〜Ⅷ.贏輸〜

 我々は爆撃が行われているであろう市街地へ向かった。そこには大量の飛行船の残骸があった。

「なんだ。我が飛行船部隊が壊滅だと。火焔大砲を避けれなかったのか?いや、フィリウルテルがそんなへまはするはずがない。」

「どうしますか。」

 臣下のシャンテ•ウセンが言った。

「まず、先の兵士達を皆殺しにしろ。」

 ボッボッボッシューー

「早く戻れ。東ストビアン軍だ。」

 すると爆発音がした。

「なんだ!」

 私は振り返ると先の兵士の監視を頼んでいた味方の飛行船が炎をあげて墜落していた。まさか、城壁に登ったのか。

「皆の者第3区に行け直ちに住民に避難命令を。鐵道トンネルを抜けて逃げろと。お前らも避難しろ。散れ!」

 皆が散っていった。私はフィリウルテルを探す暇もないし生きている確証すらなかった。

 駆け続けた。そして避難塔に行った。

「我が街の市民達よ。本当にすまない。我々は今回戦に負ける。なんとか足止めはするが無理だろう。家族を連れてトンネルから逃げなさい。」

 塔の中はパニックに陥って皆が門から逃げ出した。私は角笛を吹いた。

「集い給え騎士達よ。我々は住民避難が終わるまで城壁から大砲を放つ。正し、家族がいる者は家族の元へ行くが良い。しかし、他の住人も守ってやってくれ。」

 騏驥が集まり、我々は第3区で最終防衛戦を行った。要塞方からは砲撃音が絶え間なく続いた。敵もこの城にある旧技術を得たいようで建造物への攻撃は極力避けられた。しかし、遂に鉄の門は破壊され、我々は撤退を迫られた。

「騎士達よ。ここは捨てよ。私に着いてこい。チゼビ城まで退去する。家族と共に逃げるのだ。」

 我々はトンネルまで向かった。向かう途中、避難塔門の前にシャンテと敵集がいるのが見えた。私は急旋回し、彼の元へ向かったが間に合わず彼は刺殺された。私はそのまま彼の元へ向かい鹿で轢き殺した。彼の後ろには彼の妻がいた。

「すまない。私の責任だ。ただ、今は逃げてくれ。彼は必ず天国に行けるだろう。」

 すると彼女は泣きながら私への感謝を述べた。私は鹿の背中に彼女を乗せトンネルを抜けた。避難民の多くはチゼビ城へ行った。私は彼女を城内で下ろした。そして軍事基地まで駆けた。門まで行くと門兵は私を通してくれた。

「フェーニス様、ご無事であられて何よりです。」

「ああ、結局何人ここまで辿り着いたか分かるか。」

「フィリウルテル様が未だいらしていないです。」

「ああ、そうだな。」

「まぁ、我々と話すより先に中へ。」

 私は城内に入った。練兵場では三等兵が話をしていた。

「あの、フェーニスの青二歳のせいで正義の城が落ちたんだとよ。全く何をやってるんだかな。」

「そうか、だからこんなに上級騎士が集まってるのか。俺はまたどっか攻めるのかと期待してたのによ。」

 私は彼らの横を通り過ぎ、彼等の首を飛ばした。私は拠点内に着いた。

「フェーニス様、ご無事で何よりです。我々は既に、これらの騎士様方によって状況を把握、軍事総司令官に連絡をさせました。ご心配なく。」

「ああ、分かった。」 

 何故ここまで運がないのかと自分を呪った。

「反撃の準備はできています。騎馬隊も戦鹿隊も用意しております。」

「いや、反撃命令はいらぬ。我々はまともに戦おうとも勝てん。今ここまでこれた我が騎士団の人数は幾つだ?」

「450ほどかと。」

「それが物語っている。この惨敗の最たる原因は敵の持つ火炎放射器だ。」

「火炎放射器って、本当に。」

「あるぞ。敵も使っている。対処法はあるにはある。鹿に乗って、火炎放射と同時に跳び、それを避ける。それでも熟練の騎士達が半分は死ぬ。それをお前らが出来るか?だから、徹底防衛線をはり、これより一歩も先には行かしてはならぬ。我々はロングボウによる一斉射撃で敵を亡ぶる。又敵も遂に飛行船も作った。対空砲は配られているはずだ。準備せよ。敵はもうすぐこの街にくるだろう。私はこの街の構造を再確認してくる。皆も最善を尽くせ。解散!」

 私は市街地へ向かった。そこでシャンテの奥さんに出会った。しかし、彼女は男と抱き合っていた。

 なんということだろう。シャンテ、お前という奴は。しかし、私が言えたことではないな。私は彼女の前を通り過ぎた。

 私は城壁を上り望遠鏡を広げ、辺りを確認した。そして山の上の雲の奥に薄らと白い物体が見えたように感じた。

「衛兵長。其方は雲の中に何か見えるか。」

「いえ、私は何も。」

「何か白い物体があったように思えるのだが。」

「では準備も兼ねて対空砲用意致します。」

「ああ、頼んだ。」

 ブォォォォォブォォォォォブォォォォォ

「敵襲、約五キロで停止。雲間より出現せし。」

 見張り塔の兵士が叫ぶ。

「やはり来ていたか。」

 私も角笛を吹く。

「衛兵長、敵には地上部隊もいる。トンネル内にいる可能性が高い。今すぐロングボウ兵を配備せよ。」

「了解いたしました。城壁第二層に弓兵を配置し、上部には対空砲を配置させます。」

「頼んだぞ。」

 1人の兵士が練兵場まで駆け、数分後には大量の弓兵が来た。私は角笛を吹き、騎士を招集した。

「衛兵長、我々は門を出て奴らを馬上から射殺す。しかし、もし危なくなった時は我々は突撃する。そこに矢を射て欲しい。さすれば盾は上に構えられ、装甲は脆弱となろう。」

「承知いたしました。」

「うむ。」

 そこに騎士達が集まってきた。

「騎士達よ。我々は門から出て奴等に矢の雨を降らす。皆弓を加え、鹿に騙れ。」

 我々は門を出た。するとトンネルから軍勢が陣形を組みながらやってきた。

「敗北者よ。降参を命じる。さもなくば、市民は皆殺しだ。」

 それはスツァーニにの声であった。

「スツァーニか。これが窮鼠猫を噛むというやつか。」

「漸く名を覚えたのか。阿保鼠が。」

「鼠はお前らだ。文脈の理解もできない程お前の脳味噌は軽いのだな。鼠というのは。」

「なら、何で鼠に負けているのだ?」

 その時何千何万という風切音がした。それは敵の矢であると理解するのにそう時間は要さなかった。

「散れー。」

 私は叫んだ。騎士達が倒れることはなく、皆が矢を避けた。

 そして私は角笛を吹いた。

 ブォォォォォブォォォォォブォォォォォ

 そして城壁より幾万もの矢が放たれ我々も彼等を撃った。

 シューシューボッボッボッ

「火焔大砲が放たれる。散れ!」

「退避。退避。」

そして弾は城壁に向けて放たれた。しかし、この旧技術によって作られたこの堅牢なコンクリートの城壁は貫通さえしなかった。

我々はトンネル内に輝いた光から大砲の位置を暴いた。

「手榴弾を投げろ。」

我々は一斉に手榴弾を投げ、トンネル内で爆発した。轟音が共鳴し、人々の悲鳴と共にトンネルは崩落した。

 シューシューボッボッボッ

 シューシューボッボッボッ

 シューシューボッボッボッ

 シューシューボッボッボッ

 シューシューボッボッボッ

上空からこの音が聞こえた。それと共に横に飛行線の残骸が落ちてきた。私が城壁を振り返り見ると対空砲から火が放たれていた。そしてコンクリートの城壁が凹んでいる。我々はすぐさま城内に戻り城壁を上り、対空砲を放った。そして、全ての飛行船を撃ち落とした。

   我々は勝利した。

そして、私は辺りを見回した。惨憺たるものであった。街は火災が発生し、家は潰れ避難民の仮テントは全焼していた。

シャンテの奥さんをふと思い出した。

「死んだな。」

騎士達ももうほぼ残っていない。血と火薬の匂いがし、囂々と炎が燃える音がする。悲鳴は聞こえなかったことが、死者数を物語っていた。私はスツァーニの首を取り、軍事総司令官に見せねばならない。私は城を出てトンネルへ向かった。あわよくば尋問ができるかもと希望を抱いたが、彼は無論、屍であった。私は彼の首を捥ぎ、鹿に乗って寛歩した。

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太陽の沈む国 鵜山 定水 @monastic_knights

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