逡巡

第28話 十月六日(木) 川野

「最近スランプやわ。的中が出らんのよな」

 早朝の教室でチキンサンドを食べながら川野がぼやいた。

「的に当たらない、ってこと?」

 むっとした顔になった。

「うん」

「以前はもっと当たってたの?」

 さらに眉が寄った。

「まあな」

「川野って、いつから弓道をしてるの?」

「ああ、中学のころからな。うち、父ちゃんが弓道やっとったらしくって。俺も中坊のころから市の弓道教室に通っとったん」

「お父さんが? お父さんって、ここの卒業生だって言ってたよね?」

「うん。……ん? でもあの“袴の彼”とは関係ねえよ。だって、父ちゃん生きちょんし」

 そう言うと、コーヒー牛乳のパックに手を伸ばす。

「そっか、そうだよね。でもさ、お父さん、もしかして、何か知らないかな?」

「何かって?」

「“袴の彼”を探るヒント。ねえ、お父さんにお話を聞けたら、何か参考になるかもしれない」

 川野はストローを突き刺そうとしながら、気乗りしない様子で言う。

「はあ、そうかな? でもなあ、今のところさ、﨑里ちゃんにしか見えてねえからさ、どうやって説明するん? 﨑里ちゃん、似顔絵とか得意?」

「う、それは無理」

「父ちゃんに聞いてみるにも、その前にもうちょっと、具体的な手がかりが欲しいわな」

 そう言うとコーヒー牛乳を飲む。

「そうだよね……」

 私は思案にくれた。

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