第46話 十月二十三日(日)ー1 ショッピングモールにて

 おばあちゃんがお小遣いをくれたので、早速、黒木ちゃんと美羽ちゃんにお願いして、三人で秋物の服を買いに行った。町の中心部にある衣料品店やブティックはおばさん向けのものばかりで、郊外に出たところにある、最近できたショッピングモールのほうが、気の利いた服が揃っているということなので、三人でバスに乗って出かけた。

 黒デニムのパンツに銀ラメ入りの紫のニットをすっきりと着こなした美羽ちゃんが私のスカイブルーのトレーナーを見て言う。

「裕佳っち、色白やけん、パステルカラーが似合うよなあ。羨ましい。私だって、可愛い色の服が好きやにい、絶対似合わんもんな。しくしく」

 サーモンピンクのワンピースをふんわりとまとった黒木ちゃんが口をとがらせて言った。

「美羽は、でも、スタイル抜群やん。かっこいい系が決まるんやから、文句言ったら罰が当たるわ。私なんか、だぶっとした服しか着られん。ほんとに年中妊婦さんみたいや」

「何言ってんの、最近のはやりは、ぽちゃぽちゃ系やで? ぽちゃぽちゃ系、いいやん? 黒ちゃん、自分を卑下するのはダメダメ! みっともないし、もったいないわ」

「そのとおりです。はい。うう、美羽にお説教されるとは……」


 三人でおしゃべりしながらだと、バスの中も、ショッピングモールの中も、人目を気にせずに済む。本当に、二人についてきてもらってよかった。


 三人でさんざん品定めをし、念入りに試着を繰り返してから、細身のパンツと長袖のTシャツ、それにモスグリーンのパーカーを買った。裾に細いレースがさりげなくあしらわれたパーカーは持っている服に合わせやすそうだ。いい買い物ができた。


「ジョイフルでお茶でもしながら休憩しよう、私、チョコレートケーキが食べたい!」

 黒木ちゃんが言った。

「ジョイフルって?」

「あれ、神奈川にはないん? ファミレスだよ。ドリンクバーがあるし、シートがゆったりしちょるけん、休憩にはちょうどいいん」


 店に入ろうとしたとき、一番後ろにいた美羽ちゃんが声を上げた。


「あれ、川野たちやん!?」


 振り向くと、川野と村居くん、佐藤くん、矢野くんがいて、向こうもこちらに気づいたのか、ぶんぶんと手を振りながら近づいてきた。佐藤くんが大声で言う。


「よう、おそろいで! なに、三人でお買い物? 何買ったん?」

「裕佳っちの服。あんたらは?」

「俺たちは今来て、なんか飲もうか、っち言っちょんとこ」

「じゃあ、一緒にジョイフル行く?」

「行く、行く! な、みんないいよな?」

「もち、OKっす!」

「俺も!」

「うん、いいよ」


 七人になった私たちは、ぞろぞろとファミレスに入っていった。学校ではいつもクラス中に川野の声が傍若無人に響いているのに、今日は佐藤くんのひっくり返りそうな甲高い声が圧倒的に優勢だ。誰かに押されている川野なんて新鮮だった。そう言えば、佐藤くんや矢野くんと川野が一緒にいるところも、教室では見た覚えがない。珍しい取り合わせだ。


 私は横掛けのシートに座りながら、向かいに座った川野を見た。いつもの押しの強さが、どうしたことか、鳴りを潜めている。隣の村居くんと数学の課題が多すぎると、やや声を潜めて文句を言い合っている。笑って村居くんと肘で突きあいながら先生の文句を言い立てる様子は、ふだん教室で見かける様子と変わりない。それなのに、なぜかふいに、先日会った川野のお父さんの表情のないまなざし、私にぶつかってきてふたりで倒れこんだあとの川野のこわばった顔を思い出した。


 私の視線に気づくと、川野はいつものように茶目っ気のある笑顔を浮かべて親指を立てて見せた。でもその笑顔は、ほんの少しだけ、泣き笑いのようにも見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る