第3話 スマホを買いに出かけた

 綺麗な銀の長髪に覆い被さる真っ白なもこもこベレー帽。

 上に着ている赤のポンチョコートの襟元からは白い大きなボンボンが紐から垂れ下がる。

 なんか容姿が日本人っぽくないせいか、サンタコスっぽい気がするのだが。


「あきにぃ、準備オッケーだね!」

「ねぇ、これってコスプレじゃないよな?」

「ちがうよー」


 俺はコートの裾を掴み氷彗に尋ねるも、笑ってあしらわれた。

 かくいう氷彗は氷彗で可愛い格好をしているのだが、なんというか。

 淡いピンクのセーターにチェックのスカート、薄茶色のダッフルコートに身を包み、髪飾りはもちろんのことながら、これまたお揃いのベレー帽を被っていて、いつも以上に気合が入っている気がする。

 ただスマホを買いに行くだけなのに。


「なんか、スマホを持つって少し大人に近づく気分だねあきちゃん」

「あー……ってあきちゃん言うな!」


 氷彗はニカッと笑っていた。

 そして俺たちは車に乗り込み、父さんの運転の元ショッピングモールへと出発した。






 イ○ンモールについて、俺たちは一番に携帯ショップへとかった。

 休日のモールは冬休み中と言うのも相まってか、家族連れが多い。

 それに時期も時期で、クリスマス一色に装飾されており、案の定カップルも多い。


「うわ〜……人多っ」

「あきにぃ! 何を入り口でもたもたしてんの!」


 氷彗は自動ドア入ってすぐのところで、あまりの人の多さにげんなりしている俺の元に軽い足取りで駆け寄った。


「ほら! いくよ、パパもママも早く!」

「はいはい」

「今日はやけにテンション高いわね」

「だって、念願のスマホだもん!」


 子供らしくニコッと笑う氷彗。

 そんな妹を横目に、俺は入ってすぐの柱近くにある蛍光色の椅子に腰掛けた。


「あきにぃ!」

「な、なんだよ」

「なんで座ってんの! いくよ!」

「わかってる、わかってるって」

「わかってないじゃん」


 口だ開け肯定しつつも全く立とうとしない俺の手を掴み、強引に立ち上がらせる。

 氷彗は事前に家族用のパソコンでモール内のマップを頭の中に入れてきていたのか、迷わずに前へ前へと先行して行った。

 それが功を奏したのか、モールに着いてから5分も経たないうちに携帯ショップの前に並ぶのぼりが見えてきた。


 そして隣にはゲームセンターが。


「じゃ、俺はここで待ってるわ」


 体が引っ張られていく。

 これが引力?

 生まれ変わって初めて見るゲーセン、新しい種類のゲームはでているかなぁ。


「ちょ、あきにぃ!」


 氷彗はゲーセンへと一歩二歩踏み出す俺の手を掴んだ。


「なに?」

「スマホ!」

「え? あーうん。行ってきな?」


 氷彗は携帯ショップを指差しながら、頬をぷくーっと膨らませている。

 そんな氷彗に俺は小首傾げながら笑顔を飛ばすが、後方から氷彗への援護射撃が飛んできた。


「秋斗、流石に今のお前を一人でゲーセンに行かせるのは、流石になぁ」


 父さんが申し訳なさそうに俺を見下ろしていた。

 それに続く様にかあさんも。


「秋ちゃん、一緒に氷彗お姉ちゃんのスマホ買いに行こ?」

「……」


 はぁ〜〜〜〜〜〜っ!?

 それに氷彗お姉ちゃんだぁ?


「俺は兄だぞ! ああと秋ちゃんじゃなくて、秋斗だ!」


 俺は胸を叩きながら、母さんに反論するも。


「いや、ね。私たちは理解してても、流石にね……」


 母さんは眉を八の字に曲げながら、俺の目線に合わせる様に屈んだ。


「秋斗。家ではお兄ちゃんでいいけど、外だと私たち家族の事情はあまり理解されないだろうから、嫌かもだけど妹ってことにしてくれない?」

「うっ」


 確かに、それは一理ある気が。


「わ、わかった」


 俺は苦虫を噛み潰した様な苦渋の決断をした。

 そんな俺を見て父さんが口を開く。


「まぁ。どっちにしても、今の秋斗を一人にしたら危ない人間がこぞって寄ってくるから、ゲームセンターにどうしても行きたいならあとでみんなでだな」


 本当に女児扱いここに極まれりだわ。

 なんだこりゃ。

 まぁ、確かにだし? それは自覚あるけども、でも流石にそんなロリコンどもにホイホイ着いていくと思われているのか?

 中身は成人済みのおっさんだぞ?

 容姿だけ良くても中身がおっさんならその行動仕草言動から、それでも俺に寄ってくるやつなんていないだろ。


 はぁ。


「あきにぃ。とにかく行こ」

「……はいはい」


 俺は氷彗に手を繋がれたまま、ゲーセンの隣にある携帯ショップへと向かった。






「「いらっしゃいませ」」


 店の中のどこからか複数の店員さんの声は聞こえるも、マニュアル的な挨拶が店に入ってすぐに聞こえてきた。


「どれにしようかなぁ」


 氷彗はショップに入ってすぐ、いくつものスマホが展示されているエリアへと足を進め物色している。

 ま、性能よりも見た目とか新しさの方が氷彗は重要視しているだろうし、そんなに時間はかからないだろうけど。


 スマホねぇ。

 少しだけ高い位置にある展示されているうちの一台のスマホの画面を、背伸びをしながらスワイプした。

 会社からの厄介メールとどこぞの企業のどうでもいい通知メール、あとはアラーム機能がついているだけ。

 ゲームも動画もパソコンで事足りるし、なんならスマホを携帯しないから基本電源切れてたし。

 便利なのは便利だと思うけど。

 氷彗の前ではあんなこと言った手前こんなことを思うのはアレだけど、俺は今世ではいらないかな。


「あきにぃ、これ新しいやつだよね?」

「んー?」


 氷彗の指差す先には、オレンジ社が今年発表した新型機種「Myphone Ⅺ」があった。


「私これがいいなぁ」

「いいんじゃない」


 知らんけど。


「ママー。私これがいい」

「んー? あ、いいんじゃない」


 特にどの機種がいいとかあまり考えていないであろう母の相槌を聞き、さらには父さんもすぐに賛同した。


「じゃあ、店員さんのところに行こうか」

「うん!」


 案の定ほんの数分で、氷彗はお目当てのスマホを見つけ店員さんを呼びにかけだしていった。

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