もう、キミは知らない人

CHOPI

もう、キミは知らない人

 SNSの発達の恩恵(私にとってはどちらかと言えば、有難迷惑な話な場合が多い)で、かつての遠い記憶の中に埋もれつつあった小学校の同級生とつながった。


 彼とは小学校の6年間一緒のクラスだったけれど、その後の中学校、高校などの事は全くもって何も知らない。仲が悪かった、とかではなく、むしろ男女間とはいえ小学生だ、仲はいい方だった。だけど所詮学生なんて、環境が変われば連絡はおざなりになった。まだスマホを持たせてもらう前に会わなくなってしまっていたから、連絡先の交換なんてしていなかったし。


 最初はDMでぎこちない会話だったけど、かつての思い出話を始めた途端に一気に距離感が戻っていく。そのうちDMだけじゃ物足りなくなって、実際に会って話したくなった。


 ――『時間がある時に飲みにでも行こうよ』


 大人と言われるよわいになってだいぶ経つ。なのにどうしてか、言いなれた誘い文句にほんの少し違和感を覚えた。少しだけ考えて、まあそれも仕方がないことか、と納得する。だって私が思い返せるのは、どうしたって小学生の彼のままだから。


 ******


「……久しぶり!」

 突然後ろから声をかけられて驚いてしまう。振り返るとそこにいたのは件の彼だった。

「ひ、久しぶり」

 驚きすぎてどもってしまったけれど、彼は特に気にもせず『じゃ、行こうか』と言って先を歩き始める。置いて行かれないよう、その後を少し小走りで追いかけた。


 近くのチェーン店に適当に入る。席に着いてすぐ『とりあえず生ひとつ』と彼が言ったので、追いかけるようにして『私、レモンサワー』と言う。店員さんが『かしこまりましたー!』と威勢のいい声をあげながら下がっていって、そうしてようやく私は少しだけ息をついた。


「まじで久しぶり。何年ぶりだ?」

 話始める彼の声に全然慣れない。頭の中で再生されるのは、かつての小さな彼のまだ高かったソプラノ音で。目の前の彼の声となかなか一致してくれない。

「……十……」、そうやって数えて、少し嫌になった。そんだけ経っていれば、そりゃ嫌でも人間は変わる。まして小学生の頃が最後の記憶だなんて、変わるに決まっている。そのまま黙った私を見て、だけどそこまで気にしなかったのか。彼は『そっかー』とだけ言った。


「……たばこ、吸って良い?」

「え、吸うんだ?」

「そこまでではないけど、気分でね」

 そう言って彼がたばこを取り出した。たばこを咥えて、カチッと小気味の良い音をライターで奏でる。そのまま吸って、こちらに煙が来ないよう横を向きながら、私とは反対側で口に隙間を作って煙を出している。社会に出て嫌というほど見てきたその仕草を、だけど彼がすることが変な感じがする。お酒然り、たばこ然り、どうしたって小学生とは結び付かないものだから。


 なんとなく、自分だけがあの頃のままな気がしてしまって、居心地が悪くなったような気がした。彼を大人にしたのはなんだったんだろう。今の彼の中には私の知っている彼を見つけ出すことがどうしても出来なくて。一人勝手に寂しくなった。

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