第9話お茶会
石材で作られた
周囲にメイドが侍り、お茶やお菓子を配膳している。
「この数年間は凄まじかったですね。エーデルワイス様……」
弟子の言葉に心底同意したのか溜息を付くように、エーデルワイスは強く肯定した。
「本当だよ……」
そう言い白磁器のカップを摘まむと口元に移し一口、紅茶を含んだ。
「私に領軍への魔法指導をまる投げしたうえ、肝心のシュルケン様へは魔法書を渡して読ませるだけの手抜き指導をしていたと知った時は、生きた心地がしませんでしたよ……」
そう言ったハハナの顔は笑っているものの、目は笑っていなかった。
「ハハナと違って読み聞かせはしなかったけど、シュルケン様は文字が読めるんだから必要ないでしょ? それに質問には答えてあげたし……」
エーデルワイスは、いたずらがバレた子供のように段々と声が小さくなっていく……
「家庭教師ならそれぐらいは当たり前と言うか、それ以前の問題です!!」
「まぁまぁそんなに怒らないでよ。小皺出来るよ?」
「(イラ💢)」
「これだから長命種は……」
「まぁまぁ、ハハナがそれに気が付いた時には、魔法史と基礎理論はマスターしていたんだからね、天才だよシュルケン様は…」
悪びれた様子もなく紅茶を口に含むと聞こえないと言わんばかりに焼き菓子を口にする。
「結果論だけで語らないでください!
それに魔力操作の時も全然指導してあげて無かったじゃないですか!」
「ぐっ! でも、魔力操作は段々巧くなっていくものでそんなに直ぐに改善するものじゃないから……」
「それ説明してあげてませんでしたよね?」
「でも魔法書には……」
「相手は子供なんですよ? 覚える・理解する・実感するは全て別なんですよ? 可哀そうに毎日何時間も練習して夜には魔力切れで寝込んでいたんですから……」
「ぐっ! でもそのおかげで無属性魔法の魔力偽装はすぐに習得出来たし、放出量もあの年にしては巧に調節出来ているのよね。
魔力量は天賦の才、放出量は努力の証とはよく言ったものよ」
『魔力偽装』とは魔力の量を偽装するもので、魔法使いにとっては才能とスタミナを偽ることが出来る魔法技術であり、対魔術師戦闘においては必須級とされている。
「確かにそうですけど、魔力量の偽装なんて初見殺しの技直接戦う可能性の低い上位貴族の子弟に本当に必要なのでしょうか?」
ハハナの疑問は最もであるが、学院で鎬を削る事になるシュルケンにとって自分を偽る術は害になるどころか有効な一撃足りえる技術である。
「暗殺対策と対魔術師戦闘では有効だけど、魔法が権威の象徴でもあるこの国ではあまり意味がないかもね……」
「シュルケン様は無茶をされますから……」
「無茶と言えば
「あれって巧く制御出来ないと意識を失うんですよね?」
「その通り、天賦の才を持った人間でもなければゆっくり開けても時間をかけて開けても、シュルケン様の言う通り魔力切れで意識を失うでも無理やり開けた場合は、最悪死ぬ危険がある……」
「……エーデルワイスさま、それ私初耳なんですが」
やば……ハハナには説明してなかったっけ?
まぁいいや、丁度いい機会だし説明してあげようか……
「極めて魔力量が少ないか、逆に極めて魔力量が多い場合に多いと言われていてね……一説によれば魔力というのは生命力……体力とか精神力とかそういうものの混合物なのではないか? とも言われているんだ。からそんなものを大量に消費すれば命に係わる……」
「魔力切れになると気絶するのはそういう理由だったんですね……」
長年の疑問が晴れた。と言わんばかりの表情を浮かべる不肖の弟子……
教本の欄外に書いてあったと思うんだけど……読み込んではないのね……
「その御蔭で早く魔法を使う練習に移れているんだから、シュルケン様の判断は凄いよ……本当に子供? って言いたくなるレベル……」
「確かにシュルケンさまは、口調も大人びていらっしゃいますし頭もよろしいのでそう言いたく気持ちは十二分に判ります……」
「確かにモノ判りがいいよね……基礎魔力量を増やすと言われているトレーニングと、我らマルセリス派に伝わる増強薬も理由を話せば直ぐに受け入れるし……」
「増強薬ってアレですよね? 苦味、酸味、渋み、えぐ味が舌を刺すように踊り出し、飲み込めば強烈な青臭さと生臭さが鼻を抜ける……」
「……そう、失敗作の
私も、ハハナも効果は実感しているけど継続して飲むのは勇気がいるよね……」
「はい……」
「シュルケンさまは、効果を説明したことがまずかったのか珍しく鬼気迫る顔で『本当なのか? 嘘だったらただじゃ置かないからなっ!?』と言ってゲーゲーしつつも飲んでるんだよね……」
「御当主様自らかモンスターとの戦闘に向かっていることが影響しているのでしょうか?」
「多分ね……御家流の召喚魔法で呼び出したのが、特異な個体とは言えどスライムだから、せめて出来る事をして貢献したいんじゃないかな?」
「健気ですね……姉弟子として私も頑張らないと……そう言えば今日ですよね? シュルケンさまの新しい剣の先生が見えるのは……」
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