第14話 九月十五日(木) お昼休みに

 九月の三連休を目前に、クラスメイトたち全員がうずうずとどこか落ち着きをなくしていた。いつものように三人でお弁当を食べていると、美羽ちゃんが言った。

「なあなあ、九月はもう無理やろうけどさ、たとえば、十月の連休にさ、みんなで旅行に行かん?」

 黒木ちゃんがのんびりした口調で尋ねる。

「旅行? どこに?」

「東京とか!」

「はあ? 東京?! 遠いやん、うちの親、なんて言うかな?」

「だって、考えてみよや、今しか無理やと思わん?」

 美羽ちゃんはクリームパンを頬張りながら、机をこぶしで軽くたたいた。

「二年生になったら、忙しくって、もう絶対一緒に旅行になんか行かれん。チャンスは今だけよ。裕佳子ちゃん、神奈川出身やん? 裕佳子ちゃんと一緒に行くっち言ったら、親もたぶん許してくれる」


 美羽ちゃんの勢いに飲まれ、黒木ちゃんも真顔になった。

「そうやなあ、今しかないチャンスやと思って、言ってみようかな?」

「そうしよ、そうしよ!」

「でも、裕佳子ちゃんは大丈夫なん? 一緒に行けるん?」


 もちろんだよ、大丈夫だよ、川崎にはお父さんがいるし、うちの家に泊まれるからホテル代だっていらないし、鎌倉とか、横浜とか、東京も案内するよ、だから一緒に行こう、そう言うつもりだったのに、なぜか声が出てこなかった。心臓がどくどくと激しく脈打つのが感じられ、自分でも訳が分からず、口元を押さえた。


「裕佳子ちゃん? 顔色悪い……」


 私はおにぎりを置くと、口を押えたままトイレに駆け込んだ。食べたばかりのお弁当を戻しながら、自分の体の思わぬ激しい反応に戸惑っていた。

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