晶出

第44話 十月二十二日(土)ー1 お父さんのアルバムー1

 まだ日中は気温が高いものの、朝晩はぐっと涼しくなるようになってきた。おばあちゃんが大事にとっておいた昔の服を押し入れから次々と出してきて、畳の上に広げた。着られそうなものがあったら裕佳子ちゃんが着なさいと言ってくれた。一世代前の流行りにはうんざりするようなダサさしか感じないのに、二世代前になると、むしろ新鮮みが感じられるのは不思議だ。水玉模様のブラウス、白のタイトスカート――なぜだか、サイズもぴったりだ――、セーラーカラーのプルオーバー、冬物の長い巻きスカートをありがたくいただくことにした。

「それでも、足らんやろ。今度お友達と、買い物に行ってきたらいいわ」

 お小遣いまでもらってしまった。


「ねえ、おばあちゃん。お父さんの子供のころのアルバムとか文集とかって、ないの?」

「うん? もちろん、あるわあ」


 よっこらしょと掛け声とともに、おばあちゃんは膝を抑えながら立ち上がり、和室に行くと、押し入れを開けた。

「アルバムなら、このあたりかな。ああ、ほら、これかなあ」

 二冊、三冊と分厚いアルバムを取り出した。青いアルバムをおばあちゃんが開こうとすると、ペリペリと乾いた音がした。


「ほら、これこれ、お父さんのアルバムは、これや。この青いのが、生まれてから小学校に上がるまでのやな。なあ、祐介と彩がいっつも一緒に写ってるわ、こまいときは仲良かったけえなあ。それで、こっちの緑のアルバムが、小学校から高校までかな、ほら、祐介は長男やけん、赤ん坊のときはいくらでも写真を撮ったんよ。でも小学校、中学校ってなると、本人が嫌がってなあ、だんだん数が減ったんや」


 おばあちゃんののんびりした説明を聞き流しながら、私は緑のアルバムを手に取り、繰っていった。小学校入学式、黒々とした頭でふっくらとした頬をしたおばあちゃんが着物姿で微笑み、すました顔の品の良い男の子と仲良く並んで学校の門の前に立っている。遠足、林間学校、海水浴、お誕生日会、学芸会、お友達とのクリスマス会、お正月、家族旅行、終業式、そして卒業式。中学校の入学写真では、学ランを着て怒ったような顔のお父さんが水色のスーツのおばあちゃんと絶妙な距離を保って写っている。このあたりから一気に時の流れが速くなった。三枚めくると、もう高校入学だ。一ページ目は入学式の集合写真だけだ。

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