第19話 九月二十六日(月)ー4 ハシバミ色の瞳

 家に帰ってから、しばらく考えていた。あの袴の男子の淡いハシバミ色の瞳、そして同じく薄い色をした川野の瞳。クラスには他にも明るい茶色の瞳の女子がいた。この地域では珍しくないのかもしれない。でも、ハシバミ色といえるまで色素の薄い瞳は珍しい。川野の瞳の色が薄いことに気づいてはいたが、あれほど明るい色をしていることには今日まで気づかなかった。見開いた眼をまじまじと見つめることなんてなかったからだろう。それに、あの袴男子の目が頭に残っていたからかもしれない。茫洋としてどこを見ているのかわからない、薄い色の瞳。その虹彩に茶と緑が散っているのまでがはっきりと見えた。


 そのとき私ははっとした。見えるわけない。プール棟の窓から射場に立つ彼の位置まで、十五メートルから二十メートルはあるだろう。いくら彼がこちらを見つめていたって、虹彩の模様まではっきりと見えるなんて、そんなことがあるかしら? 何か変だ。どういうことだろう? あれは誰なのだろう? 私は身震いした。


 その夜、私は熱を出した。とはいっても三十九度は越えず、大騒ぎするほどでもなかったのだけど、こちらに来てから今まで大きく体調を崩すことなどなかったので、うろたえたおばあちゃんは、時間外にもかかわらず最寄りの内科医院に電話をかけ、私には熱が下がるまで絶対安静を命じた。袴の彼は明日も朝練に励むのだろうか? 彼はいったい誰なのだろう? 川野の親戚なのだろうか? なぜ彼の瞳があんなにもはっきりと見えたのだろう? 次々と疑問が押し寄せ、いつしか私は眠りに落ちていた。眠りの中で、川野がハシバミ色の瞳でこちらを見つめていた。

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