第74話 一月十五日(日)ー2 川野のお母さんー2

 ジョイフルでも、川野のお母さんは屈託のないおしゃべりを続けた。サラダ、ピザ、サンドウィッチ、ハンバーグ、ポテトフライ、から揚げなどをテーブルいっぱいに並べると、私たちはドリンクバーのジュースと紅茶で乾杯し、ひとしきり料理に手を伸ばした。川野のお母さんは見ていて気持ちのよい食べっぷりだ。おいしそうに、しかもほれぼれするような美しい食べ方をする。私もそれにつられ、負けじと手を伸ばした。


「え、それじゃ、裕佳子ちゃんって、おばあちゃんと二人暮らしなん? お父さんは川崎? 単身赴任? あらま、寂しくない?」

「いえ、おばあちゃんが賑やかな性格ですし、学校も楽しいから、こっちで寂しいって思ったことはないです」

「そっかあ、学校もおうちも楽しいっていうのは、最高だよね。友達もたくさんできた?」

「はい、転入した最初の二日は誰もしゃべりかけてくれなくて、どうしようかと焦ったんですけど、その後すぐにみんなと仲よくなれて。今じゃあ、もう昔からの友達みたいに感じています」

「田舎ん子やからね。子供っぽいけん、好きも嫌いも直球なんよな。でも、最初は人見知りするけど、基本的に人懐っこい子が多いと思うわ。章みたいにな」

 川野のお母さんはそう言って豪快に笑った。


「母ちゃん、ところで、くるみは?」

「くるみは今日は来んかった。父ちゃんに会いたくないって、朝から友達のところに遊びに行っちゃった。まあ、あの年ごろになると、仕方ないわ」

「くるみって、妹さん?」

「あ、そうそう、言っとらんかったっけ? ふたつ下の妹」

「まあでも、基本、元気で良い子に育ってくれとるけん、言う事はないよ」

「くるみの性格、母ちゃんそっくりやもんな」

「そうなあ、優しくって、素直で、気配りができて……」

「豪快で、おおざっぱで、厚かましい」

「ええー?」


 私は微笑んだ。私はお母さんとこんなふうに話したこと、あったっけ? このふたりが話しているのを聞いていると、眠たくなるくらい暖かかったバスの中を思い出した。


 川野のお母さんがしきりに勧める。

「裕佳子ちゃん、ほら、もっと食べて。裕佳子ちゃんも章も、ちょっと細すぎやない? 章、あんた、ちゃんと食べとかんと、背、伸びんよ。今が人生最後のチャンスや。頑張れ!」

 川野がわずかに顔をしかめて尋ねた。

「背、高くなると、何かいいことあったっけ?」

 鷹揚な笑みを浮かべて答える。

「高い棚にしまったものを取る時に、踏み台が要らん。あれは有利やで。日本の狭い家やと、収納は横やなくて縦に伸びるけえさ、絶対背が高いほうがいいって」

「……母ちゃん、そこは普通、もてるから、って言うんじゃね?」

「そういう副産物もあるな」

「相変わらず、母ちゃんの思考パタンは読めんわ」

 川野は笑いながらそう言うとアイスティーを飲んだ。

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