第22話 九月二十八日(水)ー2 弓道部の朝練

 始業のチャイム十分前に川野が来た。私を見ると驚いたように目を見開いて言った。

「もう、しょわねえん(大丈夫なの)?」

 そして慌てて付け加えた。

「一昨日は、ほんと、ごめんなあ、これからは気をつけます」

「うん。熱はもう大丈夫。おばあちゃんが心配しすぎなだけ。頭も打っていないし、どこも何ともないよ」


 川野がふつうに話しかけてくれたことに私は安堵した。教科書をカバンから取り出している川野に尋ねた。


「あのね、毎日早朝から練習している弓道部の男子がいるの。その人、川野とちょっと似ている。もしかして、川野の親戚?」


 川野は手を止めてこちらを見た。眉をひそめる。


「朝練? そう言えば、前もそんなこと言っちょったよな。いや、今、朝練しとる人はおらんと思うけどな」

 そんなはずはない。

「でも、でも、毎日してるよ。昨日は休んだから見てないけど。でも、それ以外は、もうずっと毎日見てるんだよ」

「ええ、それって、何かこええんやけど……」

「ううん、怖い感じは、ぜんぜんしないよ。いつも穏やかで、見とれるような動作で弓を引いてる」

 川野は首をひねった。

「誰やろ? 気になるなあ……。よし、じゃあ、明日、俺も朝練の許可もらうわ。﨑里ちゃんがいつも学校に来るのって、何時?」

「五時半」

「はあ? 五時半!? げえ、まじでえ?! ……はあ、仕方ねえな」

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