第12話 八月三十日(火)ー4 イソヒヨドリ
そのとき、窓の外から、あの澄んださえずりが聞こえてきた。
「あ、この鳴き声……」
小野先生は耳をすましながら窓の外に目をやった。
「ん? ああ、イソヒヨドリやな」
「イソヒヨドリ?」
「そう。冬に喉が張り裂けそうに叫ぶ、あのヒヨドリとはちょっと違う、
「はい?」
「あ、なんでもない。イソヒヨドリの声、綺麗やろ? もともと海辺によくおる鳥なんやけど、最近は都会の街中でも見かけるようになったらしい。この辺りには、昔っからよくおるで。春先はうるさいくらい、ずっとさえずっとる。ときどき、秋や冬にもさえずることがあるわ。さえずりが聞こえたらな、そのあたりの一番高いとこを見てみ。そこにとまっとるけえ。オスは腹の出たおっちゃんが青いラメのジャケットに臙脂のズボンはいたようなかっこしとるけん」
「私、見たことある」
黒木ちゃんが言った。
「すごくきれいなメタリックブルーやった。ぎらぎら光ってるような感じ」
小野先生が嬉しそうな顔をして食いついてきた。
「綺麗やろ、あの羽な。ところで、あの色はな、羽にあんな色の色素があるんじゃないんやで。あれは構造色っていって、羽の表面の微細な構造に当たった光が反射してあの色に見えとるだけなんや。鳥のカラフルな羽には、よく構造色のものがある。構造色、しっかり覚えとけな。はは、テストには出らんけどな」
イソヒヨドリがまた鳴いた。
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