第10話剣鬼襲来!!
屋敷の応接室に似つかわしくない鎧姿の男達が数人と、燕尾服姿の紳士が対峙していた。
「よく来てくれた。『
燕尾服姿の家宰のフリッツ・ラングは『
握手に応じたエイスナーはガッチりとした巨漢の大男で、剣を構えてすらいないのに纏う雰囲気に威圧されそうだ。
「『
「判りました。ミスター・エイスナー、ソファーへどうぞ」
一通り挨拶を終えると、ソファーにどっかりと座った。エイスナーは開口した。
「それで、俺達エイスナー傭兵団は何のために呼ばれた? 近頃この辺りではモンスター災害が多いとは聞いているが……」
「御推察の通り、エイスナー傭兵団の皆様には当家の当主が率いる征伐軍に加わって頂きたい……」
「あの『
冷静沈着な姿から『
「現在の戦線は着実にモンスターを押し返しています。
精兵として知られるエイスナー傭兵団を始めとした外部戦力を集中投下することで大幅な前身を狙うお考えのようです」
「判った。協力しよう……だが、俺達は高いぞ?」
「承知の上で御座います……」
執事はそう言うとここからが本番だと言わんばかりに、襟の帯をキツく締めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『
あまり時間もかからず、出て来た彼の姿は旅装束のままだった。
雨風を凌ぎ、ベッドであり毛布であるそんな外套を羽織ったままのそんな姿だった。
「防具は身に着けないんですか?」
「不要だ。俺の剣技は剣と体術で全てを行う、盾や籠手など特定の道具に囚われない。『騎士』の剣ではないだろうがこれもまた実践剣術だ。他人の心配より自分の身を案じ給へ……持てる力の全てを持って勝負に挑むと言い……」
「あなたがそう言うのなら……」
剣鬼の
これが二つ名付きの冒険者の
研鑽により、有効打をアップルヤード騎士から数えて3人目の師にも与えられるようになってきたが、剣鬼と呼ばれる彼には有効打を与えられる気がまるでしない。
『持てる力の全てを持って勝負に挑むと言い』彼の言葉は間違っていなかった。持てる力……その全てを用いても届かない遥か高みにいる存在……それが二つ名持ちの冒険者……
彼は木製の長剣を両手で握り上段で構える……
ただそれだけで俺の第六感が危険信号をビンビンと鳴らしている。木剣を構えるが気を抜けば後ろに後退してしまいそうだ。
「――――くッ!!」
悔しくて柄を握る手に自然と力が入る。
捕食者と被食者。
そう言う絶対的な力の差を感じた故の行動なのだろう。
「良い感をしている。相手との力量さを構えや雰囲気から感じ取れる程度には、経験を積んでいるその年で末恐ろしい才能だ。騎士達が丁寧にその才を扱ってきた事は俺にも理解できる……だが! 丁寧に扱うだけでは原石は磨かれないッ!!」
剣鬼が吠え存在感が風船のように膨らんだ。
実際に大きく成ったわけではない。俺の恐怖心が剣鬼を大きく魅せているのだ。
「やぁぁああああああああああ!!」
八相に構えながら並みの剣士では “消えた” と錯覚するような超加速で距離を詰めその状態駆り出されるのは、剣術の基本であり最強の一撃である単純な『振り下ろし』。
真っ向斬りでも袈裟斬りでも振り方が異なるだけで、上段から剣を振り降ろす。ことに変わりはない。
並みの騎士では剣で受ける事は出来ない剛剣を剣鬼は、体を捻る事で避けると、お返しと言わんばかりに体重の乗った横薙ぎの一閃が放たれる。
が、それも予想の内。最近の剣術を教えてくれている副騎士団長でもこれぐらいは返してくる。
ただでさえ大人の放つ一撃を真正面から防げるほど、膂力も体重もない。相手よりも十分に加速した剣であれば、大人の斬撃とも打ち合えると経験から判っているものの、その差は2対8ほどの大差を付けねば防げない。
本来はそう言う場面にならないように立ち向かう必要がある。
しかし、現状そうはいかない。
“技” で現状を打開するのだ。
磨かれた動体視力と経験で剣の軌道を把握し、完璧なタイミングと力加減で、剣鬼の剣跡上にまるで置くように袈裟斬りからの返す刀で放つ逆袈裟斬りを放つことで、剣の『へ』の字型になった鎬に当てる事で軌道をズラすことで、攻撃を
「意外」とでも言いたげに剣鬼は目を見開いた。
剛と剛がぶつかり合い鎬を削るこの世界において、術理を貴ぶ剣はかなりマイナーである。
なぜなら殆どの場合戦う相手は、モンスターであり高度な知性を持つ者同士の駆け引き前提の技は軽視されているからだ。
だがこの戦闘を観戦している騎士の多くは理解していた。技こそが力で魔物に劣る人類が抗う術だと……
柄頭で剣鬼を殴ろうとするが、騎士剣術から大きくかけ離れた喧嘩剣法由来と思われる虚を突く一撃が背中にヒットした。
しかしそれが何なのか俺には判らない。
ただ見えたのは長い何かが、一瞬でブレただけと言う事だ。
(何が起こった?)
響くような痛みの中、何をされたのか? と思案する……しかし、タダでは転ばない。攻撃された瞬間こちらも柄頭で剣鬼を殴ったのだ。
互いに様子見の攻撃が終わり、一旦距離を取る。
剣鬼の脚を見ると片足のズボンがボロボロになっている。『テケリ』の攻撃を受けたようだ。
(そうか、蹴りを入れられたのか……)
即座に、自身が柄頭で殴ろうと動いたために死角を増やしてしまったのだと理解した。
「加減をしているとは言え悪くないタフネスだ。
だが『もし袈裟斬りを避けられたら?』ともう少し考えた方がいい……今のままの正統派剣術では君の勝利への貪欲な執念と合っていない。もっと泥臭い剣術も学ぶべきだ」
失敗の原因を丁寧に説明してくれる言葉も、痛みのせいでろくすっぽ頭には言いてこない。右から左へ聞き流しているようでもったいない。
痛みに悶えながらも怒りの力で、闘志を滾らせてぶるぶると震え嗤う膝に手を突いて立ち上がる。
唇を歯で切ったのだろう……血の混ざった唾を吐き捨て、一瞬たりとも目を離すまいと思い。相手をギロリと睨み付ける。
「威勢は変わらず、か……」
折角離した距離を踏み込みで詰められ、鋭い刺突がシュルケン目掛け迫り来る。
一歩、踏み込んで自分から剣の間合いに詰め寄る。
(今の俺には、
つまり防戦になれば攻撃の
曲芸染みた回避など要らない。攻撃を逸らす時間を稼ぐそれだけが出来ればいい!
顔から数十センチ横を木剣の切っ先が通過していくのを目で追う……
「防御魔法・改弐式!」
即座に物理防御魔法が発動する。
半透明で半円形の膜のようなものが虚空に展開され “突き” から “切り払い” に変化した木剣を防ぐ。
この改造魔法はシュルケンが編み出した強力な防御魔法で、蜂の巣状の様な
「――――ム゛ン゛ッっ!!」
予想外……とでも言いたげな声を漏らした剣鬼は、獰猛な笑みを浮かべると腕、脚の筋肉が目に見える程隆起し防御魔法に木剣が食い込んだ。
だがもう遅い。
既に俺の間合いに剣鬼を捉えている。
大人と子供で間合いが異なろうともここまで接近していれば取れる手は少ない。
パリン。とまるでガラスや陶器が割れるような甲高い破壊を立てて防御魔法は砕け散り、粉雪のように舞い散る。それはまるで桜吹雪のように……
防御魔法を形成していた魔力がキラキラとした光を放ちながら周囲を舞う。
だがそのような些事にかまけている事は出来ない。
一歩踏み込み、ながら袈裟斬りを放つ。
しかし、袈裟斬りは蹴りによって防がれ、逆に俺が吹き飛ばされる。
「――――ガハっ!!」
威力を殺すために宙返りをして威力を殺すが、追撃の木剣を躱すために片手を地面について軌道を変えつつ空中で、剣を受け流す。
しかし、剣鬼の猛攻は留まることなく下段から上段へと返す刀で逆袈裟斬りが放たれるが、今度は側転に切り替え空中で体を捻ねる事で回避し、地面に着地し腰を落とし木剣を構える。
(流石は剣鬼と言ったところか……手加減しているとはいえ一撃、一撃が鋭く、重い。手がジンジンする……)
「空間把握能力や体幹も十二分だな……視野は広く死角を作るな、そして相手の攻撃を安易に決めつけるな、相手の立場になってモノを考えろ!」
確かにどれも十分に出来ていないことだ。流石、専門の教師として招かれただけあって指導が的確だ。
剣鬼は体制を崩していた俺にアドバイスをした。と言う事はその行為に何かしらの意味があるのだ。
相手の立場に立って考える。
軸となる利き足を蹴りに使い、余計に体力を消費しながら連続攻撃を放った事による休息だろうか? 否、仮にも剣鬼と称される剛剣の使い手がこの程度で息を切らすとは考え難い。別の何かがあったんだ……もしかして、特に裏なく俺へのアドバイスだったのだろうか? そう考えれば、次の攻撃は『死角を作ってくるような意地の悪いものになる』と十分に予想が出来る。
放たれたのは、純粋な上段からの斬り降ろし。
彼の術理のある剛剣に似つかわしくない全てを力で捩じ伏せる剛の技……その一撃を回避する。本気の反撃はしない、反撃すれば本命の廻し蹴りで意識を刈り取られかねないからだ。
テスト問題と同じでコレが来ると判って居れば怖いものはない。
義務的な反撃で、回し蹴りを誘う。
理想的な蹴りを躱し一撃を入れここで攻守が入れ替わる。
体制を崩した状態の剣鬼にたいし、見様見真似の徒手空拳ではなく、特異の魔法を交えた息を付かせぬ怒涛の連撃を叩きこむ。
火、水、土、雷、風、氷、光、闇と様々な属性の小規模魔法を足止めやけん制に用いることで、相手の剣の加速距離を四から六割に留めることで『身体強化』魔法や、風魔法による加速込みのでギリギリ打ち合えるまでになっている。
袈裟斬り、逆袈裟斬り、魔法にるけん制、横薙ぎ、フェイント、逆横薙ぎ――――と縦横無尽に繰り出さす連撃の数々。
袈裟斬りからその遠心力を用いた脚による
そのばでの回転など不格好で奇想天外に見えても、不思議と隙や違和感を感じさせない。
だがそんな怒涛の
俺の
貪欲にこのまま張り付いては、このまま手痛い反撃を喰らいかねない程に体力と精神を消耗している……
しかし、それを見逃すほど剣鬼は甘くない。
往復ビンタのような殴打によって意識は遠退き、やっと防御できたと思えば、それは
手加減しているのだろうが、痛いモノは痛い。
痛みに耐えて体制を整えるために及び腰になれば、「愚か者」と言わんばかりに、連撃が酷くなり逃げ道を封じられ、
……が寸でのところでそれを回避し、お返しに魔法を纏わせた木剣で一閃を放つ……
首筋に氷魔法で形成され刀身の伸びた刃が突き立てられる。
「俺の負けだ……」
刹那。氷の刀身は砕けて消える……
一瞬遅れて、観衆となっていた子守メイドや騎士達の一部が歓喜の声を出した。
雨音のように幾つもの拍手が合わさる音が辺りを支配する。
「勝った! 勝ったぞ!!」
「流石、若様!」
など口々に俺を称賛する言葉を発する中で、ポツリと俺だけに聞こえる声で剣鬼は言葉を紡ぐ……
「手加減をしていたとは言え俺に勝ったんだ君には才がある……平時には役に立たず “枷” にしかならないとびっきりの才だ。
真剣を扱う事に慣れた人間ならば『この程度は避けられる』『この程度なら深手にならない』と経験から理解する。だが君の剣からはそう言った
「俺はそんな大それた人間ではないですよ。俺は生き残りたいだけです。それに、『持てる力の全てを持って勝負に挑むと言い』と言ったのはあなただ。『
テケリに謝るように促すと、防具に化けていたテケリはぐにゃぐにゃとカタチを変え球形のスライムとなって剣鬼に頭を下げる。
「その防具がまさかメタルスライムとは恐れ入った……召喚術の大家は伊達ではないという事か……短い間になると思いますがシュルケン様、俺ヴィルヘルム・ヴァレンシュタインは貴方様の剣の師となりましょう……」
実際の所メタルスライムかどうかは判らいけど……そう言う事にしておこう……
============
『あとがき』
『幼年期編』を最後まで読んでいただきありがとうございます。
読者の皆様に、大切なお願いがあります。
少しでも
「面白そう!」
「続きがきになる!」
「主人公・作者がんばってるな」
そう思っていただけましたら、
作品のフォローと、最新話ページ下部の『☆で称える』の+ボタンを3回押して「★★★」にして、評価を入れていただけると嬉しいです。
つまらなけば星一つ★、面白ければ星三つ★★★
読者の皆様が正直に、思った評価で結構です!
ブックマーク、ユーザーフォローもポチッと押せば超簡単にできます。
多くの方に注目していただくためにも、ぜひ応援していただけると嬉しいです!
誤字脱字報告、気になる点、感想は『応援コメント』へお願いします。
毎日18時頃更新しておりますのでよろしくお願いいたします。
現在新作ラブコメを執筆中で現在四万文字弱出来上がっておりますが、このままではカクヨムコン9に間に合わないため二月か三月頃の連載にしようと思っています。
第1~19話までの合計4万文字弱、現在近況ノートで限定公開中です。
新作のタイトル
【好きな幼馴染がバスケ部OBのチャラ男に寝取られたので、逃げ出したくて見返したくて猛勉強して難関私立に合格しました。「父さん再婚したいんだ」「別にいいけど……」継母の娘は超絶美少女でした】
https://kakuyomu.jp/works/16817330658155508045/episodes/16817330659866009057
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます