第10話 八月三十日(火)ー2 理科室で
五時間目の化学の授業は理科室で実験だった。席は自由なので、私は黒木ちゃんと美羽ちゃんと一緒に最後列左の実験台の丸椅子に座った。
「あ、俺ら、ここ座っていい?」
川野が走ってきて、村居くん、首藤くんに手招きしている。
「川野、あんた本当に裕佳子ちゃんが好きやなあ」
美羽ちゃんが呆れ顔で言った。
「見せつけてくれますねえ、でも押してばっかじゃ引かれるかもよ」
「俺と﨑里ちゃんの絆は、ちょっとやそっとじゃ壊れんけん、問題ないもん」
「はあ? なに、それ、のろけ? いやいやあついね」
美羽ちゃんはややうんざりした様子でそう言ったが、川野は気にする様子もなく、私の向かいに座った。ぱらぱらと教科書をめくり、今日の実験のページを開きながら、
「なあなあ、この炎色反応ってさ、なに? 似た色ばっかやん?こんなん、色見たって、どの元素が入っとるんかわからんよな? なんか役に立つん?」
「たしかに目だと区別しにくいかもね。でも、同じ色に見えても実は違っていて、スペクトルを測る機械とかを使うと区別できるんだよ。それでどの元素がどれだけ入っているか、測れるの」
「そうなん? さっすが﨑里ちゃん! 物知りー!」
まるで子供のようにあっけらかんとした川野の声を聴いていると、心の水面に立ちかけていたさざなみの気配はすぐに引いていった。
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