朝陽、そして春のメロディ

高村 芳

朝陽、そして春のメロディ


エコー画面私のからだに心臓二つ もう戻れぬと脈打つ鼓動


マタニティマークで微笑む母と子に不安と期待を見透かされてる


毎週末楽しみにしていたアルコールきっぱり止めれるいのちの重さ


コンビニのおにぎりばかり口にしてごめんごめんとおなかに謝る


座りたい心の中で唱えても電車の席が空くわけじゃない


生きてるか死んでいるのかわからない待ちわび焦る健診の日


おめでとう。おめでたいね。おめでとう。私は頑張れがほしいのに


休職し鳴らない電話見て気づく私じゃなくても世界はまわる


ぼこぼこと腹の内側蹴り殴るそのか弱さを抱きしめ眠る


息切れとおなかのはりと貧血と足の痛みとむくみと涙


本や服ヒールや家具を片付けて自由も一緒にゴミの日に出す


深夜二時痛い痛いと叫びつつ汗滲む手で柵握り締め


痛すぎる、息ができない、血が足りない。それでも私は母になるから


朦朧とする意識のなか泣いている赤子の声は美しく鳴る


胸のうえ置かれた我が子の赤い顔 窓から差し込む朝陽が照らす


一晩じゅう支えてくれた夫の寝顔 子にそっくりで思わず撮影


はじめての抱っこと授乳おむつ替え泣き叫ぶ子に謝るばかり


腕のなかすやすや眠る子の寝息思わずこぼれる涙を拭いて


毎日が新しいこといっぱいで置いてかれぬよう必死に追いかけ


晴れの午後眠る子の顔のぞきこみ自然とこぼれる春のメロディ


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

朝陽、そして春のメロディ 高村 芳 @yo4_taka6ra

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ