第9話 八月三十日(火)ー1 袴男子ー1

 それから、朝、登校すると、教室に入る前にまず弓道場を見て彼の姿を確認し、二射だけ、そっと見学させてもらうようになった。弓道について知識はなかったが、彼が素晴らしい腕前であることは素人にも十分伝わってきた。流れるような所作に目を奪われる。空気がぴんと張りつめ、極限で放たれる矢。的に当たることもあれば当たらないこともある。でも彼の横顔は常に無表情だ。茫洋ぼうようとしているようにも見える表情。

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