5、終わったループ

「謙信…、泣かないでよ…、泣かないでよ…」


そう言って、慰めようとしたけれど、弓絃葉は、自分の瞳から流れる涙も止められずにいた。


「大丈夫。私…モテるのよ?私、可愛いでしょ?すぐ…恋人くらいできる…。ねぇ…それより、どうしたら、謙信を忘れずにいられるのか、教えてよ…」


「…僕は、色んな人をすきになった。色んな人とお付き合いをした。…でも、みんな、僕を、本当には愛してはくれなかったんだ。……こんなこと…言ったら…また、弓絃葉に怒られそうだけど、この恋を…初恋と呼ばせて…」


「え?」


「弓絃葉にとっても、僕が、初恋って呼んで」


「え…でも、私は違う人をすきにならなくちゃいけにないんじゃ…」


「うん。ごめんね…。君には、すきな人を作って欲しい。でも、僕を…愛して欲しいんだ…」


「…無茶苦茶なこと…言うね…」


「……だね……」






2人は、うつむいたまま、何時間経ったろう?


「分かったよ…、謙信。私、既に、3人の人に告白されてるの。その中に、1人、素敵そうだなぁ…って思ってる人がいる。その人と、付き合ってみる」


「……良いの?」


「……良いよ……」




それから、弓絃葉は、飯島結人と言う1つ上の先輩と付き合うことにした。結人は、学校でも人気のある男子だった。誰もが、羨ましがった。


しかし、弓絃葉は、謙信が心配で、どんなに結人をいても、本気で笑ったり、楽しんだり、悦んだり出来なかった。そんな想いが伝わってしまったのか、付き合って3ヶ月。結人から別れを告げられてしまった。


「まって!先輩!!」


「ついてくんな!お前、俺といても絶対他の誰かのことこと考えてるよな!?俺の事すきでもないなら、頭ん中にいる奴のとこ行けよ!」


ぐいっ!!


「!!」


弓絃葉は、結人に初めて、キスをした。


「すきです!すきです!すきです!すきですから!!」


涙をいっぱいにして、口をグッと結んで、結人の襟を強く強く掴んで、必死で訴えた。


「弓絃葉…」


その勢いに、さすがに結人も邪険に扱うことは出来なかった。


『やり直そう』


と言うことで、話は済んだ…。結人が去った後、弓絃葉は、その場にへたり込んだ。




「……ごめん……」


「…」


顔を上げると、謙信がいた。その謙信に、首を振って、にっこり微笑む弓絃葉。ハンカチをそっと差し出すと、ふふっと笑って、弓絃葉は受け取らなかった。その笑顔が、謙信には、痛くて、痛くて、たまらなかった。


「こんなこと…頼んじゃいけなかったんだ…。僕が…勝手に望んで交わした確約に、誰かを巻き込むなんて、しちゃいけなかったんだ…。もういいよ。弓絃葉…。僕の為に…あんなこと…しないで…僕の為に…これ以上…頑張らないで…僕の為に…これ以上…自分の気持ちを壊さないで…」


「………謙信…あなたを…救いたい…」


その言葉に、謙信は思わず、思いっきり、弓絃葉を抱き締めた。


「ごめん。君の…記憶から…僕の記憶を…消すよ…」


「…イヤだよ…」


「…でも…」


「こんなに…愛おしい人の記憶を…消されるなんて…私は…イヤだよ…」




いつの間にか、弓絃葉にとって、謙信は、体の一部のような感覚だった。自分が何故、こんなに謙信に惹かれているのか、理由は分からない。




理由があるとしたら―――…、本当に、弓絃葉にとって、謙信がだったから―――…なのかも知れなかった。



只、謙信を、永遠のループから解放してあげたい。そのために、自分が出来ることがあるなら、なんでもしてあげたい。弓絃葉は、そう思うようになっていた。


最初は、あんなに腹を立てていたのに。もう、コントロールが利かない、とは、このことだろう。


謙信の腕の中で、涙をポロポロ零しながら、弓絃葉は言葉を連ねた。


「大丈夫。私、平気だから。私が…謙信、助けるから…」


「もういいよ。もういいから…」


謙信は、必死で止めた。自分から頼んでおいて、それがどんなに残酷な仕打ちだったか、謙信は考えていなかった。


「謙信…お願いがるの…」


「…何?」


「この恋を…初恋と呼ばせて…」


「うん…うん…うん…!」





【謙信…お前は、これ以上、そのお嬢さんを苦しめるつもりか?】


何処からか、声がする。


「か、神様!!」


しかし、その声は、弓絃葉には聞こえなかった。


「…神…様?」


「僕が、永遠の命を望んだ時、この声がしたんだ」


「私には聴こえない…」


【これは、お前の様な愚かなものの為ではない。そこのお嬢さんののように、純粋で、優しく、綺麗な心の持ち主の為に、する特別処置だ。お前も、もう2度と馬鹿なことは考えるな。人はいつか死ぬ。それが、どんなに尊いか、もう解ったろう?お前のループを解く。ただし、39年後までは解かぬ。39年後そのお嬢さんの娘さんを迎えにいきなさい。名前は違えど、分かるはず。すぐにお前とその娘さんが引き合えば、お前の愚かな行為に目を瞑ろう】


「はい……はい!!」


そう言った後すぐ、あたりは閃光に包まれ、ざわざわしたとある中学校の教室の扉の前に、謙信はいた。


そして、教室に入ると、窓側の奥から3番目。弓絃葉によく似た女子が、目を丸くしている。



2人の初恋は、やっと、結ばれた―――…。

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