第6話 攻撃の効かない敵に挑め


「ストーンバレット!!」


 槍を持った女性が危ない、そう思った僕は収納から石を取り出し魔法を唱えた。ストーンバレット、魔力で石の礫(つぶて)を飛ばす攻撃魔法である。


 ガツンッ!!


 鈍い音があたりに響く。


「やった、まともに食らったぞ!」


 僕は歓喜の声を上げた。


「ンア…?オマエ今、何カヤッタノカナ?」


 オークはのんびりとした声を出しながらこちらを向いた。


「えっ?」


 オークは平然としている。まるで効いた様子がない。


「な、なんで?まともに食らったはずなのに…。もしかしてあまり痛くない場所に当たったのか?な、ならもう一度…」


「グヒュ、グヒュ、グヒュ!ム、無駄ナンダナ。ド、ドウシテモト言ウナラモウ一度ヤッテミルト良インダナ」


 お気の済むまでご自由にどうぞとばかりにオークは自分の顔を指差した。憎たらしいほどの満面の笑みだ。


「ようし、それならッ!」


 僕は再び収納から拳大の石を取り出しオークに向かって投げつけた、そして再び魔法を唱えた。


「ストーンバレット!!その開いた口の中にねじ込んでやる!」


 時速135キロの石の礫が飛んでいく。狙い通り、笑うオークの大きく開けた口へ一直線!


 ガッ!!


 僕の放った石の礫は確かにオークの口に命中!命中した石は口に張り付いている、しかしオークはビクともしない。


 ガリッ!!


「う、嘘でしょ!?か、噛み砕いた!?」


 オークの口に命中した拳大の石、オークはそれを口で受け止めたのだった。しかもそれを平然と噛み砕く、ボトっという音を立て石が地面に落ちた。そして口の中に残った石をペッと吐き出した。


「ワ、分カッタンダナ?コレデ」


 ニヤニヤと笑いながらオークが得意そうに話している。


「オ、オデハ、変異種ッテヤツナンダナ。ウ、生マレツキコノ皮膚ガトテモ丈夫ナンダナ。刃物デモ切レナイ、殴ラレテモ痛クナインダナ。外カラノ攻撃、オデニハ一切通用シナインダナ」


「こ、攻撃が効かない?だから私の必殺の一撃が効かなかったのか!?喉元はドラゴンですら弱点だと言うに!生まれつき…、きっとそれは何らかのレアスキルに違いない。このオークが全くの無傷だったのはそういうカラクリだったのか!」


 槍を持った女性が吐き捨てるように言った。それを見てオークはさも嬉しそうに笑った。


「グヒュ、グヒュ、グヒュ。ソウイウ事ナンダナ。サァ、分カッタラ諦メロ。ソシタラ男ハ死ヌマデイタブッテヤルンダナ。女ニハ子供ヲ生マセテヤルンダナ」


 そう言うとオークは巨大な棍棒を構え直した。


「くっ…」


 攻撃が効かない、そんな絶望的な状況であったが女性は諦めず槍を構えた。どうやら死ぬまで戦うつもりのようだ。


「お、お逃げ下さい!姫様!!」


 その時、立ち上がれずにいた年老いた男性が叫んだ。


「ワシのこの足ではもう動けません!ですからお逃げ下さいっ!ま、孫を連れてどうかっ、どうかっ!ワシはここで食い止めますのじゃ!そこのお若い人、あんたもじゃ!ここは逃げて生きるんじゃ!」


「何を言うか!領民(たみ)を守らずして何が貴族か!ましてや私は神にこの槍を捧げし戦乙女(ヴァルキリー)!この身朽ちても邪悪に屈する事は無い!そなた達こそこの場を離れるのだ。なあに、ゆっくりで構わん。そのくらいの時間、見事稼いでみせる!」


 早く行け、最後に一言付け加えて再び女性はオークと対峙した。勝ちの無い…、負けしか見えぬ戦いなのに女性には何の迷いも見られなかった。

 

「刃物でも、打撃でも傷が付かない丈夫な皮膚…。それじゃまさに不死身、無敵の体じゃないか…。あれ?だけどコイツ、女の人には子を生ませるって言ったよな…」


 僕はオークが先ほど言った事に引っかかりを感じた。


「って事はコイツにもいつか寿命が来るんだ、だから種の本能として子を残そうとする。…きっとこのオーク、必ずしも不死身って訳じゃないんだ。きっと何かコイツを殺す為の方法があるはずだ、それが出来れば…」


 だが、僕の残り魔力はわずかに3ポイント。使える魔法もいくつか頭に浮かぶがこんな実戦でどんな効果を発揮するかまだ見ていない初めての魔法を使うほど僕は無鉄砲ではない。


「出来るのは石を飛ばす事…、だけどいとも簡単に受け止められてしまった…。そんなヤツをどう倒す?決して傷つかない皮膚を持つ奴にどうやって…。…あっ!」


 その時、僕に一つのヒラメキが浮かんだ。急いで制服のズボンのポケットを探りハンカチを取り出すと上に向けた右手の平の上に広げた。


「何をしているッ!そなたも早く逃げよ!」


 女性の必死の声が響いた。


「いいえ、逃げません。全員揃ってここを離れましょう」


 根拠は無いが僕はなぜか落ちついていた。そして言葉を続ける。


「思いつきました。そのオークを倒す方法を…。今ある持ち物と出来る戦い方で…」


 そう言うと僕はハンカチを敷いた手の平の上にいくつかの小石を収納から出現させた。


 






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