第38話 十月二十日(木)ー3 料理の腕前

 台所は、お父さんと住んでいた川崎のマンションのキッチンに比べると、狭くて、ずいぶんと古びていた。でも、包丁も鍋も流しもガステーブルも、それに木の床までが磨きこまれた鈍い輝きをはなち、何とも居心地がよかった。


 千切りにしたニンジンはレモン汁、塩、あらびき黒コショウをかけてサラダになった。塩もみした鶏手羽と乱切りのニンジン、大根、ジャガイモ、こんにゃくは、柚子胡椒を利かせた煮込みになった。ワカメと大根とシイタケの味噌汁を煮るかたわらで、年季の入った卵焼き器で小葱のたっぷり入った卵焼きを器用にひっくり返しつつ、川野はこう言って笑う。


「俺が作るとさ、たいていどれも同じ味なんよな。あと、圧倒的に茶色系。食えるから、まあいいか、みたいな?」


 手品かと思うくらい手際よく、つぎつぎと料理が出来上がる。私は見とれていた。

「ねえ、お弁当は作らないの?」


「さすがに、それは勘弁ですわ。俺、朝は超弱いしい」


 そのとき玄関が開く音がした。

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