい上がった」


 毎日イチャイチャしているせいか、紗織の成長期なのか、“小さいから” という理由で元彼に振られた紗織の胸は、全然小さくなくなっていて。


 いや、もともと一般的に見ればそこまで小さくもなかったのだけど。


「それ見たら元彼、悔しがりそうだな」


「……あ! 忘れてたけど実は昨日、元彼にヨリ戻そうって言われたから、『今、過去イチ大好きで、最高の彼氏いるからごめーん』って断ったよ」


 ……俺の知らないところで、見事なまでのざまぁな展開が起こっていた。


 まぁ俺は小さくても大きくても、紗織自身が好きだから関係ないのだけど。ただでさえ可愛い紗織に、さらに変な男が寄ってくるかと思うと気が気でなかったりもする。


「当たり前だ。俺ほど紗織を大切にする男はいないからなー」


「ねー、口ではかっこいいこと言いながら、手はしっかり揉んでくれてるんですけど?」


「だって俺の彼女だし」


「そうだけど! あの時はあんなに誘ってもなかなかしてくれなかったのにー」


「だってあの時はまだ彼女じゃなかったし。……いやか?」


「まさか。紗織は拓真のだもん」


「襲うぞ?」


「望むところでーす」


 そしてどちらからともなくキスをする。


 今じゃすっかり、“したら振られる” なんて不安も消え去ったみたいで、紗織はなんとも言えない幸せそうな顔をして


「ねー、大好き。やっぱり思ってた通り、あの時より何倍も好き。最初はね、妹になれたらずっと拓真といられるって嬉しかったんだけど……やっぱり彼女になれてよかったなあ」


そんな事を言うから、なんかグッと来て。


 紗織の胸の感触を掌に感じながら、俺の心もしっかり紗織に鷲掴みにされているなと感じるのだった。

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