エピローグ

 買い出しを終えて扉を開けると、リビングのほうからドタドタとこっちに向かってくる足音が聞こえてきた。私のかわいいペットの出迎えに備えて買い物袋をその場に置くと、ちょうどその可愛いペットが私に飛び込んできた。


「おかえりなさい、ご主人様!」

「ただいま。洗濯物とお掃除は終わった?」

「はい! 完璧です!」

「ふふっ、いい子ね。ありがとう」


 お礼に藍ちゃんの頭を撫でると、この子は満足そうに目を閉じてご褒美を満喫していた。赤い首輪をつけて、私が選んだ肩出しワンピースを着た藍ちゃんは本当に可愛くて、寒い中重い買い物袋を運んだ疲れなんて忘れてしまった。


 こんなにかわいい藍ちゃんを見る度に思う。なんで他の人間は人を飼わないんだろう。どんな動物よりもアクセサリーや服の種類が豊富だし、犬なんかよりよっぽど賢い。家事だって手伝ってくれるし、何より表情が豊かだ。


「ねぇ藍ちゃん。外が寒くて手が冷えちゃったから、温めてほしいな」

「はい、ご主人様」


 藍ちゃんは私の冷たい手をとって、温めるために指を口に含んだ。生温かい感触とぬめりのある唾液が気持ちよくて、本当に良くできた子だと藍ちゃんの献身ぶりに感心する。


 あぁ、この子の私に尽くす姿を見る度に、昔の人間だった頃の藍ちゃんを思い出す。私を警戒して冷たい言葉も吐いていたのに、今や私無しでは生きていけないペットに成り下がった。


 そのギャップが堪らなく快感で、私の支配欲が満たされる。


「ぷは、できました」

「ありがとう」


 そして、目の前の可愛いペットに抑えられないほどの劣情が湧いてきた。明日は何も予定はない。だったら、やることは一つ。


「藍ちゃん。ご褒美に今日の夜、いっぱい愛してあげるから準備しててね」


 藍ちゃんの耳元でそう囁くと、さっきまでの従順なペットの雰囲気から、私の劣情をさらに刺激する淫猥な雰囲気に変わった。


「はい……優しくしてくださいね」

「それは藍ちゃん次第ね」


 今日は激しく抱こう。ペットの希望を無視して私は心の中でそう決定した。リビングに向かって歩き始めると、藍ちゃんも後ろをついてくる。


 藍ちゃんの首輪についた銀色の鈴が、今日も綺麗な音色を奏でていた。

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