萌芽

第16話 九月二十六日(月)ー1 “袴の彼”ー1

 三日ぶりに早朝の学校に登校すると、“袴の彼”はこれまでどおり淡々と練習を行っていた。これまでどおり、連休明けのけだるさも感じさせず、まるでそこだけ時間が止まっているような……。一分の隙も感じさせない見事な射に、私は一手終わっても、その場から動けなかった。と、彼がこちらに視線を向けた。初めてのことだった。色素の薄い、ハシバミ色の瞳が訝しげにこちらを見すえ、そのあと薄暗い建屋の中へと去っていった。私はしばらく動けなかった。三つ編みの端をもてあそんでいた指がこわばり、心臓がバクバクと音を立てていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る