第78話 一月十五日(日)ー6 せめてもの抵抗

「ごめんな、裕佳子ちゃん。結局、おばちゃんの昔話を延々と聞かせてしまったわな。まあ、教訓として、誰かの支えになろうとするんなら、見守りに徹する覚悟が必要ってことな。何かしてあげたい、何かしてあげよう、なんて思いはじめたら、もうその段階で二人の関係は破綻しはじめるんよ」


「それは、違うと思います!」


 思わず口から飛び出した。


「それは、違うと、思います。真弓さんの努力は間違いじゃないし、無駄でもなかったって、私は思います。お父さんの愛情を理解できなかったように見えた小さい章くんが、実はすっかり理解していたんだって、おっしゃったじゃないですか? 竹史さんだって、真弓さんの愛情を理解していると思うんです。愛情を注ごうにも、空回りさせられっぱなしだったって言われました。だからと言って、注ごうとしたその行為を、竹史さんがまったく感じていなかったとは思いません。その愛情を感じ取った竹史さんは、何も言わずとも、真弓さんの支えに感謝していたんじゃないですか?」


 川野のお母さんは優しい目で笑った。

「ありがとう、裕佳子ちゃん。でもな、自分に差し出されている助けの手がいつかなくなるんやないかと不安になっとる人にとっては、手を差し伸べられること自体が不安の種になることもあるんよ。助けてあげたいと思っても、その気持ちが相手を苦しめることになるん」

「それでも、私は手を差し伸べたいです。それが不安を助長してしまうのなら、その不安も半分私が持ちます」

 真弓さんは微笑んだ。

「もう一杯、何か飲もうか? あ、甘いもの、食べん? ここなあ、バニラアイスが密かに絶品なんよ。ほら、この白玉ミニパフェ、バニラアイスも乗ってるけん、これ食べてみん?」


 私たちがアップルティーと白玉ミニパフェを食べようとしているところに、川野が戻ってきた。

「あれえ、いいもの食べとるやん、俺も!」

「章、何の雑誌を買いに行っとったん?」

「え? えへ、内緒」

「あー、さては、母ちゃんに言えんような雑誌?」

「えへへ、お年頃ですから」

 そういうと、ジュースを取りに行った。


私を打ちのめす出来事が起きたのは、次の水曜日のことだった。

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