第15話 九月二十三日(金・祝) 友達と旅行

 結局、新しくできた友人ふたりとともに関東に遊びに行くことはなかった。まず、お父さんが私が神奈川に来ることを許してくれなかった――これはどうやら、おばあちゃんから、私がまだ人目を気にせずにはいられないことが伝わっていたようだ――からだし、黒木ちゃんも美羽ちゃんも何か気まずいものを感じたらしく、関東旅行の話は自然と立ち消えになったのだ。


「でもさ、旅行はどっか行こうよ! 青春は一回しかないんやで。行けるとこ探して、どっか行こうよ!」

 しきりにせがむ美羽ちゃん。黒木ちゃんがそうやなあ、と考え込む。

「あ、そうや、それならさ、福岡行かん? 博多! 博多でラーメン食べて、ショッピングモールとか見て、カフェでケーキ!」

「博多かあ、うん、悪くないかも。博多なら日帰りでもいけるしなあ、それならいっそ、男子も誘おっか?」

「日帰りなら、問題ないっしょ」


「川野、ちょっとー!」


すぐさま美羽ちゃんが、窓際で村居くん、首藤くん、奥野くんとボードゲームをしていた川野を大声で呼んだ。


「なに、なに?」


 ゲームを中座して川野が飛んでくる。

「十月の連休にさあ、博多にみんなで遊びに行かん?」

「博多? 面白そうやん! でも、俺は無理やわ。十月の連休は弓道の体験会の手伝いがある」

「そうなん、じゃあ九月の連休は?」

「今度の連休はちょっとした家庭のジジョウってやつがあって、無理です」

「そっか、意外と苦労しとるんやな。ようわからんけど、元気出してな!」

 川野は笑いながらボードゲームに戻っていった。


「どうする? ほかの男子、誘う?」

 と黒木ちゃん。

「うーん、盛り上げ役がおらんと、気まずいだけやけん、止めとこか?」


 結局、私たちは女子三人で一泊二日の博多旅行に出かけた。いくつものショッピングモールをはしごし、大きな水族館や天神地下街にまで足を延ばし、ホテルで夜が更けるまでおしゃべりをし、私は気の置けないふたりの友人と初めて訪れた晩夏の福岡を満喫した。

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