第48話 十月二十四日(月)ー1 “袴の彼”ー8

 私が朝の六時に窓辺に行けばそれからニ十分、六時半に行けばそれからニ十分、“袴の彼”は稽古を続けるようだということが最近わかってきた。朝六時では薄暗すぎるので、今朝は六時半にプール棟の階段を上った。


 いつものように窓辺に立つ。うん、いる。いつものように、引き締まった横顔で、きりきりと弓を引きしぼる。私はスマホを取り出して、一昨日撮った卒業アルバムの個人写真と見比べた。似ている。少なくとも、私の目には、ふたりは同一人物に思える。ということは、あそこで弓を引いている“袴の彼”は、小嗣竹史さんなのだろう。それは、川野のお父さんなのだろうか? でも、お父さんは確かに生きている。それなのに、なぜ? スマホをオフにしてカバンにしまおうと思ったとき、ふと思いついた。写真を撮れないだろうか? 私は“袴の彼”が行射する様子を動画に撮った。そしてスナップショットも撮ろうと、もう一度スマホを向けたとき、彼はこちらを見た。すかさず、何度かシャッターを切った。


 こわごわと写真を確認した。写っている!? ややピントが甘いけれど、それでも十分に確認できるくらいの画質で、“袴の彼”が写っていた。動画は?! こちらも撮影できていた! 私は思わずガッツポーズをした。踊り出したいくらいの気分だった。最初から、こうすればよかったのだ。

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