第71話 一月十日(火)ー2 席替え
「おはよおさん! 今年もよろしくです!」
珍しく、先生が来るより先に川野が登校してきた。
「どうしたの? 早いね。こちらこそ今年もよろしくです」
「お正月、川崎に帰っとったん?」
「ううん、こっちにいたよ。私が移動する代わりに、年末にお父さんがこっちに来た」
「ああ、あのお医者さんな。お父さん、元気やった?」
「相変わらずだった。川野のところは?」
「うちは、特になにも。親戚と会うわけでもなく、どこか行くわけでもなく。正月っぽい料理を作って食ったくらい」
「お父さんとふたりで?」
「うん」
「ずっとふたりっきりだと、寂しいね」
「毎年これやけん、俺にとってはこれが当たり前やけどな」
そこまでしゃべったところで小野先生が入ってきた。いつもより十五分早くホームルームが始まった。三学期初日の今日は席替えがあるからだ。先生が準備してきたくじを一人一人引いていく。先生が黒板にくじの番号と座席の対応表を貼り出す。わざわざ手書きで準備していたらしい。実は金田一先生もこの席替えを楽しんでいるようだ。
「みんな、自分の座席を確認したかあ? 教壇の前じゃないと黒板が見えんとかいう、よんどころない理由で、場所を変わりたいやつ、おるかあ? おらん? はあい、じゃ、荷物をまとめて、速やかに移動して」
みんなが一斉に席を立ち、移動し始める。これで川野の隣の席ともお別れだ。ちょっと寂しい気もする。
「﨑里ちゃん、どこな?」
「窓際の前から五番目」
「何と! 俺、窓際の前から四番目! また近くやん」
「教科書は見せてあげられないけどね」
「授業であてられたとき、答えを教えてもらえそう」
しゃべりながら移動すると、私の席の隣には照れたような顔をして奥野くんがやってきた。川野の隣には田辺くんが座った。そして、川野の席のひとつ前の右横の席には矢野くんがやってきて、こちらを見て笑った。金田一先生、ナイス! 私はひそかに川野の背中にエールを送った。
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