晴れ時々 自習室窓際あの子 髪色反抗的おかっぱ頭

だらく@らくだ

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塾の授業をサボって、自習室に入ると一人だけ先客がいた。それはショートヘアの失礼かもしれないがおかっぱ頭と呼びたくなる様な髪型をした女性だった。俺は油の足りないドアを雑に閉めて、女性の隣の机にバックをそっと置いた。見ると、女性は採点をしている

らしい、手元にはぐちゃぐちゃの数字が書かれたひらがないっぱいの紙が置かれ、さくさくとそれに丸とバツを付けている。

「で、あんたは何してるんだい。こんなとこで」机に行儀悪く、腰掛けて俺は聞いた

そしたらひどくつまらなそうに「バイト」と

女性は手元から顔を動かさず言った。自習室でする事か?と思いつつ、俺の視線は彼女の

髪の毛に向いていた。その髪の毛はまるで曇り空の様な灰色をしていた。軒先で眠っている傘を散歩に連れて行かねばならない様な天気予報士が降水確率は60%でしょうと告げる様な今にも雨が降りそうな灰色。

「もしかしてあなた佐伯美凪さえきみほ?」

俺は頭に浮かんだ疑問を二酸化炭素ごと彼女に吐き出した

「そうだけど」相変わらず手を止めぬ美凪

「やっぱり!いや、学校とテンションが違うもんだから気づかなかった」わざとらしく笑ってみる俺

「失礼ね。嫌われるわよあなた」

「誰かに媚びを売るぐらいなら嫌われたって

言いたい事は言うさ。過激では無ければね」

「馬鹿な男……呆れた」

彼女は手に持っていた赤ペンを机の端に置くと、手元に広がっていた紙をぴしっと立たせ、茶色の封筒に入れた。

「気に入った、いいよ聞きたい事あるなら答えてあげる。どうぞ」笑顔だった、ここに来てから初めて見る顔だ、学校ではよくこんな顔で教師やらクラスメイトやらと話しているのを見かけるが改めて見ると最高に可愛いじゃないか

「付き合っている彼氏とかいる?」

しまった……!あんまりに可愛いもので口が滑ってしまった。村上春樹作品に出てくる登場人物みたいにかっこいいセリフなんか思いつきやしない事は重々承知だけどこれは流石に無いだろうが俺!!

「いない、生憎恋愛には縁が無くてね」

「そ、そ、そうですか?!」

おい、何ホッとしてんだ俺!彼氏が居ないからってお前が彼氏にはなれないだろが!ああ

もう、さっきから鼓動が乱れるな。不整脈かな?

「そう言えば講義は行かないんですか?高三だし行っとかないとマズイんじゃ?」

「あんなつまらない講義行ってどうするの。

あなただって同じ理由でここに居るのでしょう」

「は、はい……」

図星だった、俺はこの塾に通ってるが講義が

死ぬほど嫌いである。だから勉強して模試も

A判定を取った。しかし、それでも親は塾を

辞めさせてくれなかった。だからここにいる

「そう言えば美凪さんって変わった髪型してるけど何か理由とかあるの?」

「無い。髪色が青の時に美容師が以外と似合うかもとかでこんな感じにされただけ」

「そっか……ん?髪色が青の時?」

「言って無かった?私、天気によって髪色変わるって」

「天気によって……?」

「そう、窓の外をご覧よ」

彼女は右手で頬杖をついて、窓に顔を向けた。言われた通りに俺も同じ方向を見ると

そこには少し雲がある青空が広がっている

「今日は晴れだから白、雨の日は濃い青、曇りの日は薄いオレンジって感じ」

俺は改めて彼女の髪を見た、どうやらこれは

灰色では無くて白だったらしい。「今日の色も素敵だけど他の色はもっと素敵だろうね」と言いかけたけど、指に髪の毛をくるっと巻いて、不機嫌な顔して眺める彼女に気づいて

唇を噛んだ。しかし、不思議な事もあるもの

だ。天候によって髪の色が変わるなんて俺が今迄読んだどの小説にも出てきた事ない。

「そんな髪色をしていると優等生の癖に髪染めてるんじゃないとか言われない?」

「無い。成績さえ良ければ髪色なんかどうでもいいらしいの。家の親以外はね」

「厳しいんだご両親」

「まあね、だから優等生なのかもしれない」

今度は手のひらを内側に曲げて、両手で頬杖をついた。なんてこった、それもかわいいじゃあ無いか。ますますヤバい事になってる

もう我慢の限界だ、俺はもう言うぞこうなったら「最後の質問だけどさ」「どうぞ」

俺はぎゅっと拳を握って言った「君は想定外の事があっても動揺しない人かな」

「そうね、大概の事は」

そして、俺は彼女の机に思いっきり両手を叩きつけ「君の事が好きになってしまったんだ。どうか付き合ってほしい」と目と目をしっかり合わせて、言った。すると、しばらく

彼女は目を丸くしたままフリーズした

これは仕方ない事だよなと思いつつ、玉砕を

覚悟してた。正直、言っただけで俺は満足だ

いや、ここで佐伯美凪あなたと話せただけで俺は満足だった。振られたらいつか出来るかもしれない恋人に話して笑われてしまえばいいさぐらいに構えていたのだが

「今はそれについて返事は出来ないみたい。

ごめんなさいね」

と、彼女は笑いながら想定してない返事をした。これには思わず俺も全身の力が抜けて、

彼女が使っている机の前の椅子に寄りかかった。そんな俺を気にせず、彼女は机の横にかけられたリュックから何かを取り出し、机に

置いた。どうやらお弁当箱の様だった。

「ひと仕事終えるとお腹が減るのでね」

そう言って、彼女は頬を緩ませつつ弁当箱の

蓋を開けた。中身は唐揚げとご飯とブロッコリーとプチトマトが入っていた。箸を持つ前にぺこりと頭を下げ、最初はご飯を一口、それから唐揚げを半分程齧った。これはこれで

ヤバい、腹が減って来る。昼持ってきて無いのが惜しいなあ。

「美味しそうなお弁当だね」

「そう?作ったのは誰かしら、ふふ」

「ちょっと分けてくれないか。腹が減って来たんだ」

「嫌よ、私が作ったお弁当だもん」

「ですよね」

俺は目の前から鼻に流れ込む匂いから逃れようと、天井を見た。ボロい天井だ、相変わらず

「ちょっと秘密を教えてあげようか」

彼女は箸をそっと置いて、俺に言った

「これ以上、何が秘密だって言うのさ」

腹が減りすぎて、思わず親に反抗する中学生みたいな言い方を俺はしてしまった

「高一の時に音楽室の黒板な変な落書きあったでしょ」

「ああ"悪の味方 デンマン参上"ってな」

「あれ、書いたのあたしなんだ」

「ふぇえ?!」

俺は驚いて、寄りかってた椅子から背中を滑らせ床に寝転がった

「確かにあれ……誰が書いたのかなとは思ってたけどキミだったのか。何故に」

「暇だったから。まさか学年集会まで発展するのは想定外だったけどね」

くすくすと小鳥みたいに彼女は笑う

そして、立ち上がろうと俺が手を伸ばしたら

彼女が手を差し出してくれた。もちろん、跳ね除けたりせず、俺はしっかりその手を掴む

「変な話してごめんね、お詫びに口空けて」

「え?」

やっと飢餓から救われると俺は思い、歯医者の検診みたいに口をあんぐり空けた。ただ、

そこに放り込まれたのは

「……プチトマトじゃないかこれ」

「そうよ、私嫌いなのにママが勝手に入れてしまったから。どうもサンキューでした」

口の中で潰されたトマトは甘かった。普通に美味しいけど変わった人も居るんだなあ。唐揚げを嬉しそうに口へと運ぶ彼女を見ながら

俺はそう思った









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