第5話

 その後、気絶した盗賊を村の入口に縛って吊るすことで、恐れをなした盗賊達は帰っていった。

 俺は村の人々から手厚い感慨と感謝を受け、その日は朝まで騒ぎ明かした。


「いやあさすがは僕の弟です。よくやりました」


「兄さん。酒臭いです。あと離れてください」


 俺にくっついて離れないグローチアを見る村人の目は優しかった。

 見慣れた光景を見る時の目をしている。


「いやあ、まさかイットウがこんなに強かったはな。そういえばもう王宮の仕事はいいのか?」


 中年のおじさんが話しかけてきたが、内容がよく分からない。


「王宮?」


「ああ! 今は休暇中なんですよ。王宮で鍛えたみたいで、僕も驚いてるんです」


 焦ったグローチアが割り込んでくる。

 どうやらこの体の持ち主はどこかの王宮で働いていたらしい。


 そして今の会話でわかったが、この体の持ち主が死んだことを知っている者はこの村にはいないようだ。


「へぇ、休暇中ねぇ」


 おじさんは手に持ったパンとワインを口に入れて飲み込んだ。


「じゃあどうだい。都で始まる剣術大会にでも出てみたら。あれに勝てば賞金も貰えるらしいぞ。というか王宮で聞かなかったかい?」


「聞いたような……聞かなかったような……」


 適当に話をあわせ、こめかみを擦る。

 剣術大会。まさに俺にふさわしい響きで面白そうだとは思う。しかし……。


「兄さんはどう思います?」


 くっついて離れないグローチアに意見を求めた。

 今日盗賊と戦えたのは、グローチアの魔法があったおかげだ。ひとりじゃ何も出来なかった。

 おそらくその剣術大会でも、グローチアが居なければ俺は何も出来ずに終わるだろう。


「いいじゃないか一刀。兄さんがサポートに行くぞ。もう仕事も全部休む! いいよねエミリア!」


 離れたところに居た義姉に向かってグローチアが叫んだ。

 エミリアは首を捻ると、無表情で手を振った。

 

「一刀さんが勝てるとは思えないけど」


 エミリアが目でそう言っているような気がした。


「いいみたいだ一刀! じゃあ決まりだ。明日から兄ちゃんと都に行こう」


 ────


「じゃあ行ってきます」


 夜が明けて数時間後、エミリアに出発の挨拶をした。

 全然寝てないせいで頭が痛い。


「じゃあエミリア。役場への説明はお願いします。しばらく家を空けることになりますが……」


「はいはい。体に気をつけていってらっしゃい」


 エミリアは笑顔で手を振ってくれたが、言葉には全く感情が篭っていない。


「さあ行くぞ一刀。僕たちの戦いの始まりだ」


 こうして自称剣豪の俺は正真正銘の剣豪になるため、都の剣術大会へ向かって出発した。


「大会中も僕の魔法に任せてくれ一刀」


「それっていいんですかね……」



 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自称剣豪と魔法使いのお兄さん 姫之尊 @mikoto117117

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ