第18話 九月二十六日(月)ー3 アクシデント
ちょっとしたアクシデントが起きたのは、その日の掃除の時間だった。私は教室の当番で、箒で窓際の床を掃いていた。同じく教室の当番だった川野は村居くんと田辺くんとふざけて走り回っていた。いい加減業を煮やした中津留さんが三人に掃除をさせようと、雑巾を持って追いかけた。川野が笑いながら中津留さんから逃げようと身をひるがえした次の瞬間、私たちはぶつかった。ちょうど私の前身に川野の左半身が飛び込む形になり、私たちはもつれるようにして倒れた。
「裕佳子ちゃん、大丈夫?!」
「頭打ってない?!」
中津留さんたちが慌てて駆け寄ってきて、川野を押しのけると、私を起こしてくれた。
「うん、大丈夫。ありがとう」
私はスカートの裾を直しながら、立ち上がった。
とくだん大きな怪我もないと見るや、男子がはやしたてる。
「川野、おまえ、いくら﨑里ちゃんが好きでも、押し倒すのは早くねえ?」
「教室でいちゃつくなー」
「妬けるねえー」
「ちょっと男子、いい加減にしよや! 危ないやん!」
「本当、ガラス窓に当たっとったら、大怪我しちょったよ!」
「裕佳子ちゃん、痛いとこない?」
はやしたてる男子に女子が本気で怒った。私はもつれあって倒れこんだことに恥ずかしくなり、うつむいてスカートをはたいていた。倒れるときに、とっさに床に突いた手のひらが痛んだ。
「川野、謝りよ!」
「そうや、裕佳子ちゃんに謝りよな!」
女子の鋭い声に、私が目を上げると、川野はこわばった表情で女子たちを見ていた。そしてこちらに視線を向けた。
「……ごめんな、怪我せんかった?」
「うん、大丈夫。ちょっと手のひらを打っただけ」
「そうか、ほんと、ごめん」
川野の様子にふと違和感を感じた。いつもの川野じゃない。突き飛ばしてしまったことに恐縮しているだけでもなく、二人して倒れこんだことに照れてるとかでもない。そう、何かに追い立てられているかのように、逃げ出したいのを我慢しているように、そわそわとして、左手のてのひらを何度もズボンでぬぐっている。左手? 倒れたときに私の胸に触れていた手。そしてもうひとつ、不安げに揺れる彼の目がハシバミ色をしているのに私は気づいた。
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