詩集 この世の悲しみ

かさかさたろう

第1話 お母さんのこと

生まれてきたあなたは小さいゆりかごに

すっぽり納まるくらいの小さな小さな体だった

誰より私が この子を守ると 大きな大きな決意をした

この世の大きな大きな存在に 巡り合わせを感謝した

けれども人を育てることは 1人では難しかった

いつだって 泣き止まぬ我が子を抱えて

私はいつだってあやしてきたけれど

尊いそのなき声が 天使のその尊顔が

いつしか 声は罵声に聞こえ 顔は悪魔の顔に見えた

いつか私は狂ったように

この子を投げ捨ててしまうかもしれない


お母さん お母さん

いつだってあなたは私のために動いてくれた

私が愛してくれと泣けば あなたは私の体をふわりと抱いて

この世の温かさの全てを集めたような声で

私に歌を聞かせてくれた

私は小鳥の鳴く声や さざ波の音や 木の葉のかすれるあの音よりも

川のせせらぎや 風鈴の音や 星々が宇宙を回るその音よりも

あなたの声に夢中になって ずっと泣き続けながらも

その歌を一音も漏らさないように 聞きました


あなたが私をぶったある日

私はあなたに「何故か」と責め 泣きじゃくり

あなたに謝罪を求めた

あなたはひたぶるに謝り 許しを乞うて

泣きじゃくっていた


けれどもお母さん あなたは

限界だったんだね

私とずっと二人ぼっち 周りは産めや育てや言ったけれども

お母さんに色々言う人はいっぱいいたけれども

けれども私の世話をしてくれたのは

お母さん あなただけだった


私が仮に虐待で

生命をぷつんと終わらせられたとして


誰が お母さん あなたを責めることができましょう

家にいて たまに言葉をかければ満足するあの男に

お母さん あなたを責める権利はありますか

警察に! 裁判官に! 親戚に! 友達に!

政治家に!!

あなたを責める権利なんてありません

お母さん!


今一番救わなければいけない人は

お母さん あなたでした。

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詩集 この世の悲しみ かさかさたろう @kasakasatarou

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