第4話 氷彗、念願のスマホ購入

「いらっしゃいませ、お客様の担当をさせていただきます加賀でございます」

「私は氷彗です!」

「はい」


 店員さんの自己紹介に対して、氷彗は元気よく返事した。

 それに表情を綻ばせながら、店員さんはニコッと微笑んだ。


「本日は、こちらの機種のお買い上げで問題ありませんか?」

「あ、はい」


 母さんはカウンター上に提示されたスマホの入っている箱に頷く。


「では、まず色はどちらになさいますか?」

「どれがいい?」

「水色!」

「じゃあ、水色でお願いします」

「わかりました」


 氷彗は真っ先に水色のスマホを指差し、店員さんもそそくさと準備を始めた。

 まぁ詳しいことは両親頼みだが、うんうんと頷く氷彗を横目に俺は周りの視線を気にしていた。


「なんであの子の髪白いの?」


 無邪気な子供の声が俺の耳に入る。

 それに俺は少しだけ恥ずかしくなった。

 少しだけ被っている帽子を深々とかぶる。


 ここにいるのは家族かご高齢の方、あとは買い物に付き合わせられているであろう子供が時間潰しに店頭に展示されている携帯でゲームをする子達だった。

 昨今では日本でも外国人を見る機会は増えたけど、それでも子供にとっては珍しいであろう俺の髪色に興味を示すのはわからんでもないけど。

 声がでかいよ……。

 あまり目立ちたくないのに。


 そうこうしている間にも隣では氷彗のスマホの話は進み。


「では、こちらの商品なのですが無償でフィルムとクリアケースを付属させていただきますね」

「はい!」


 氷彗は前のめりに返事をした。

 そのワクワクした表情を見ると、少しだけ俺の平常は保たれた。


「では、こちらで商品をお渡ししますので少々おまちください」

「よかったね」


 母さんは隣に座る氷彗に微笑むと、氷彗は”うん!”と返事を返す。

 本当に嬉しそうだ。

 その様子を見る店員さんは口を開く。


「もし宜しければなのですが、そちらの娘さんにこちらのキッズスマートフォンというものもあるのですが、いかがなさいますか?」

「んー」


 母さんはパンフレットを見て少し悩んでいる様子。

 それを見て、後ろで立っている父さんが口を開く。


「秋斗は欲しいか?」

「俺……わ、私はいらないよ」


 母さんの言いつけを思い出すかの様に、俺は妹として振る舞おうとするがなんとも違和感しかない。


「こちらの携帯と一緒にご購入いただけますと、お値段が少々安くなるのですが、どうしますか?」


 店員さんの商談というか、商魂というかなんかすごい。


「あきちゃんも一緒に買お!」

「あ、あきちゃん……むぅ」


 氷彗のここぞとばかりのにやけ顔が俺の目に入る。


「私はパソコンあるし」

「でも外じゃ使えないでしょ」

「……」


 いや、それもそうなんだけど、俺外とか出ないし。


「私の初めての友達はあきちゃんにするって今決めたの!」


 いや決めたって言っても、買うのは父さん達なんだし。

 俺があまり乗り気な姿勢じゃないのに対し、氷彗は買え買えムーブだ。

 そんな二人の様子を見て父さんが口を開いた。


「ま、今回の買い物は氷彗のプレゼントを買いに来たわけだし、連絡先を交換までをセットに考えるなら秋斗にも買っていいんじゃないか?」

「そうね」

「え」

「かしこまりました。ではこちらも揃えて準備いたしますね」

「えぇ……」

「やった」


 有無を言わさぬ勢いだった。




‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐




「よかったね」

「うん!」


 母と手を繋ぐ氷彗は店を後にしてからホクホク顔だった。

 念願のスマホ、そりゃ嬉しくなる気持ちもわかるけど……。

 氷彗の手には携帯ショップの袋と早速開封し初期設定を始めているスマホが、そして俺の手にもキッズスマホの入った袋が。


 今更、携帯の一つ二つではしゃぐ年齢でもないけど、ないんだけども。

 氷彗の喜ぶ姿を見ていると、俺も初めて携帯を買った感覚を思い出してなんだかんだ言いつつも嬉しく感じてしまっている。


「秋斗も嬉しそうだな」

「えっ、いや、これは違うよ?」

「そうね」

「あきにぃ、ニヤけてる!」

「違う!」


 ニヤけてない、ただ氷彗の姿に微笑ましく思っているだけだ。

 ってかそんなことより。

 俺は携帯ショップに入る前の約束を思い出し、少しだけ顔を赤くさせつつも気持ちを高揚させながら口を開ける。


「ゲーセン! 行くでしょ!」

「はいはい」

「あきにぃ、そんなことより早くアドレス交換しよ!」

「そんなことじゃないわ! 交換はするから、とりあえずゲーセン行こうよ!」

「約束だからね!」


 氷彗は小指を突き出しながら言うが、それを見て俺はふと我に帰った。

 家族連れ、ゲーセン前で行こうとゴネる子供。

 待て、俺はいつからこんなにも精神年齢が幼くなってっしまったんだ?

 しかも、演技で妹やれとは言われても、これじゃあ本当に子供だぞ?

 少し冷静になろう。

 俺はふぅと一息ついてからゲーセンへと足を運んだ。







 煌びやかに騒がしい。

 ゲーセン特有の匂い、懐かしい。


「で、秋斗はどんなのをやりたいの?」

「んー」


 母さんがゲーセンに入ってすぐ、俺に問いかけた。

 俺は周囲を見渡す。

 これと言って”新しい!”というゲームはなかったけど、面白そうなゲームばっかで悩む。

 と言っても、親と妹が見ている中一人で格ゲーとか音ゲーをやるのはなんか違うしな。

 そうこう悩んでいると、氷彗が店の奥へと走り出した。


「これ撮りたい!」


 そこにはプリクラがあった。

 前世じゃ縁もゆかりもない、と言うかそのエリアにすら入ったこともなかった。

 興味がないかと言われれば嘘になるけど。


「ひーちゃん、今は秋斗のやりたいことを優先にしよ?」

「えー」


 氷彗は少し落胆する様に肩を落とした。

 それを見て俺は、

「いいよ、撮ろ?」

「え? いいの!? やったー」

 氷彗は飛んで喜んでいる。


 しかし、母さんが俺の隣でかがみ俺の顔を覗き込んだ。


「いいの? 今は秋斗のやりたいことをやってもいいのよ?」

「うん、まぁみんなの前で格ゲーとかは恥ずかしいし。いいよ。プリクラにも少し興味あったしね」

「そ?」

「うん」

「さすがお兄ちゃんね」

「……」


 少し照れ臭くなった俺は顔を染めながらも、プリクラのあるエリアへと歩き出した。




「へー、こんな張り紙貼ってあるんだ」


 プリクラエリアの前には”男性のみでのご利用はお控えください”との張り紙があった。

 なんというか、時代錯誤な気もするけどなんでダメなんだろ。

 ま、今の俺には関係ないか。


「これでいい?」


 俺が張り紙を見ていると氷彗は美人なお姉さんがプリントされているプリクラの機械を指差していた。


「なんでもいいよ、氷彗がやりたいので」

「うん! じゃあ入ろ!」


 氷彗はカーテンを上げながら俺たちを手招く。

 それを微笑ましそうにみながら、父さんと母さんは一歩下がった位置で、

「パパとママはここで待っているね」

 と、入る気がない様子だった。


「なんで? みんなで一緒に撮ろうよ!」

「と、姫様が言ってますよ?」

「姫じゃないよ!」


 俺は少し意地悪な笑みを浮かべながら、両親へと振り返る。

 どうやら両親は少しだけ気恥ずかしかったのか、苦笑いをしていた。


「そう?」

「じゃあ、一緒に撮るか」


 そうして俺たち家族は、一台のプリクラ機へと入っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神の手違いで転生したら転性した~妹は姉に、幼馴染や両親からは天使に、友達からは姫に~ アユム @uminezumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ