第17話 九月二十六日(月)ー2 川野と小野先生
「セーフ。セーフー!!」
大声を上げながら、チャイムとともに川野が教室に駆け込んできた。担任の小野先生――化学の金田一耕助先生だ――は苦い顔をしてもじゃもじゃ頭を掻きまわし、クラスメイトたちは笑いを堪えていた。
「こら、川野、連休明けからこんな調子で大丈夫か?」
先生のお小言もどこ吹く風、
「だって、先生、昨日の夜、宿題やるのに一時までかかったんで。それでやっと寝ようと思ったら、蚊がおったんよ。ずーっとぷーんぷーん言ってて寝られんかったん。蚊取り線香も殺虫剤もなくってさ、窓を開けて追い出そうとしたんやけど、さらに二、三匹入ってきてさ。仕方ないけん頭まで布団かぶったら暑くて寝られんで、うとうとして目が覚めたら、七時半時やったん。朝飯も食えんかったわ。今日は蚊取り線香買って帰るけん、明日は大丈夫です!」
クラスのあちこちで吹き出す声が聞こえた。川野は日焼けした顔でにっと笑った。私もつられて笑った。
一時間目が終わると、カバンから菓子パンを取り出して食べようとしていた川野に聞いてみた。
「弓道部って……」
「おっ! なになに? 入部する気になった?」
パンを頬張りながら身を乗り出してきた川野を私は牽制した。
「ちょっと、パン吐き出さないでね。そうじゃなくて、聞きたいんだけど」
「うん?」
「弓道部って、ずっと朝練しているの?」
「へ? 朝練?」
怪訝な顔をしてこちらを見る。
「朝練? うーん、どげかなあ、そりゃあ、大会前なら、やっとるやつもおるかもな。でも、強制やないけん、俺はまだ行ったことないわ。何で?」
「あ、別に何でってこともないんだけど」
「練習さ、そんなにきつくないし、縛りも多くないけえ、今度見学しに来ん? 先輩たちだって、他の部活に比べたら、結構優しいで」
「うん、考えとく」
「袴姿やとさ、男子も女子も五割増し、カッコよく見えるし!」
川野はいつもの人懐っこい笑顔で笑った。
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