愛宕祭当日①

目覚ましの電子音で目を覚ますと、外は日の出少し後のようでまだまだ暗い。

 それもそのはずで今日は事情があり、まだ5時を少し過ぎた位の時間に起きなくてはならなかったのだ。


 「さて、動きやすい服装に着替えてまずは祭の開催予定地に向かうとするか……。」

 適当に汚れても良い服をセレクトし、もうここにきてから何回も乗っている自転車で祭が毎年開催されている空き地へと向かう。


 業者の人から機材を受け取り、配置をした後で動作テストをするとライトやスモークは異常なく動いたのでそのまま予定されている位置へと配置する。

 「リハーサルまではまだ時間があるし、どうしようか……。」


 ボランティアが例年よりも多かったこともあり、思ったよりも早く終わってしまった会場準備のせいで僕は暇を持て余していた。


 特に行く所もないのに僕は自転車をただ漕いでいて、気づけば村上さんの宿の前に自転車を停めていた。

 思えば最近奏の様子がおかしかったのは今なら分かるかもしれない。


 「奏はもしかして僕のことがっ――」

 後ろから両肩を思いっきり叩かれ、後ろを向いてみると奏が立っている。


 「それ以上はまだ言っちゃダメ。無事に公演が成功したら私から言わせて。」

 そう言った後で奏は少し散歩しようよと言って、自転車を宿の横に置いたまま僕の手を引いて歩き出す。

 「今日が終わったらもう、私たちにあと残されてるのは文化祭ステージだけなんだよね。」


 奏は少し悲しそうに段々と日の登ってきている空を眺めながら呟いている。

 「吉人はさ、この練習期間楽しかった?」

 奏にしては珍しく明るい声で聞いてきたことに僕はびっくりしつつも、頷いて返答する。


 思い返せば昔の奏はこんな感じの性格だった気がする。

 前にあの公園で話してくれた奏の話を聞くにいじめられていた時からこんな感じのクールに近い性格になっていたのかもしれない。


 「吉人、今からあの公園にまた行こ!暇つぶしとリハーサルを兼ねて、一曲歌ってあげる。」

 奏に連れられるまま歩いて丘の上の公園へと向かう。

 前来た時は上がるのがきつかった坂もなぜかそれほどキツく感じなかった。


 「まだ祭が始まるまでは時間あるよね。じゃあ新曲のアカペラでもしようかな。」

 奏が新曲を歌っているのを聞いて気づいたことが1つあった。

 「奏、この曲もしかして……。」

 小鳥とウサギの関係と僕と奏の関係を重ねてみるとはっきりと分かってきた。


 「あれ、気づいちゃったか。これは私と吉人について書いた曲でもあるからね。もし吉人がバンドに参加しないって言った時にも想いが伝わるようにって歌詞を作ったからね。」


 完敗だ。完全に僕は奏の策の中にいた。


 

 

 

 

 

 

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