第57話 十月三十一日(月)ー1 “袴の彼”ー10

 今朝も“袴の彼”は淡々と稽古を積む。その所作はますます凄みを増し、脱俗の風格をも備えつつあった。ためらいなく、ぴたりとつがえられる甲矢はや、固定されているかのようにぴくりとも揺れ動かない乙矢おとや。瞬きすらせず、ひたすら前を見つめる瞳。何か見てはならない神聖なもの――あるいは邪悪なもの――を目にしているような気持ちにすらなる。それでも、何かに促されるかのように、私は彼の行射を見守り、動画に撮った。彼はこちらを見ることもなく、二十分後には静かに暗がりに消えていった。

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