BONUS:01. 塩サバ!梅クラゲ!!カレー肉じゃが!!!

「乾杯っ!!」


皆がジョッキを片手に、泡を弾かせながらぶつけ合った。


結局私の身元は特定できずに夜になってしまった。

気を利かせてくれたのか、舵木さんがカジキマグロ隊全員で呑み会を提案してくれた。

呑み会は、昭和の雰囲気が少し感じるレトロなお店の座敷で行われた。


「流転ネットワークでも人の特定にこんな手間取ることあるんだなあ。コツメ、お前ほんとに異世界とやらから来たのかもしれんな!」


舵木大佐はガハハ!と他人事のように笑いながら正面から私の肩をドンドンと叩いた。


「悔しいーー!!いつも5分くらいあれば特定できるのにぃ!!」


流転さんはドン!と飲んだジョッキを叩きつけ、叫ぶ。


流転ネットワークとは、流転さんがこの世界全体の人の位置や、身元を即座に特定できる流転さんが作り上げた独自のPCツールらしい。

いわば、合法の凄腕のハッカーということになる…のかな?


「絶対おかしい!流転ちゃんのネットワークは全世界人口の身元がはっきりわかるはず!わからない人はハッキングで身元情報を違法で隠してる犯罪組織の奴らくらいなのよ!!それもかなりのハッキングの腕じゃないと私のネットワークからは外れない!あなたまさかトキシンズに入ってたりしてないわよね!?」


「トキシンズ…?」


「トキシンズってのは重要犯罪組織の通称。6人の幹部とそれを束ねるリーダーがいるんだけど、悔しいことにまだ一人も捕まえれてないのよね。」


倉戸さんはお通しの枝豆を剝きながら話すと、そのまま口に放り込んだ。


「だから、世間では無能集団と呼ばれてしまっているのが現状だ。」


鷹凪さんも続けてそう言った。


「すいませーん!生一つ!あとたこわさと、おでん大根の唐揚げ!んでサバ缶サラダ!!お前らは?」


虎太郎さんはいつも通りだった。

しかし、人は海洋生物に近い姿に変身できるのと、街並みが少し違うだけで居酒屋の雰囲気や食べる飯は私の世界とほとんど同じだ。

ここはほんとに異世界なのだろうか?

私の想像してる異世界は、もっとダンジョンとか剣と魔法の西洋風の街並みだと思っていたけど…。


「なあー。タバコなくなったぁ。」


虎太郎さんは、携帯の充電がなくなった女子高生みたいに突然そう言った。


「誰が買ってくるかジャンケンしようぜ。」


続けてそう言う。


「得するのはお前だけだろ。」


ジョッキを片手に鷹凪さんは虎太郎さんをバッサリと切る。


「はあー。買いに行くのめんどくせえなあ…。」


「じゃあもう吸わなきゃいい話だろ?」


「でたでた。タバコ吸わねえやつがタバコ吸うやつに対してバカの一つ覚えみてえに口を揃えて言うその言葉。それ言うやつはトイレ行きたいけど行くのめんどくせえなんて言ってるやつに、じゃあもうここで漏らしゃいい話だろ?って言ってるようなもんだぞ。」


「いや、違うな。」


「どこがだよ。」


「漏らしゃいいってとこだよ。」


相変わらずこの二人のウマは合わなそうだ。


「あ。俺天才。すごい事閃いた。」


虎太郎さんは左手で机をバンバンと叩きながら、右手で手を挙げた。


「そうか。よかったな。」


「聞けよ!」


鷹凪さんはめんどくさそうに箸で餃子を掴んで口に運ぶ。


「居酒屋はタバコをバラ売りで売ったらいいんだよ!

一本50円くらいでさ!

銘柄も三種類くらい用意するんだ!

大学生のクソガキ共が好むカプセル付きのメンソールと、サラリーマンのおっさんが好むくっさいレギュラー、あとは万人受けするやつを各ボックスで用意してさ!

一本50円で売んの!

メニュー表にも入れてよ!

そしたらスモーカー共はバカだから酒飲んだらパカパカ吸って、やがて無くなるんだ!

そしたらどうよ?

あと一本くらい吸いたい気持ちになって、デザート感覚で最後に注文するんだ!

すいませーん、このタバコ三本!って人数分!

生3つ!みたいなノリでさ!

そしたらよ、酒みたいにあと一本!あと一本!みたいにやめ時見つけられんくなってボロ儲けよ!!」


天才か!この人!?

なんか少し酔ってきた。

楽しくなってきたぞ。


「カジキマグロ隊は普段どんな仕事をしてるんですか??」


今度は私から話しかけていく。


「んー公園の掃除とか、迷子の対応とか?」


思ったより公務員の老後に近い仕事をしていた。


「もっと他に自衛隊らしい仕事とかは…?」


『んなもんねえよ…。できたら俺らは表向きの仕事があっちゃ誰かが絶対不幸な時だけなんだ。俺らの仕事が自衛隊という枠から外れてれば外れているほど

ここは平和ってことなんだよ。」


虎太郎さんは追加で頼んだジョッキをまた、グビグビと喉に流し込んでいく。

私はまた、追加でハイボールを頼む。


「コツメ!もっと頼め頼め!」


舵木大佐がメニュー表を見せ、責め立てる。

何故だろう。酒が恋しくなっている時、こんなにどれも美味そうに見えるのは。


「塩サバ!梅クラゲ!!カレー肉じゃが!!」


そこから私は私を止めることはできなかった。


…。


……。


………。







私はいつの間にか白い壁一面の部屋の真ん中に布団が敷かれてある部屋に棒立ちしていた。

7畳くらいだろうか?

どうしてここまで来れたか、なんでここに来たのか、ここが何なのか全くわからない。

視界がクルクルと回り始め、私はとうとう布団に倒れた。


あー、頭クラクラするー。

完璧に明日二日酔いだー…。

異世界転生前で懲りたんじゃないのか私…。

また同じこと繰り返して…。

なんで呑みすぎちゃうんだろう…。

なんで転生前、呑みすぎたんだろう…?

何も思い出せない…。

ていうか海洋生物に変身できる異世界人がどうしてサバやクラゲが居酒屋で料理として出てくるんだ…?

共食いになっちゃうんじゃないか…?

てかなんで転生してきたんだ…。

なんで私なんだろう…?


疑問がたくさん泡のように生まれては弾け、生まれては弾ける。

結局自分の存在が何もわからないまま、私の転生一日目は終わった。



そして、僕の転生一日目は始まった。




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