第26話化粧品

「次の新商品についてだが……化粧品はどうだろう?」


 自身が所有する商会に来た俺は会長に向かってそんな提案をしていた。


「原価が安く値段は青天井……大変素晴らしいアイディアだと思いますが、今は時期が悪いかと……」


 煮え切らない会長の言葉に違和感を覚えつつも、自分の意見を通そうと理由を探す。


「確かに新商品お披露目には時期が悪いな……」 


 もうすぐ十歳祭が行われる今から新商品を開発しても間に合うとは思えない。

 確かに時期が悪いと言えるが……


「そうではありません。戦争ですよ」


「なるほど……」


「それに、化粧品は品質よりもブランドが重要視される商品です。ですので後発で新規参入するには越えなければならないハードルは高く、仮にヒット商品を作れたとしてもご婦人方の流行は早く、一つの商品で中長期的な収益は見込めません」


 確かに前世の日本でも化粧品の値段の多くが原価ではなく宣伝費であり、主成分もほぼ変わらず変わるのはアミノ酸配合とかビタミン配合とかそう言った補助部分と訊く……確かに会長の言っている事は、全て正しい。


「だろうな……既存の化粧品であればと言う大前提ならばな……」


「どういう事でしょう?」


「古今東西、化粧品は男女問わず肌を美しく彩るものだ。しかし、同時に肌を痛める。化粧の粉は粒が細かく毛穴などに残り易いため、石鹼などを使い過剰に洗ってしまうと皮膚の薄皮が剥げ赤身を帯びたり、瑞々しさを保つ膜が取れてい肌を余計に傷つけるのだ。この化粧品はそれらの心配が薄いものを提供する……」


「シュルケン様の仰る事が全て実感できる事であれば、買う婦人達も増えるでしょうが……常識を覆すのは難しいのです。肌を白くするために理髪店で “瀉血しゃけつ” をしたり白粉おしろいを塗るのが常識なのですそれが、健康に悪いと言われても理解出る方がどれほどいるか……」


「しかし、鉛白や水銀を用いた白粉ファンデーションは身体に蓄積する毒だ神経……感覚や腎臓……臓器にダメージを与える。ワインに添加されている事の多い鉛も取り過ぎれば毒となる……」


 地球でも近代に至るまで万病に効くと言われた瀉血だが感染症のリスクが高く、実際時のアメリカ大統領も瀉血で死んだと言われている。

 白粉などの重金属の有毒性の例としては、徳川将軍家の夭折率の高さや四大公害、始皇帝などの歴代中華皇帝。耳が聞こえないと言われるベートーヴェンは一説によると鉛中毒が原因らしい。


「早急に禁止したほうが良いのでは?」


「無駄に混乱を産むだけだ。過ぎたるは及ばざるが如し、薬も過ぎれば毒となる。薬毒同源、薬と毒は匙加減だ。

まぁ鉛白や水銀、鉛は食で摂取できる範囲で十分だから毒にしかならないんだがな。それこそ常識から変えなければいけない」


 と一旦言葉を締めくくり。


「そこで俺が提案するのは、改良型の乳液と化粧水の使用だ」


 そう言って三つの品を机に置く。


「一つは油分が多いクリーム状のもの。もう一つは水分い液状のものだ。二つとも肌の保湿と化粧乗りを良くしてくれる下地だな」


 古くは紀元前1350年の古代エジプト……エジプト新王国時代とよばれ世間一般には、アマルナ芸術や、アメンホテプ四世、習合神アモン=ラー、少年王ツタンカーメン、運命偉大な命令で有名なラムセス2世(オジマンディアス)などで知られる時代に乳液は既に存在していた。


 この世界でも高価であるか、古の大帝国の滅亡と共に失われた知識と言ったモノなのだろう。


 白濁した液体である乳液は、水と精油の混合物で水蒸気蒸留したローズウォーターで香りを添加してある。

 レシチンなどの乳化剤を用いてもいいのだが、大豆は家畜のエサにしているので今直ぐは使えないので使う前に良く振ってもらうしかない。

 そのうち量産できるし、多分大丈夫だ。


 確か乳化剤の作り方は、大豆を絞って出た油を水を加えて攪拌、水と油が分離するとペースト状のレシチンが出来る……ハズだ。

 石油を分解した鉱物油から作れれば楽なのだが、技術もなければ油田もないので現状難しい。

 

 化粧水の作り方は驚く程簡単で、蒸留した水(精製水)に石鹸の副産物であるグリセリンを加え精油を加えるだけ、蜂蜜や尿素を加えても効果が上がるものの、第一弾でそこまでの完成度を求めてはいけない。


「その上から、この新しい白粉ファンデーションは塗る。従来通り余分な油を吸収し、てかりをおさえ、肌の表面をなめらかにして自然に見せるが毒性はない」


 苦労したがこれは売れると思っている。

 毒である事の強調と、化粧水や乳液で肌を保護するという新しい価値観の想像は十分な金を産む事になる。

 肌とは油によって保湿されているが、量が多ければテカリを生み出し、少なすぎれば乾燥し、酸化すれば黒ずむ。

 また頑固な化粧汚れを落すために高価な石鹼で汚れを落すと、はだを傷付けより乾燥する。それを誤魔化すために……とどツボにはまっていくのがこの国の貴族や豪商だ。


「この色の付いた粉……チークを頬などに塗布すると、血色がよく見え頬をメリハリのある立体的に見せる。女性らしい丸みを演出することで小顔に見える。細かい雀斑や染みが目ちにくくなる効果もある。目の周りに鉱物を細かく砕いた粉を付けると印象がガラリと変わる。最後に口紅を引けば一応メイクは完了する」


 モデルとなっている商会に属する奴隷の少女は漸く解放される……と思ったのか肩の力が抜けた。


「おっと忘れる所だった」


 そう言って俺は最後に香水を着せる。


「強い香りですな……」


「人肌で温まり揮発する事で香りを変化させるもので従来の香水よりも香り豊かになる」


 元調香師の奴隷が居て良かったと思う。


「最後に石鹸ではなくこのメイク落としを使うこで肌へのダメージを最小限にし、鼻などにある黒い粒粒……酸化した皮脂などが毛穴に固まったモノ……角栓を落すことが出来る」


「どうでしょう。ただの奴隷の少女が街一番の美人と比べても勝るとも劣らないほどに見違えただろう?」


「確かに……しかしこれは何といえばいいか……強いて言えば塗装ですな」


「(ギロ)」


 塗装と言われた事に腹を立てたのか奴隷の少女は、上司である会長を睨み付ける。


「いえ、素材の良さを活かしたメイクでした。これならば貴族、平民問わず購入希望者は殺到するでしょう」


 貴族向けの主力商品はいままで新しいデザインの服と俺の開発したゲームだけだった。

 しかし、ここに化粧品が加わりマズカザ商会の更なる飛躍は約束されたものになっていた。

 これで十歳祭での話題の的は俺だ。同年代の美女を婚約者にしてハーレムライフの第一歩としたいものだ。

 成功は目前だ。だからこそ今一度気を引き締める。

 勝って兜の緒を締めよ。至言だな……




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『あとがき』


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【好きな幼馴染がバスケ部OBのチャラ男に寝取られたので、逃げ出したくて見返したくて猛勉強して難関私立に合格しました。「父さん再婚したいんだ」「別にいいけど……」継母の娘は超絶美少女でした】

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