ぼうたん 🌺

上月くるを

ぼうたん 🌺





 いまが盛りの牡丹は引っ張って「ぼうたん」とも呼ばれる、中国原産で平安初期に薬用植物として渡来し寺院で栽培されていた、花の王・花神・富貴花の異名がある。


 歳時記の簡潔な説明にあるとおり、朝ドラで牧野富太郎博士と妻・寿衛の縁をとりもつことになる牡丹は、花の宰相こと芍薬とならび称される、初夏を代表する美花。


 

 ――ぼうたんの百のゆるるは湯のやうに    森 澄雄



 この句に出会い、それまで曖昧だったヨウコさんの俳句への立ち位置が定まった。

 自然詠が基本とされる俳句の世界でも「まずは詩ありきなのだな」心底から得心。


 こんな一句が詠めたら素人俳人の末席に連なる身として無上の誉れだが、限られた余生でここまでの高みへの到達は無理に決まっている、目標として掲げておきたい。




      🚃




 唐突だが、高校時代の三年間、よくもまあグレなかったものと、いまにして思う。

 楊貴妃並みの美少女(決して誇張にあらず (^-^;)と肩を並べて電車通学の悲惨。


 下校時、降車駅のプラットホームを歩いて行くと「ピーッ」決まって口笛が鳴り、それを合図に停車中の車両から「立てば芍薬座れば牡丹……」の男声がわき起こる。


 明らかに半歩先を進む友人に向けられたものなのに、彼女は表情ひとつ変えない。

 代わりに真っ赤になったヨウコさんは、闘牛場へ引き出される憶病な牛状態。🐄


 屈辱の三年をどうやら辛抱したが、そのおかげで罪もない芍薬や牡丹の花がいやになった。初老のいまも、なにさこれ見よがしに……そんなイジワルを言いたくなる。




      🍆




 その反動だろう、素朴な野菜の花や野草に必要以上の(笑)シンパシーを感じる。

 目立たず地味だがちゃんと自分の役目を果たしている、そんな花が好きだ、うん。



 ――じやがいもの花の三角四角かな    波多野爽波

   妻呼ぶに今も愛称茄子の花      辻田克己



 俳句に限らず文芸鑑賞はすべからく相対的であることをあえて前置きして言えば、なにげない日常の些事を淡彩の一服の絵にする……そんな作品が性に合うらしい。


 とはいえ、それはあくまで読者としてであり、そういう自分はどれほどのものかと問われれば、うっかり道に這い出てしまった蟇のように固まるしかないのだが……。




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