第8話side回属性魔法鑑定官

 国旗を掲げた馬車が数台、未舗装の田舎道を軽快な音を立て走る。中でも精巧な細工を施された豪奢な馬車は、その周囲を幾人もの板金鎧プレートアーマーの騎兵によって警護されていた。


 旅の始まりと異なり、現在周囲は一面金色に輝く麦畑が広がる長閑な田園風景へと変っていた。


 そんな中、ガラス窓に顔を近づけたうら若い女性がそんな車窓風景の感想を述べる。


「見事な田舎の田園風景カントリーでございますね」


 向かいの席に座っているドレス姿の少女は返事を返す。


「ええ、とても落ち着く景色ね。

貴族は王都と領地の往復なんかに時間とお金を使うんじゃなく、もっとこういう所にお金と時間は使うべきよ。

まぁ今一番の無駄はこの私の移動時間ね。」



 従者の女性は、主の少女に対して呆れたと言わんばかりの表情でこういった。


「また文句ですか? 今回の相手は大貴族ベーゼヴィヒト家でございます。重ねて申し上げますが、失礼の無いようにお願いしますよ。」


「……善処しましょう……」


「はぁ……」



―――亜人を差別するこの国に置いて、例外的に特権を与えられている種族が存在する。

 一つは、ヒュームでは扱う事の出来ない希少金属を加工することが出来るドワーフ族、もう一種族は森の賢人とも称され魔法と弓に長けたエルフ族である。


 今回の『属性魔法鑑定官』に任命されているこの少女エーデルワイス・フォン・マルセリスは、エルフ族との混血児である。

 流石エルフの血筋ともいうべきか、彼女は魔法武官としても魔法研究員としても卓越しており、指導者としも名を馳せている。


 現在の従者のハハナも彼女の弟子のひとりである。

そんな訳で今回公爵家に乞われ魔法の家庭教師として派遣されているのである。


「ねぇハハナ? 私、仮にも宮廷魔法師なんだけど……なんで家庭教師チューターとして派遣されてるんだろ……これって左遷ってこと?」


「まぁまぁエーデルワイス様、表向きには『正式な魔法属性の鑑定』と『ベーゼヴィヒト公家魔法兵への魔法指南』が目的ですから……魔法省では出世も左遷もありません。一度は、貴族の子息へ魔法を教えに行くのですから……仕方がありませんよ」


 そう言って師匠を慰める。


「研究室を作る為に資格の一つとして習得した『魔法属性鑑定の魔法』がここに来て自分の首を絞めるとは……私もつくづく運がないわね……」


「エーデルワイス様は運がないのに賭け事がお好きですからね。今回のお仕事も、魔道を極めるという目的に付随してきた災難と言えるでしょう……」


 弟子の一言に「うぐっ!」と短いうめき声を上げ意気消沈する。

 それれを見て何とか「励まさねば」と思った弟子は言葉を探した。


「【万能】のベーゼヴィヒトと称される公爵家なのですから、魔力保有量や属性もきっと優れているのでしょう。二重、三重適正は当たり前かも知れませんよ?」


「確かにそうね。でも適正があるだけで実用の値しないってこともあるわよ。ほら第六騎士団長のヨハネス殿は火、水、風の三重適正だったけどまともに扱えたのは、ほら火と風だけだったじゃない。」


「確かにそのように伝え聞いてますが、十数年前の話をついこの前感覚で話さないでくださいね。

こほん、実際適正を(効率を)無視すればある程度の適性外魔法でも使う事はできますからね、ただ実際労力とメリットが釣り合わないので一般では着火程度の火や口を湿らせる程度の水までしか取得しませんからね。」



「そうなのよ。だから過剰に期待しても仕方がないのよ……」


「希少な上位属性……例えば『氷』や純粋に使いての少ない『光』、『闇』、『聖』属性であることを祈りましょう……」


「……その方が面白くていいね……そしてそれが最適性であればなおの事いいよね……」


  そんな事を語りながらも馬車は田舎道を走って行く……


………

……


 目的地に着き、泥除けの付いた昇降台ステップに足を掛け弟子の手を借りて下車すると、私達を迎えるために使用人がズラリと整列している。


「マルセリス様。お忙しいところ我が主、シャッテン・フォン・ベーゼヴィヒト様の御招きに応じて頂き誠にありがとうございます。「今日の所は旅の垢を落され、疲れを癒されると良かろう」と主より言伝を頼まれております」


 家令と思われる老紳士はそう言うと、後ろに控えた執事達は「お荷物をお預かり致します」と言って旅行鞄を抱え客間に運んでくれるようだ。


「正直言って助かるよ。公爵領へは馬車でもかなりの時間が掛かるから座っているだけでも疲れるよ……」


「え、エーデルワイス様!!」


 弟子のハハナが口を挟むが関係ない。


「それで公爵閣下と、公子様は何処へ?」


「領内外問わずモンスターが活性化しておりましてその対処のため近くの街へ自ら出向き指揮を執られております」


「旅から時間が空いているのであれば、是非ベーゼヴィヒト公爵家の秘伝魔法を拝見したかったですが仕方がありません」


「……では湯浴みの用意が出来ましたらお声がけを致しますのでそれまでは客間でお寛ぎください」


 そう言うと私たちは部屋に案内され旅の疲れを癒した。


翌日。


「この時間ですと若君は、剣を振るっている事でしょう……ご案内いたします」


 案内約のメイドはそう言うけれど、二桁にも成っていない子供が自ら進んで武芸を学ぶとは思えない。


「よろしくお願いします」


 そう言って案内された場所では中年騎士と五、六歳程度の少年が木剣で斬り結んでいた。

 中年騎士は明らかに力だけは抜いているが、その顔付きは真剣そのもので互いに隙を伺い鍔迫り合いバインド状態に成っている。


 少年は爪先で砂を蹴り上げる。

 が、足を地面から離した事で態勢が崩されてしましい後ろに倒れる……かに思われた。

 触手のようなモノが背中から伸び少年を受け止めながら移動させると腕の内側に鋭い横凪が入った。


「シュルケン様! 『テケリ』を使っては自力が伸びないと言ってるじゃないですか? 次はテケリを預けてからです」


 テケリと言うのはあの触手の事だろう? 魔法……否、モンスターだろう。何せここはベーゼヴィヒト公爵家、その直系男子が召喚魔術を習っていないとは思えないからだ。


「おや、客人ですか……」


「お初にお目にかかります。宮廷魔法師のエーデルワイス・フォン・マルセリスとその弟子のハハナ・グレンヴィルと申します」


「シュルケン・フォン・ベーゼヴィヒトだ。こっちは副騎士団長のジンネマンだ。それでエーデルワイス殿が細かい魔法属性を判断してくれるとのことで間違いはないか?」


「その通りでございます。先ずはじめに説明させて頂きますと、今回の魔法鑑定は属性の才覚を計るものであって、事前に受けていただいた適正から変化することは御座いません」


 『属性魔法鑑定官』を誤解している貴族の子弟が多いので商人のように、事前にアレコレ説明をしなくてはいけないとは実に面倒だ。


「理解しているつもりだ。複数属性に適正が存在する場合の得意度合を教えてくれるだけ。と言いたいのだろう?」


「その通りでございます。またよほど低い適正以外の場合は身分に関わらず魔法を学んで頂きます」


「当然だろうな……」


「では【鑑定】に移らさせて頂きます……ハハナ手伝いなさい」


「はい」


 宮廷魔術師中でも三割数程度のモノが使用することが出来る魔法こそが、属性鑑定の魔法である。

 軍用魔法や魔法道具に類似物はあれどもどちらも、希少性や精度に欠けるため精度と汎用性に優れる属性鑑定こそが支配的なのだ。


 ハハナに手伝えとは言ったモノの、実際に魔法陣を描くのはハハナである。

 今回の転属でハハナを鍛えようと考えたからだ。


 空中には魔法文字ルーンが浮かび、それを主として力を分散させるための円陣、そして幾栄にも重なる円陣を繋げる役割を持った幾何学文様が描かれる……


(循環は優秀だけど展開速度が遅いわね……)


 今回はあくまでも補助だと自分に言い聞かせ弟子の術を見守る。


「最適性は、『闇』『無』次点で『聖』、最も低いものが『水』です」


………

……


「最適性は、『闇』『無』次点で『聖』、最も低いものが『水』です」


(やっぱり適正が原作と違っている……)


 原作の悪役貴族シュルケンくんは、『闇』属性がメインの魔法よりの万能キャラクターで回復で『聖』属性、槍などの物理攻撃に『水』を変化させた『氷』を混ぜる程度のキャラだった。

 腕力が無いのか苦手としている武器もあったが、特訓で使えるようになるという努力の悪役だった。

 

「闇属性か……」


 俺の呟きを訊いて、残念がっていると勘違いしたのか、ハハナと言う少女がフォローしてくれる。


「闇属性は、光属性以外に有効で強力で特殊な効果を持つものも多い。と言われています無属性も燃費が悪いですが優秀な属性ですからあまり気負い過ぎない方がよろしいかと……」


「気遣い感謝する……」


 こうして俺の魔法の得意、不得意が判明した俺は魔法の訓練を本的開始するのであった。

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